2008年08月22日「町奉行日記」 山本周五郎著 新潮社 700円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 まぶしい日差しも、日を追うごとに少しずつですが優しくなってるような気がします。
 女子ソフトボールは念願の金。「勢い」というのはすごい力ですな。
 実力がなければ話にならない。けど、実力があってもこれまた話にならない。人間の力以上に「勢い」を味方につけられるかどうか。勝負師であればあるほど時の運に従順であることもみわかるような気がします。

 さて、山本作品の中でも痛快な読み物ですな、これは。教訓じみた話はありません。大衆小説らしい作品といってしまえばそれまてですけど、いつもながら、すべての人に優しい目配りをしていることが伺える一作です。

 映画にもなってます。勝新太郎さんのもあれば、役所広司さんのもありますな。
 元々は、市川崑・黒澤明・木下惠介・小林正樹という名監督による「四騎の会」で脚本化され、まあ、いずれ映画化することになってたわけですけど、なんとかクランクアップしたのが2000年。ようやく、市川監督によって公開にこぎ着けたというわけですな。


スピーディな映画ですな。市川監督はエンタテイメントは巧いね。

或る小藩。まあ、藩の財政のために「堀外」と呼ばれる不逞の輩と組んで一儲け。
 取り締まるべき町奉行は何人も辞職する始末。この堀外というアウトローの人間たちを一掃することなんてなかなかできないわけですよ。

 藩にとっても、大切な収入先ですからね。「必要悪」と考えて目を瞑って来たわけですな。

 そこに江戸屋敷にいる若い殿から白羽の矢が当たったのが「どら平太」。
 この男。腕はめっぽう強いけれども、ちと立ち居振る舞いが武士らしくない。アウトローにはアウトローで対抗する、という作戦なのかもしれませんな。
 
 で、町奉行にはなったものの、奉行所には結局、出ずじまい。

 この間、壕外に出かけていっては、毎晩、女をあげ、酒を食らい、博打を打つ。とうとう3人の親分のうち、2人と兄弟盃を交わしちゃう。
 とうとう、この親分たちの子分にも慕われる始末。

 どら平太の命を狙う大親分も片っ端から子分をやられては手も足も出ない。で、とうとう観念しちゃう。
 3人を死罪にすることは簡単だけど、巨悪は藩の重職の中にいる。これを一掃しなければ話にならない。

「動かぬ証拠が欲しい」
「あっしたちもバカじゃありませんぜ。そんなものは焼いちまう」
「なら、もう一度書け」
「・・・」

 証拠を握ったどら平太は藩を傷つけず、だれも傷つけず、四方を丸く収めます。まあ、現実にはあるわけない話だけど、強い人ほど優しいということが伝わってくる作品ではありますな。300円高。