2009年01月07日「金融大崩壊」 水野和夫著 NHK出版 735円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 日経web連載の「社長の愛した数式」は連日15万人のアクセス。日経記事中ダントツの人気コラムです。本日更新のテーマは「パナソニックの為替マリー制度」。ここだけの話がテンコ盛り。ぜひご一読くださいませませ。


 「アメリカ投資銀行株式会社」と「日本輸出株式会社」はコインの裏表。金融危機以降、NYダウより日経平均株価のほうが下落率が大きいと思うけど、「ドル建て」にすると株価推移はまったく重なるチャートを描くことができる。
 
 ところで、アメリカ投資銀行株式会社の「創業」は、1995 年のルービン財務長官(当時)から始まる「強いドル政策」から。で、08年の9.15事件=リーマン・ショックで閉店ガラガラ。

 95年以降、グローバル化が進むと資本が自由に移動するようになりましたよね。すると、いままでなら貯蓄等でそれぞれの国内に留まっていた(滞留)マネーが国境を越えて(ボーダーレス)いきました。
 バブル崩壊後、投資先に困っていたジャパンマネーはもちろん、アジア通貨危機以後のアジア諸国からも、アメリカ投資銀行株式会社にマネーが流れていきました。

 貯蓄としてならGDPの6〜7%。これがアメリカに投資されると、レバレッジがかけられ何十倍にも膨らむわけ。
 で、それを担保に借り入れたマネーが外国投資へと環流された結果、英国、スペイン、アイスランドなど、ヨーロッパに流れ着いたマネーによって住宅価格は急上昇。アメリカ以上の上昇率でしたよね。

 貯蓄残高が少なくても、貯蓄を持っている人(国)から資金を集め、さらにレバレッジを効かせて膨らませればリターンは莫大なものになります。

 このレバレッジって投資銀行の専売特許のように思われてますけど、日本のごくごく普通の金融機関だってやってることなんですよ。
 ほら、BIS規制ってあるでしょ? 国際金融をするには普通銀行、都市銀行は自己資本比率8%以上ないとダメよ。国内でも4%以上ないと信用できないからやっちゃダメ、というルールですね。
 いま、欧米ではかつての日本のようにものすごい貸し渋り・貸し剥がしが展開されている理由の1つもこの比率から陥落したくないから。つまり、金融機関はわずか8%しかないのに100%分=12.5倍もの商売ができる。これ、レバレッジですよ。

 投資銀行はこのルールの規制を受けない。ならばガンガンやろうぜ。てなわけで、30〜40倍のレバが常識です。

 たとえば、100万円の自己資金ならば、20倍のレバで2000万円を運用できます。利回り4%だとと2000×0.04=80万円。
 100万で80万のリターン? こりゃすごい。もち、1900万円は借入だから利息を払わんとね。たとえば、3%の支払いコストなら57万円。相殺すると23万円。
 つまり、100万円に対してレバをかけるだけであっという間に23万円抜けるわけ。23%の利回りでっせ。こりゃ笑いが止まりませんわな。
 こうなると、「もっとレバかけたいんだけど」と考えるのが人情。エスカレートするのは目に見えてます。

 で、この笑いが凍り付くわけ。4%の利回り予定がマイナスになったら? 20倍のレバだとマイナス80万円。利息が57万円。トータルはマイナス137万円。真っ青になりますわな。

94年以前のアメリカは、資金流入はせいぜいGNPの2.4%。それが95年以降は8.3%にまで増えます。なんと3.5倍ですよ。これに30〜40倍のレバをかけるんですから、結局、100〜140倍の金融資本をアメリカは使ってきたわけ。
 こんなに投資すれば、そりゃNYダウも住宅価格も上がるわけですよ。
 「金融工学」という名の下にこれだけの資金を集めた。この無から有を産む錬金術はお見事ですな。

 さてさて、ところで、いったい、だれがこんなことを考えたんでしょう?
 そりゃ、もちろん、クリントン政権のルービン財務長官でしょ。元ゴールドマンサックスのCEOですな。だって、このやり方、投資銀行そのものだもんね。
 つまり、アメリカは投資銀行の運用法をそのまま経済政策として導入したってわけです。こうすれば、世界中からマネーを吸い寄せられる。製造業を捨て、金融大国・IT大国の両輪で生き抜くしかアメリカの未来はない・・・と考えてれば当然の帰結でしょう。
 当時、ドル安円高でアメリカは苦しんでましたから。なんとか強いドルに転換したい・・・というのがこの人の狙いでしたからね。

 で、もう1人。この人と仲良く二人三脚で経済運営をしてた人物がいますよね。
 毎朝テニスクラブで一緒にプレイして、シャワールームで30分間話し込んでた人物・・・アラン・グリーンスパンです。「FRBで史上もっとも協力しない元議長」といわれる人ですな。

 「住宅価格が上がってる時に、それを抑制するようなことは民主主義の社会ではできない」
 一見、ごもっとも。けど、これは一国の中央銀行の責任者がいうことではありません。なぜなら、中央銀行の最大のミッションとは物価の安定でしょ。
 「FRBの役割というのは、みながパーティで盛り上がっているときに、さあお開きですよとパンチボウルをさっさと下げることだ」と言ったのはウィリアム・マーティン(1951〜70年までのFRB議長)でした。

 クリントン&ブッシュの財務長官はいずれもゴールドマンサックス出身。「金のことは任せるよ」と丸投げしたんでしょう。
 いずれにせよ、アメリカは明確な意思を持って金融バブルを巻き起こした。つうか、金融バブルがなければ、アメリカはそこらへんの普通の国だもんなあ。300円高。