2009年01月15日「千載一遇の大チャンス」 長谷川慶太郎著 講談社インターナショナル 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 いやあ、日本時間の深夜にダウはいきなり300ドル下落。しかも、1ドル89円に張り付いたままの円高。
 「こりゃあ日経平均株価は前場から荒れるぞ」と思った通りの展開。8000円割れを徳俵で親指だけで「残った残った残った」という取り組みですな。朝青龍の連日の取り組みのようですよ。

 さて、リーマンショック以降、デフォルト寸前のアイスランドがIMFに融資を依頼しただの、支援はいらないだの、二転三転してますが、いったいどうするつもりなんでしょう。

 あんだけ高利で回す約束してたのに、あっという間にそのビジネスモデルが崩壊。銀行はすべて国有化。
 で、いま、英国やオランダとの間ですったもんだしてるのは、自国民の銀行口座は封鎖してないのに、外国人の口座を封鎖。自国民の「預金保護」は保証してるくせに、外国人の場合は「預金反故」。

 「これじゃあんまりだよ」と英蘭は非難してるってわけ。で、21億ドルというIMFとの緊急融資合意後もぜんぜん実行に移されていないのです。
 ま、英国はIMFのスポンサーだからね。

 さて、長谷川慶太郎さん。この方とはいろんな接点がありまして、以前、勤め人をしてたときにもインタビューさせてもらったり、本を作らせてもらったりしてました。
 頭が実にシャープ。元々、軍事評論家になりたかったみたいだけど、それじゃ食えないってんでエコノミストになった人だからね。

 なによりも現場主義。徹底した取材主義。ここがそこらへんの評論家とちがうとこかな。

 元々、経済誌の版元にいたからよ〜く知ってるけど、テレビにレギュラーで登場してる「エコノミスト」といっても、新聞記者出身の連中など、別に統計をチェックしてるわけでも企業を取材してるわけでもなくて、たんに新聞をかき集めてそこから情報を組み立てているだけだもんね。
 ま、これはこれで自分なりの経済知識で分析できればいいんだけど、金融と経済はちがうからね。まして、投資はぜんぜんちがう。 

 その点、この人はいまだに技術の現場に出張ってモノを見てる。で、関係者から確度の高い情報を仕入れている。だから、生き残ってるんだと思う。

 エコノミストというのは定期的に連載したり単行本を出版してないとあかんのよ。版元からお呼びがかからないということは、切れ味がなくなった証拠。そういう観点で眺めると、テレビでご活躍の「エコノミスト」たちでも賞味期限切れの人がたくさんいます。
 どうして、いまだに出演してるのかわからない。事務所の力か、プロデューサー等との人間関係かのいずれかでしょうな。
 どちらにしても、こんなエコノミストを出演させているようでは、番組の信頼性も底割れするというもの。4月の改変期にチェンジしなけりゃあかんで。

 さて、長谷川先生ですから、ポイントはいつもの通り。「日本は大丈夫」「日本株は買いです」「ドル基軸通貨は揺るがない」「米ドル無しには貿易決済はできない」とのご託宣は永遠です。
 
 1996年夏、第一次橋本内閣のとき。
 一連の大手金融機関、とくに北拓、長銀、日債銀、山一等々の経営が深刻で、「これはバブル破裂は避けがたい」という認識に立ち、長谷川先生は竹下登さんのとこを訪ねるわけ。
 説明を聞くとピンときた竹下さん。「昭和2年の二の舞はしちゃいかんな」と言うや、当時、新進党代表で政敵だった小沢一郎さんのとこに電話するのよ。で、国会で政治問題にせずうちうちに解決しようと提案するのね。

 政治の与野党の最高幹部が危機に対して共通の認識を持つことって重大なのよ。
 いま、サブプライム関連でいちばん被害が少ない日本がこんだけ直撃されているのは、1に円高不況、2に北米偏向型輸出ビジネスからの脱却が遅れたこと等にあります。

 けど、なんといってもいちばんの責任は「政治の信頼性」がないことにありますね。いわば、官製不況ですよ、これは。

 一部のエコノミストに言わせると、これは米国発金融危機が引き金であって、構造的な不況であって、麻生政権にはなんの責任もない。だれがやっても同じだ、というけど、私はそうは思いません。

 「2兆円配るけど、3年たって景気が戻ってたら税金上げるからね」というセンスの無さがすべてを物語っています。
 「責任政党としていい加減なことは言えない。国民にも言わなければならないことは言う」と反論してますけど、景気が戻ったのにどうして増税する必要があんのよ? 好景気=税収増でしょうが。 
 それよりも、下手に増税したらせっかくの好景気に冷水をかける結果になりますよ。このバカさ加減が日本の実力を7掛けくらいに減らしているわけです。 
 
 日本の改革は、実は公務員改革にあります。なぜなら、最大のムダの象徴ですからね。

 その前に・・・。「派遣切り」云々で大企業は悪い、という論調が跋扈してますけど、正社員がいるから派遣を切らなくちゃいけないという現実を考えなければいけません。
 今日から実質的な春闘が始まりましたけど、「ベア4000円」を連合が要求する余裕があるのかどうか。雇用を確保するだけでもいっぱいいっぱいじゃないかな。

 オール労働者という観点から見れば、組合員(正社員)のベア要求より派遣、パート、バイトも含めた「雇用確保」が最優先ではないの? 
 「いやいや、彼ら労組員じゃないしね。うちの担当じゃないもの。それに組合費もらってないし」
 たしかに連合にとっちゃ、テリトリーを超えるテーマなわけ。けど、労働環境が変わらなければ、いずれ正社員の賃金を削ってでも派遣、パート、バイトの賃金、社会保険等の労働コストを吸収しなけれはならなくなると思うな。経営側はすでに計算をしているはず。

 でだ、この問題が一息ついたら、次のテーマは公務員改革へと一挙に移ります。
 公務員にはきちっとした身分保障があります。つまり、解雇されることがない。
 ゲンキンな学生は不況になると公務員になりたがる。情けない限りですが、まっ易きに付くのは無理もありません。定年まで生活は保障されてるわ、競争も進歩もなく旧態依然でもぬくぬく生活できるわ。こんなに楽な職場はそうそうないでしょうな。

 で、小泉さんは郵政民営化をして、公務員を民間に変えた。つまり、公務員をカットするには、役所を1つ丸ごとつぶしたほうが早いのよ。たぶん、これからそうなります。1人2人ではなく、社保庁を消滅させて民営化する。
 空いた椅子を若い労働力で補う。これがホントの「ワークシェアリング」じゃないかな? 300円高。