2004年10月18日「がなり流」「夜回り先生と夜眠れない子どもたち」「横濱ベイサイドストーリー47景」
1 「がなり流」
高橋がなり著 青春出版社 1260円
年商84億円。いまや押しも押されもせぬAV界の帝王・・・っつうか、日テレ系の番組「マネーの虎」で知られる経営者です。
この番組に登場した時、失礼ながら、わたし、ただ一人、この人のテイストは好きだな、と思いました(まっ、わたしに好かれてもしょうがないんだけど)。
どこがいいかって?
本音で語ってるところ、いろんな意味でね。
2005年末に社長を辞めるらしいよ、もう宣言しちゃってるもの。
AVって、レンタル用とセル用に分けられるでしょ。
世間で多いのは圧倒的にレンタルビデオ店ですよ。けど、レンタルビデオのメーカーになるにはビデ倫という団体に加盟しなくちゃいけないらしいですね。
これが実は、からくりなんですよね。同業2社の推薦が必要なんですけど、初心者はなかなか無理ですよ。知り合いなんていないし、業界の掟破りなんかは排除しちゃうもの。
早い話が、ムラ社会なのよ。
だから、こっちの陣地は入らない、いや、入れない。
で、セルビデオ業界をみると、これが「荒れ地」、いや、「空き地」に見えたらしい。
なぜって、元々、この人はTV業界にいたでしょ。師匠はあのテリー伊藤さんだもの。
だれも見向きのしないような作品というか、商品を作ってたわけ。一本当たり五十万円程度の安っぽいビデオね。
「これは儲かる、大穴を当てられる」
最初に作ったのは「全裸シリーズ」。なんちゅう企画かね。
「50人 全裸オーデイション」「全裸水泳」「全裸エアロビクス」「全裸夜這い」「全裸マシントレーニング」の5タイトルを1000万円で制作。これがセックスなしという「非常識」にシリーズだったの。
ところが、トータル15万本も売れちゃった。
セルビデオですよ。当時、この業界では1タイトル1000本売れればヒットと言われてました。つまり、全国に1000店舗あるから、1つずつ配って売れ残らなければヒットという計算になりますね。
小さな空き地としては空前絶後のヒットを飛ばしたことになります。
彼は安く売りたかったから、問屋を通さず小売店に直接売った。1200円で卸した。
ところが、店主はやっぱり1万5千円くらいで売るわけ。どうにかこうにか説得して、5千円で売ってもらった。
5000万円の純利が出ちゃった。
で、どうしたか?
「お金を持ちすぎるのは良くないから、全部、使おう」
理由は、失敗を怖れる会社にしたくなかったから。
この勢いに乗って出したのが「地上20メートル 空中ファック」。
サファリパークを借り切り、クレーンを6台動かし、ヘリを飛ばし・・・。制作費4000万円。諸経費5000万円。
で、売れたのがたったの1000本。
おかげで信用失墜。「全裸」の時に50本単位の注文だったのがなんと1本ずつになっちゃった。
普通、こうなるとビビるね。残り少ない資金で手堅く生きていこう。こう考えます。
けど、彼はビビらない。
なぜって?
