2009年03月13日「山椒魚」 井伏鱒二著 新潮社 460円
NHKアナの山根基世さんが先日の日経新聞に寄せたコラム。
「井伏鱒二の山椒魚はどなたも教科書で一度は読んでよくご存じだろう。しかし、それでは全体どんな話だったのか、要約して話せますか。最後の一行、どんな風に終わるのか覚えていますか。恥ずかしながら、私自身は全く覚えていなかった」と書いていた。
実は、彼女たちは衛星放送で著名人100人から1冊の本を挙げてもらい、それを朗読で紹介するという番組を毎朝やっているらしい。
で、山椒魚だ。しばらくぶりに読むと、いかに名作なのかがわかった。斜め読みしていただけで読んだつもりになっていた、と反省している。
翻って、私はどうか? さらさら覚えていない。
『源氏物語』『徒然草』『異邦人』などは冒頭が有名だからいまだに暗記している。『宮本武蔵』『竜馬がゆく』のラスト部分もこれまた名文だから暗記している。
山椒魚? さあね。読み直してみた。
山椒魚は悲しんだ。彼は彼の終の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、頭が出口につかえて外に出ることができなかったのである。
(中略)
なるほど、思い出した。思い出した。
「何たる失策であることか!」
山椒魚自身、天を仰いで嘆息していた。にもかかわらず、いよいよ出られないなら、俺にも相当な考えがあるんだ、と強がりばかりいう。そして脱出を試みたけれども徒労に終わり、涙を流す。
「ああ神様! あなたは情けないことをなさいます。二年間うっかりしていた罰に、一生涯ここに閉じ込めてしまうとは横暴です。気が狂いそうです」
「ああ、寒いほど独りぼっちだ!」
いつまでも悲嘆にくれてると、人間、いや山椒魚の性格も悪くなる。ある日、活発に動き回っていた蛙が岩屋に紛れ込んできた。
「一生涯ここに閉じ込めてやる!」
「俺は平気だ」
「出て来い!」
「出て行こうと行くまいとこちらの勝手だ」
「よろしい、いつまでも勝手にしろ」
「お前は莫迦だ」
「お前は莫迦だ」
来る日も来る日も言い合った。
一年の月日が過ぎた。
(中略)
更に一年の月日が過ぎた。
お互いに気配を悟られないようにしていたが、蛙は不注意にも「ああああ」と小さな嘆息をもらしてしまった。山椒魚は友情を瞳にこめて尋ねた。
「お前はさっき大きな息をしたろう?」
「それがどうした?」
「そんな返事をするな。もうそこから降りてきてもよろしい」
「空腹で動けない」
「それでは、もう駄目なようか?」
「もう駄目なようだ」
暫くして山椒魚は尋ねた。
「お前は今、どういうことを考えているのだろうか?」
相手は遠慮がちに答えた。
「今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ」(最後の一行とはこれ)
北朝鮮が通信衛星という名のミサイルを発射するという。寒いほど独りぽっちなのだろう。
しかし、日本が蛙になってはいけない。300円高。
「井伏鱒二の山椒魚はどなたも教科書で一度は読んでよくご存じだろう。しかし、それでは全体どんな話だったのか、要約して話せますか。最後の一行、どんな風に終わるのか覚えていますか。恥ずかしながら、私自身は全く覚えていなかった」と書いていた。
実は、彼女たちは衛星放送で著名人100人から1冊の本を挙げてもらい、それを朗読で紹介するという番組を毎朝やっているらしい。
で、山椒魚だ。しばらくぶりに読むと、いかに名作なのかがわかった。斜め読みしていただけで読んだつもりになっていた、と反省している。
翻って、私はどうか? さらさら覚えていない。
『源氏物語』『徒然草』『異邦人』などは冒頭が有名だからいまだに暗記している。『宮本武蔵』『竜馬がゆく』のラスト部分もこれまた名文だから暗記している。
山椒魚? さあね。読み直してみた。
山椒魚は悲しんだ。彼は彼の終の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、頭が出口につかえて外に出ることができなかったのである。
(中略)
なるほど、思い出した。思い出した。
「何たる失策であることか!」
山椒魚自身、天を仰いで嘆息していた。にもかかわらず、いよいよ出られないなら、俺にも相当な考えがあるんだ、と強がりばかりいう。そして脱出を試みたけれども徒労に終わり、涙を流す。
「ああ神様! あなたは情けないことをなさいます。二年間うっかりしていた罰に、一生涯ここに閉じ込めてしまうとは横暴です。気が狂いそうです」
「ああ、寒いほど独りぼっちだ!」
いつまでも悲嘆にくれてると、人間、いや山椒魚の性格も悪くなる。ある日、活発に動き回っていた蛙が岩屋に紛れ込んできた。
「一生涯ここに閉じ込めてやる!」
「俺は平気だ」
「出て来い!」
「出て行こうと行くまいとこちらの勝手だ」
「よろしい、いつまでも勝手にしろ」
「お前は莫迦だ」
「お前は莫迦だ」
来る日も来る日も言い合った。
一年の月日が過ぎた。
(中略)
更に一年の月日が過ぎた。
お互いに気配を悟られないようにしていたが、蛙は不注意にも「ああああ」と小さな嘆息をもらしてしまった。山椒魚は友情を瞳にこめて尋ねた。
「お前はさっき大きな息をしたろう?」
「それがどうした?」
「そんな返事をするな。もうそこから降りてきてもよろしい」
「空腹で動けない」
「それでは、もう駄目なようか?」
「もう駄目なようだ」
暫くして山椒魚は尋ねた。
「お前は今、どういうことを考えているのだろうか?」
相手は遠慮がちに答えた。
「今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ」(最後の一行とはこれ)
北朝鮮が通信衛星という名のミサイルを発射するという。寒いほど独りぽっちなのだろう。
しかし、日本が蛙になってはいけない。300円高。