2009年02月12日「貧困ビジネス」 門倉貴史著 幻冬舎 777円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

「貧困ビジネス」ちゅう新事業があったのね。
 貧困層や低所得者層を対象にしたビジネスのことで、最近、ちょくちょくテレビでお目にかかるNPO法人自立生活サポートセンターもやい事務局長の湯浅誠さんが命名したとか。

 しかし、これ、どんな商売があるか理解しとかないと、引っかかる人、多いんとちゃうか。ぼんやりしてると、貧困じゃない人でも引っかかると思うよ。それほど微妙。つうか、お見事。

 たとえば、敷金0・礼金0・仲介手数料0をうたい文句にした「ゼロゼロ物件」。
「おおう、ぜ〜んぶ0かいな。そら便利や。わしも利用させてもらいまっさ」とだれもが考えると思う。けど、これが罠なんだと。

 たしかに0なんだけど、美味い話には裏がある。なにかの拍子に1日でも家賃が遅れるとしましょう。するとどうなるか? 突然、夜中に合い鍵でズカズカと入ってきて、「すぐ出て行ってくれ!」と強要されるわけ。鍵を換えられちゃう。ホントに追い出されちゃう。
 で、部屋に入りたければ鍵代と違約金を払わないとダメ。そりゃ荷物とかいろいろあるだろうし、なんつってもパジャマじゃなにもできんわな。まして真冬なら凍死しまっせ。

 なんとか工面して払おうとしますな。ここがポイント。ここで儲けるワケよ。

「えっ、そんな横暴なことできるのか? 借地借家法は貸し手よりも借り手保護のはずだよ」

 その通りです。優位に立つ貸し手よりも借り手保護の精神で成立してます。けどね、それは借地借家法の世界だから。この「ゼロゼロ物件」の賃貸借関係は「施設付鍵利用契約書」となってるわけ。これが小さく、あるいは普通に契約書に書かれてるわけ。これが彼らの手なのよ。

 普通、そんな契約になってるなんて知らんわな。知らないのは無知なるがゆえ。ずる賢いヤツというのは、そういうとこにつけ込むのがとっても巧いのよ。

 いいですか、法律は万人を守りません。法律を知ってるヤツだけを守るのよ。つうか、法律の抜け穴を知るヤツのつお〜い味方なの。これ、覚えておきましょう。 

 しかし、巧いこと考えましたな。
 というのは、このビジネスは貧困層を対象に実によく練られた商売だと思いますよ。

 だって、お金のない人(実は私もそのように妹から言われてるし否定はしません。けど、私よりずっと貧困層が対象なのね)は敷金・礼金・仲介手数料を払う余裕がありません。だから、この手の売り文句に引き寄せられちゃう。「なんとまあありがたいことで」と契約しちゃう。
 この段階までは業者は善意の人。けど、内心はしめしめと思ってる。

 なぜなら、お金のない人ってそのうち資金ショートしちゃうから。
「今月厳しいなあ。家賃振り込むの来週にしちゃお」と勝手に決めちゃう。ないもんは払えないもんねえ。 
 実は業者はこの瞬間を待ってたのよ。「それいけえ!」ってなもんで、夜中に押しかけるわけ。ドッキリじゃないかんね。で、違約金その他で儲けるつうわけ。

 お金のない人=貧困層の行動パターン・心理パターン、すなわち、習性を熟知した人が考えたビジネスモデルなわけね。
 たとえば、同じことをお金持ちにしてごらん。家賃なんか毎月定期的に振り込んでくるから甘みなんかありません。「3年くらい前払いにしようか」なんてね。
 つまり、はなから貧困層に狙いを絞って、契約を破ることを待ちかまえてるビジネスなのよ。平たく言うとゴキブリホイホイに近いんかなあ。
 
 さて、敷金0・礼金0・仲介手数料0と来たら、貧困層にとって次に甘い蜜は「保証人」でしょう。 
 だれだって貧乏人の保証人なんかになりたかない。だって、家賃払わなかったら保証人がかぶるんだよ。嫌だよねえ(うちの妹だって私の保証人になるのホント嫌がってたもん)。

