2008年10月13日「世界認識のための情報術」 佐藤優著 金曜日 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

「週刊金曜日」に連載された原稿をまとめたもの。著者は「外務省のラスプーチン」と異名をとり、「背任・偽計業務妨害容疑」という国策捜査で逮捕・訴追され、現在、上告中の身。

 一連の事件がなければ、メディアデビューもなかったわけで、そうなると、これだけの論者をあのどうしようもない巣窟で飼い殺しにすることになったかもしれません。人生、何が幸いするかわかりませんな。

 さて、アメリカが北朝鮮を「テロ支援国家」指定から解除しましたね。
「1つの方法である」と麻生さんは高く評価。拉致被害者の皆さんは「これで元の木阿弥」とガックリ。拉致議蓮の平沼会長は「テロ支援国家と認識。解除すべきではない」と発言。たしかにそうです。

 麻生さんはいつだって官僚の味方ですからね。外務省のアドバイス通り、アメリカに対しても北東アジア周辺についてもクレームをつけたりしない。
 サブプライムでどれだけ援助しなければならないかわからないのに、簡単にアメリカの判断に追随してしまう。もっと日本の立場を鮮明にしなくちゃ。言うべきことをいわなくちゃ。

 元々、北朝鮮問題とイラン問題は密接に結びついてるわけ。彼らはミサイル開発で特殊な協力体制を構築してるからね。イランの「シャハブ3」は「ノドン」のコピー。イランは日本からのODAや民間投資を民生部門に回し、浮いたお金で核兵器やミサイルの開発をする。これが回り回って北朝鮮へと流れていく・・・という仕組み。

 この点を徹底究明せんとあかんのだが、いまの外務省の能力では不可能。だから、やらない。
 なぜやらないか? やって失敗したり成果を上げられないと評価が下がるから。ならば最初から手をつけない(これ、官僚用語で「不作為体質」と呼ぶ)。
 ここらへんが偏差値エリートのゆえん。子供の頃から「簡単な問題から片付ける」「無理難題には手をつけない」という受験ノウハウが骨の髄まで染みこんでますな。

 ところで、北朝鮮の核開発・核実験については中露もおかんむり。クレムリンでは「韓国による北朝鮮併合のシミュレーションを始めた」という。事実、一連の核実験について、従来のような「お仲間擁護」の発言を一切してまへん。

 北朝鮮にとって怖いのは、アメリカでもなければ日本でもなく、実は中国・ロシアなのよ。逆鱗に触れたが最後、いつでも体制を換えられちゃう。それだけのパワーを持ってるもの。

 ただし、いざとなれば、北朝鮮は韓国とも日本とも戦争する覚悟はあるはず。
 最終的に、政治力・外交力は覚悟の有無で決まるもの。地球上でいちばんパワフルなアメリカ相手に、なにもない日本がいい勝負をしたのも「覚悟」があったから。
 あの戦争はミッドウェーのドジな戦術から転けちゃった。「不適材不適所」という官僚人事で勝手に負けちゃった。いわば、軍事官僚主義で日本は滅びたわけよ。

 今後、「弱者の恫喝」は思ったよりも効くぜ、と味をしめた北朝鮮は頭に乗るはず。その微妙なミスすが命取りになる。300円高。