自信があるから。「オレはほかの連中とは違うんだ!」ってね。
金はない。ほかの制作会社に頭を下げて、頭金だけで勘弁してもらう。残りは後金で払うという約束でね。
蘇るために出したのは、やっぱり成功体験をトレースすることだったね。だって、「全裸64シリーズ」だもの。
これを2500万円かけて7タイトル制作し、15万本売り切った。
いま、会社を解散しても数億円は残る。贅沢しなけりゃ50年は生きていける・・・と何度もソロバンを弾いた。
けど、できない。
だって、勝ち逃げして安定的な生活をしてても物足りなさを感じちゃうもの。
楽な方に行こうと思えば行ける。だから、実はきつくない。
「vs・レイプ魔シリーズ」って企画があります(見たことないけど)。
本物のレイプを見せるという目的で制作したんだけど、問題はその制作方法をどうするかっていうこと。
そこで考えたのが、「女優は演技をする人」という常識を逆手にとること。すなわち、「女優に演技をさせない」。
こう考えたらいくらでもアイデアが出てきた。
たとえば、ケンカの強い女優とレイプ魔とをガチンコで戦わせる。賞金までつけたんだから本気になります。
で、最初は弱い男。これには簡単に勝っちゃった。次に、強い男の登場。これには負けて、組み伏せられちゃった。つまり、本当にレイプされちゃったわけ。悔し涙でいっぱい。これが受けた。ノンフィクションっぽいものね。
これが2万本売れました。
こういう企画のルーツは彼自身が考えてるんですね。
「孤独からはオリジナリティが生まれるけど、群れからは妙にバランスの取れた価値のない中庸案しか生まれない」
まるで、「第三の男」のセリフだね、こりゃ。
「チュザレ・ボルジア家三十年の殺し合いはダ・ビンチやミケランジェロを生んだが、スイス五百年の民主主義と平和はいったい何を生んだというんだ? 鳩時計だけさ」
200円高。
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2 「夜回り先生と夜眠れない子どもたち」
水谷修著 サンクチュアリ 1470円
前著「夜回り先生」に続く第2弾かな。
ところで、渋谷東急インの隣に文教堂という本屋さんがオープンしてました。まだ数日しか経っていないとのことで、空いてるし、二階の小じゃれたカウンター喫茶が気に入ったんで、最近、ここで本、買ってます。
これもそう。
しかし、滅入るね、この本。暗いんだよ。
けど、真摯なんだ。とっても、人生、四つに組んで生きてる。自分のため、子どもたちのため、もう牧師とダブって見えましたね。
著者は、文字通り、夜回り先生よ。
学校の授業と並行して夜回りしてるから、熟睡した日は記憶にない。髪は真っ白、歯はガタガタ。
クスリの売人にナイフで脇腹を刺されたこともあるし、暴力団にハンマーで親指を潰されたりもした。
それでも、苦しんでいる子どもを助けることができれば、別にたいしたことはない。
なぜ、そこまでやるの?
いまから14念前、ある夜間高校の教員と口論になった。
「寿司だって魚を選ぶ。夜間高校にいるような腐った生徒にいい教育なんてできない」
その一言に反発し、普通高校から夜間高校に移ってしまう。魚は勝手に腐るけど、子どもは絶対に腐らないってね。
夜の街は薄汚れている。街でかけられる優しい声も、食い物にしようとする悪意に満ちたものばかりだ。
ところが、子どもたちは繁華街で遊ぶ。
ほとんどの大人は無視する。恐れ、忌み嫌い、抹殺しようとする。
好きこのんで、この街にいるわけじゃない。本当は温かい家庭にいたい。でも、昼の世界に彼らの居場所はない。
奇声を上げる若者も、ゲームセンターに入り浸る若者も、みな、愛情に飢えている。
22年間の教員生活の中で一度も子どもを殴ったり、叱ったり、怒鳴ったことがない。
なぜなら、「花の種」と考えているから。
社会全体が子どもを慈しみ、愛し、丁寧に育てれば、必ず美しい花を咲かせる。そう確信しているわけ。
だから、夜遊びしてる子どもたちと語り合うわけ。
愛という名前の少女。
精神病院で知り合った。
大会社の社長の娘だが、家庭環境は恵まれていなかった。
