2009年05月25日まず船長から逃げるのが米国流経営術

カテゴリー中島孝志の不良オヤジ日記」

 世界にはアイデンティティを持たない人間がいますな。金がすべてだから国籍なんて関係ない。儲かればどこでも行くから、国に対するロイヤリティなどさらさらない。

 たとえば、ヘッジファンドや投資銀行の面々。「金」がすべての価値観。アメリカという国家がどうなろうと関係なし。まして全米市民など縁もゆかりもない。税金だって納めない。そこらへんはスイスの銀行やタックスヘブンがうまくやってくれてるもんなあ。

 なんのために財務長官やってたんだって? そりゃ商売のためよ。
 国益? そんなもん知らないね。俺は元々、投資銀行のトップだったんだぜ。投資銀行より儲かるって聞いたから、頑張って政権に食い込んだんだ。大統領だってそこらへんはわかってるはずさ。あいつが大統領になれたのも俺たちのおかげ。ギブ&テイクだよ。

 破綻した? そんなもの知らんね。破綻したって、もらうものはもらうんだよ。そういう「契約」なんだから。破綻直後に50億円の退職金かすめとったCEOたちが非難されたけど、そもそも金融危機が悪いんだろ。
 文句はポールソンかグリーンスパンに言ってくれよ。あるいは、全米の金融機関が投資銀行になるきっかけを作ったボブ(ロバート・ルービン)にね。俺たちゃ金のなる木を失った被害者なんだぜ。

 そもそも悪いのはボブだよ。あいつが銀行と証券会社の壁を取っ払って、さあ儲けるだけ儲けろよと言い出したんだから。
 で、財務長官やったあと、シティバンクに転職して自分の作った法律で儲けるだけ儲けて、結局、シティバンクを時価総額2700億ドルから70億ドルに激減させたのもあいつさ。

 責任? そんなもの、俺たちの世界にはないのさ。儲けるだけ儲けたらあとは野となれ山となれさ。
 義務? ああ借金返済のことか。どうせ財務省かFRBがどうにかすんだろ。税金で処理すりゃいいじゃないか。足りなきゃ日本から出させればいい。脅かしゃいくらでも出すぜ。

 とにかく俺たちに言ってもムダだよ。俺たちの世界は、儲けたら自分のもの、損したらだれかに転嫁するってのが文化だからな。いままでもそうだし、これからだって変わらないぜ。
 チェンジ? 変わる? そんなわけないだろ。あいつの政権見てみろよ。全員、俺たちの仲間じゃないか。財務長官のティムなんてボブのパシリだったヤツだぜ。

 GMが破綻する? 役員が全株売却した? 当たり前だろ。倒産したら紙くずになるんだよ。違約金を払ってまで売却したのも当然の行為だよ。GMをダメにした張本人のワゴナー(前CEO)だって最後まで20億円の年俸もらってたじゃないか。
 ずるい? 褒めるなよ。照れるじゃねえか。俺たちの世界じゃ、「ずるい」「狡猾」「卑怯」「エゴイスト」という言葉は褒め言葉なんだよ。

 再建できるか? そんなもん興味ないね。会社なんて儲けるための道具よ。再建なんてどうでもいいの。そんなことは次の経営者が考えることさ。もちろんビッグマネーを保証しないかぎり、だれも社長にはならんがね。

 従業員をどうするかだって? しつこいね、あんたも。
 職工ふぜいがどうなろうと関係ないんだよ。俺たちゃMBAのエリートだぜ。食堂だってちがうんだ。あいつら時給仕事だろ? 俺たちゃ年俸とオプションで4桁も収入が違うんだ。貧乏人と一緒にすんなよ。

 組合のヤツらも最近は俺たちの真似して好待遇で会社を食い物にしてたからな。
 けど、あいつらに何ができるんだよ。悔しかったら、MBOでもして自分たちで経営してみたらいいんだよ。ま、やらんと思うがね。