 すると次に「保証人ビジネス」が登場するわけよ。これはゼロゼロ物件の延長線にありますな。
 
「そのアパートに住みたいんですけど、保証人がいないんですよ」
 わけありなんだろね。貧困層だもの。
「平気平気、うちでご紹介しますよ」
「え、保証人を?」
「はいな」

 家賃保証会社なんてのがあるわけ。ニーズあればシーズあり。
 問題はこの家賃保証会社が法外な「違約金」を要求してくるわけ。払えないと入居者を追い出しちゃう。
 これも借地借家法は適用されません。だって、結ばれているのはたんなる保証契約だもん。

 もち、入居者がきちんきちんと家賃を期日までに払ってればなんの問題もありませんよ。けどね貧困層です。支払いが厳しいときが出てくるんです。
 で、彼らはその瞬間を待ってるわけ。「よし、かかった。それいけえ」てなもんですな。釣り堀みたいなもんちゃうか。

 こういう売り文句にかかってくるヤツは必ず資金ショートするに決まってる。そのときを待つんやで、ということですな。

 どちらが悪いと思います? 家賃を期日までに払わない貧困層が悪い? それとも、1日くらい待ってあげろや? いろんな考え方がありますよ。
 どちらがいい悪いという以前に、貧困層を食い物にしようとパターンを研究してるずる賢いヤツらがいるということ。ここに注目してもらいたいんです。

 あのね。こんな商売やってるの、底辺の会社だけではありませんよ。一部上場の中にも五十歩百歩の会社がありますよ。どことは言いませんけど、ありますな。
 貧困層には個人もあれば法人もあれば国や地方もあるんです。で、いまのような超不景気になりますとバーゲンハンターが必ず出てくるんです。ホワイトナイトの顔してますよ、一見ね。けど、中身はシャイロックです。

 さて、いま、日本ではどのくらい貧困層が蔓延してるんでしょうか?
 貧困層とは具体的に言うと、ワーキングプア、日雇い派遣、生活保護受給者、ホームレス、ネットカフェ難民、多重債務者とかね・・・。

 ワーキングプアってだれ? なに言うてまんねん。年収200万円未満のフルタイム労働者のことでっせ。「えっ、そしたらオレもか?」という人、意外と多いんちゃいますか。
 この層はなんと1308万人もいるんです(07年の総務省データ)。日雇い派遣が346万人。生活保護者157万人。ホームレス1.85万人。ネットカフェ難民0.54万人。多重債務者97万人。

 おいおいおい、こんなにいるんかいな。ホームレスなんてどうやってカウントしたんだろ。けど、おおざっぱに合計すると何人になりますぅ?
 ざっと2000万人! 日本国民の6人に1人? どんだけえ〜〜でっせ。

 このマーケットは大きいですよ。ワーキングプアだろうが多重債務者だろうが生きてるわけです。消費してるわけです。たとえば、多重債務者の債務残高は平均100万円です。ワーキングプアも収入の半分100万円くらいは消費するとして、合わせて14兆円ですよ。
 生活保護者、ホームレス、ネットカフェ難民・・・いったいいくらになるのか。とにかく大きなマーケットであることだけはたしかですな。

 貧困ビジネスの連中はこのマーケットに狙いを定めてるというわけ。

 やっぱ勉強せんといかんですな。法律もそうですけど、派遣切りにしたって、労働法務を知っていれば企業と渡り合えるわけでしょ。
 知識がなかったら友人ですよ。友人。仲間が大切。仲間が相談に乗ってくれる。仲間のネットワークが大切。

 それにしても、ホントにいまの日本は平成かぁ? 戦前か、終戦直後の労働運動華やかなりし時代か、と錯覚しますよ。「蟹工船」がベストセラーになるわけですな。そのうち「女工哀史」ならぬ「派遣哀史」が登場するんとちゃうか。

 このくらいならいいけど、「日本に妖怪が出る・・・」なんて宣言が出るようになるんとちゃうやろか。300円高。