小学六年生の時から、父親に性的虐待を受け、母親には我慢しろ、といわれ続けた。心の痛みを和らげるために、中学に入るとシンナーに走った。
非行の繰り返し。
心理的ショックとシンナーの乱用で、心を病んだ。リストカット、奇声、裸のまま飛び出す奇行・・・。そして、両親は世間体を気にして精神病院送り。
怒りが止まらない。すぐにでも警察に届け、児童相談所に保護させなくては・・・。
しかし、踏みとどまった。この子に強い精神的ショックを与えてしまう。まずは、病院の処方箋通りに薬を服用し、無事、退院させることが最優先。
この子を見てると、自分とダブって見えた。
父の顔を知らず、母とは三歳の時に引き離され、東北の寒村に住む祖父母と暮らしていた。
一年に一週間だけ、横濱にいる母親と会えた。それが唯一の希望・・・。
希望を失った子どもの心の闇は深い。
病院を何度も訪れる中に、愛は言った。
「わたし、髪の毛切るのうまいんだよ」
著者の勤める夜間高校に入学し、それから美容専門学校に行くという夢。
しかし、退院できなかった。
フラッシュバックと摂食障害・・・。
入院から二年経ったある日、はじめて外出が許された。同じ病院に入院するカレシとデート。
帰りの電車を待っていた時、頬にキスをされたことでフラッシュバックを引き起こす。
父親から受けた数々の虐待を思い出す。大声で泣き叫ぶ。新調した洋服を破り捨てながら、走り回る。
「わたし、人を好きになる資格なんてないよね・・・もう汚れちゃってるから」
「いや、愛はきれいだよ。可愛いし、美しい心を持ってる」
「そんな・・・ありがとう。でも先生、もうわたし、人を愛せない。ダメなんだ・・・」
それきり、電話が切れた。
愛は死んだ。歯で噛みちぎったシーツをロープがわりにして。
ただ泣くことしかできなかった。愛の亡骸は彼女がもっとも憎んでいた両親に引き取られていった。だれにも止められなかった。
泣きながら、霊柩車を追いかけた。
彼らをけっして許すことはない。
参ったなぁ・・・。だから、嫌なんだ、この本。
400円高。
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3 「横濱ベイサイドストーリー47景」
山田一廣著 街と暮らし社 1575円
山手、本牧、元町、石川町など、地元横浜のあちこちがたくさん。
たとえば、本牧市民公園。本牧・米軍住宅地、根岸馬事公園、港の見える公園、三渓園、元町プール、フェリス・・・なんて、まさにウォーキングコース。
ローマ字で有名なヘボンさん。
これ、綴りはオードリー・ヘップバーンのヘップバーンと同じなのね。発音で正しいのは、ヘボンです(オードリー・ヘボンが正解なわけ)。
この人、プリンストン大学を卒業すると、ペンシルベニア大学で医学を学びます。
けど、信仰厚いクリスチヤンで、医療を通じて布教したい。
そこで、横浜にやってきます。33年間、ずっと横浜に住んでました。いま、関内駅のそばに横浜指路教会というのがあります。これ、ヘボンさんのチャペルなのね。
で、ヘボンさんの診療所で、アメリカから女性宣教師のメアニー・キダーという人が開いた塾があります。
これ、名前をフェリス・セミナリーって言うんですね。あそこ、FとSの組合わせが校章でしょ。この頭文字なわけ。
フェリスって名前も、キリスト教会の幹部の人の名前からとったもの。
中島敦という人がいます。「山月記」とか「李陵」という作品で知られた作家です。
山手の近代文学館ではしょっちゅうこの人の展示会があるんですけど、元町の横浜学園の先生だったんです。
33歳で死んだんですけどね。
「李陵」なんて最高傑作ですけど、これ、死後、ようやく発表されたんですよ。
山手の丘から元町商店街の入口に通じる汐汲み坂(「ジキルとハイド」のある坂。B級グルメで紹介してるよ)。この途中に彼の文学碑(山月記の冒頭部分)があります。
昔の高等女学校のあったところ。いま、元町幼稚園になってます。
横浜に関心のある人にはぜひ手にとって欲しい。けど、これ、内容的には旅行ガイドと対極にあります。
150円高。
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