2009年04月13日「落語こてんパン」 柳家喬太郎著 ポプラ社 1575円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 久しぶりの銀座。いえね、博多から友人が出てくるんで、一杯やろうかと思いましてね。
 ならば、先日、放送作家のわぐりたかしさんの肝いりで出版した『ひとりで行ける上質ごはん』で紹介した秋田料理の休み屋さんに行こうと思いましてね。たまたま本の在庫も無くなったし、アマゾンで注文しても1か月待ちだというし、なら、銀座の本屋さんで待ち合わせちゃおうってわけ。休み屋さんにも何冊かプレゼントしたいし、彼と私の分もいるし。

 で、レジで並んでると、あれ、喬太郎? あれま、本出したの? 文春で狂歌かなんかの選評してたよね、あれ? どうも違うね、こりゃ。落語の本だね、タイトルからしてみるとね。

 こてんパンだ? ふ〜ん。古典とこてんパンを掛けてるわけ? パンはなんだい? ま、いいか、読めばわかんだろう。つうわけで購入。

 私ゃ喬太郎ファンの1人なんです。いまだに追っかけてるもんね。中野の独演会はたいてい行ってるし、落語協会のメルマガせっせとチェックして、できるだけ席亭覗いてるんだけど。
 
 喬太郎師匠は水陸両用だかんね。つまり、古典も新作もどちらもいけるってわけ。

 私の仕事場の向かいは図書館なんだけど、ここでたまに落語会あんのよ。プロも来るし役場の落語好き。ほら、学生時代、落研にいたっつうような人が演じてくれるわけ。なかなか巧いよ。
 悪いけど、噺ってのはセンスだと思うわけ。素人でも巧いのいるし、プロでもつまんないのいるもん。席亭でも、この噺、もっと面白いはずなんだけどなあ。どうしたらこんなにつまらなく話せるわけ、つう不思議な真打ちもいるもん。

 で、昔、ここで桂歌丸さんの弟子で花丸さんという若手噺家が登場してね。掛けた噺が「純情日記・横浜篇」。
 まあなんつうか、若者の勘違いデートを「黄金餅」をちとくすぐりに使ってアレンジした噺なんすけどね。よくできた噺だなあ、うんうん、黄金餅のリズムは使えるね。エド・はるみさんが高校時代に出演した「の・ようなもの」つう映画もラストは「黄金餅」をまんまトレースしてるもんね。

 でね、この「純情日記・横浜篇」つうのは、喬太郎師匠が落研時代に作った噺なのよ。完成度、高いよ。そういえば、彼、TBSの学生落語で優勝してんだ。
 ほかにも面白い新作がたくさんあんの。CD出てるからぜひ聴いてみてちょ。電車の中で聴いたらダメよ。ニタニタ笑ってると変態と思われるからね。ほら、春だから。おかしい人多いから。

 古典もうまいのよ。この前、紀伊國屋ホールのトリでやったのが「心眼」。これ、好きなネタでして、いちばん最初に聴いたのは三遊亭円弥師匠だったと思うね。名作ですな。
 で、これ、やったわけ。横浜にぎわい座でも聴いたな。巧いね、巧い。古典も巧い。

 逆に言うと、噺はいいから、もっと好き勝手な内容で書いてもらいたかったね。趣味のウルトラマンのことでもいいしさ。ま、WEBに連載したものをまとめただけだから、噺を中心に落語仲間のこと、師匠、先輩のこと、ここまで広げてくれれば御の字なんだけど。

 この人、かなり研究熱心なんですよね。以前、喬太郎師匠と林家彦いちさん、三遊亭白鳥さんの3人が講師をつとめる「落語創作講座」に通ってたの、私。で、「落語の神様」と呼ばれる円朝の作品を研究して現在に蘇らせようとしてるんだ。
 円朝作品といえば、実は「心眼」もその1つなんだけど、ほら、「牡丹灯籠」とか「真景累が淵」とか名作がたくさん。けど、長編過ぎたり難解だったりでなかなか演じ手に恵まれない。まあ、歌丸さんの「真景」は5日間ビシッと通ったけど。

 いろんな噺家がいます。もち、政界同様、サラブレッドもたくさんいます。けど、あと20年30年経った頃、いまの談志師匠とか米朝師匠、かつての志ん朝師匠レベルになれそうな噺家ってのは、たぶん喬太郎師匠ではないかしらん、と期待してるわけ。

 で、今回、ほかの本買いに来たんだけど、あれれ、みっけ。こういうハプニングがあるから本屋さん通いは止められないね。
 あ、あああ。ちがう。この本屋さん、喬太郎さんが大学卒業して1年間つとめてた会社だぜい。そうか、だからレジ前の目立つとこでワゴンセールしてたのか。な〜るへそ。
 そうそう1年で退社して、柳家さん喬師匠のとこに弟子入りしたんだったよなあ。やっぱプロになりたかったんだろうね。

 学生落語大会で優勝したあと、いったん就職。普通はここで噺家への道はスパッとあきらめるよ。あきらめずにもう1回方向転換するってのはかなりのエネルギーがいる。いったんつかんだものをパッと離すってのははかなりしんどい。
「一生を棒に振っても後悔しない」かどうか。ま、そう判断したんでしょうな。300円高。