2008年07月20日「新宿駅最後の小さなお店ベルク」 井野朋也著 P-vine Books 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「どちらになさいますか?」
 「えっ?」
 「白が上か、黒が上か?」
 なるほど。そういう注ぎ方もあんだ。いままでだれにも聞き返されたことなかったもんで・・・。なにがって? ビールのね、ハーフ&ハーフの注文なの。

 たしかに白が上、黒が上では見栄えが違うわな。もち、味も。おいおいおい、なんてクリーミーな泡なんだよ。この細やかさ。札幌のサッポロビール園で飲んだビールと変わんない! てことで、結局、2種類のハーフ&ハーフを飲んじゃったわけだけど。

 えっ、五穀米と10種野菜のカレー? 手の込んだメニューもあんだな。つまみ豊富。喫茶店のくせに朝からビールが飲めるのもご機嫌だぜ。


きれいなコーヒーですな。

 ま、今日は暑いからビールにしといたけど、日本酒とかワインもあんのか。なかなかいい銘柄入れてんじゃん? こんなちっこい店なのに、なかなかやるじゃん。


ハム、ソーセージ、パン・・・食材の選択でも「いい仕事」してまっせ。

 なんて店? Berg? ベルグ? バーグ? ・・・ベルクって読むのか。意味は? ドイツ語で「森」。ま、オーストリアのシェーンベルクちゅう作曲家の名前なんだけど。

 それが私とベルクとの最初の出逢い。10年ちょっと前。新宿駅東口徒歩数歩。15坪足らずのくせに1日1500人も来てる。

 私が好きな喫茶店は元町の「無」。窓ぎわの明るいテーブルとちがって、いちばん奥は木組みの大きな角テーブル。で、ランプが点いてる。落ち着けるわけ。
 7人くらい座れるんだけど、たいてい、だれもここ使わないの。で、私が打ち合わせとかインタビューで使わせてもらってるわけ。版元や新聞社の連中もよく知ってる。これが縁で日経のWebで紹介されちゃった。

 新宿じゃベルクだろうね。

 「わざとらしい香りのする酒はイヤ、薬品の匂いのするパンはごめん。自分たちの味覚や嗅覚に忠実になりたい」
 
 コーヒーもこだわってます。つうか、コーヒーがいちばんなのよね。気候やエイジングで豆の配合、曳き具合、粉量、蒸らし時間も変える。水からして違う。北海道羊蹄山の水。コーヒー豆を1日浸けて送り返してもらってる。

 元々は親父さんがここで純喫茶をしてた。手伝わせてもらおうとしたら断られちゃった。「売れる店」をつくると約束。

 昔、脱サラといえば喫茶店経営と言われた時代があったね。けど、いま、喫茶店経営で成功するなんて奇跡。まわり見りゃ、大手チェーン店が幅きかせてるんだからさ。
 でも、成功。「こだわり」というのはベルクみたいな店のためにあんだろな。

 成功の条件てなんだろ?

1未経験(現場の感覚やしきたりにとらわれ過ぎてもダメ)。
2同志の存在(相方がいるよね)。
3助言(耳をふさぎたくなるような意見のこと)。
4多額の借金(もう後には引けないわな)

 そうか、そういうことか・・・ここまで断言するまでには知恵と汗、たまに涙も流したんだろうな。でないと、こういう言葉は出てきません。コンサルタントや経営評論家はもっとスマートだもんね。

 久しぶりにビジネス書読んだな。タイトル倒れ、羊頭狗肉、売り方ばかり巧い本が多いからね。
 小さな出版社がそっと出した良心的な本。著者は店長さん。ここまで正直に出していいの? 「真似できるもんならしてごらん」という自信が伺えますな。
 久しぶりに地力のある本と出会えた。ビジネス書は年間300冊くらいチェックしてると思うけど、いまのとこ文句なく1位。自分の本は? ありゃ書くもので読むものではございません。300円高。