2009年07月13日「差別と日本人」 野中広務・辛淑玉著 角川書店 760円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 差別されたことがない人には、差別の苦しみとかはわかんないだろうね。
 私自身、どこかでだれかに差別されたことがあるだろうか? と考えると、国内ではもちろんなかったし、アメリカでもイタリアでもフランスでも人種差別すらされたことがない。

 これだけでも幸福なんでしょう。ハンデがない、ということはそれだけで楽ですよ。
 なぜなら、社会からの圧力、人からの言われなき悪評にしても、見えているような見えていないような、なんともつかみどころのない「敵」だからですよね。どこに、だれに、怒りや憤懣をぶちまけていいかわからない。

 この2人はそんなプレッシャーと戦ってきたんでしょうな。

 対談本です。野中さんは言わずとしれた自民党の元重鎮。官房長官、自治大臣なども歴任し、いまだに存在感のある人。小泉さんが第2次内閣を作る直前に引退。
 いまでも覚えているのは、小泉改革について、「景気がよくなると錯覚してはいけない」とそのインチキ性を見抜いていたこと。

 対する辛さんは人材育成コンサルタント。よくテレビでも見かける、つっこみの鋭い人ですよね。

 まったくかみ合わないこの2人に共通することは、どちらもこの日本では「弱者」の側にいること。すなわち、野中さんは被差別部落出身者、辛さんは在日朝鮮人。
 辛さんは名前を朝鮮名に変えるときに悩んだ、と言います。野中さんは国鉄でどんどん昇進していたとき、親しい同僚や目をかけていた後輩から、「地元に戻れば部落民ですから」と揶揄されたことにショックを受けた。4日間煩悶したというのですから、よっぽどショックだったんだと思います。

 で、こんな差別をなくすために政治家になろう、と決意。地元に戻って立候補。25歳で当選。53年間政治家稼業をすることになった。

「中学2年生の時に、あいつは部落の人間だよって、後ろから歩いてくる連中が言っているのを聞いて、初めて僕は自分が部落出身者だということがわかった。けど、そんなことをハンデにしたってしょうがねえんだ。それをバネにして頑張りゃいいんだと思ってやってきた」

 辛さんが舌鋒鋭く非難するのは石原慎太郎さんのこと。この人は差別主義者だとばかりに非難してますな。
「昨日、一緒にメシ食った」
「あれ? 石原さんとよく食べられますね?」
 辛さんは潔癖性なんでしょうな。で、野中さんは清濁併せのむ性格というか、性分なんでしょう。政治家だからね。かつては悪魔と言っていた小沢さんにもひれ伏した人ですからね。

 でも、石原さんて、辛さんが指摘したように、ものすごい差別主義者のようですな。
 
「ああいう人ってのは人格あるのかね。ショックを受けた。みなさんどう思うかな? 絶対よくならない、自分がだれだかわからない、人間として生まれてきたけれど、ああいう障害で、ああいう状態になって。西洋人なんか切り捨てちゃうんじゃないか」(1999年9月。府中療育センター(重度知的・身体障害者療育施設)視察後の会見)
「66年北朝鮮より帰化」(1983年の衆議院議員総選挙。東京2区の対立候補、新井将敬さん(衆院議員、後、自殺?)の選挙ポスターにシール3千枚を貼った秘書が現行犯逮捕)
 この事件に対しても謝罪は一切無し。「候補者のプライベートヒストリーを有権者に知らせることは必要」と発言。
「ニートなんて格好いいように聞こえるけど、みっともない。無気力・無能力な人間のことです。ふざけたやつがほとんどだよ」
「男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を生む能力はない。そんな人間が、きんさん・ぎんさんの年まで生きてるってのは地球にとって非常に悪しき弊害。文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァ」
 これは裁判に発展。石原さんが勝訴してますけどね。ある意味、いま時、珍しい思想の持ち主といっていい。歯に衣着せぬというよりも、「いつも不機嫌な頑固オヤジ」というイメージでしょうか。

 ただ、この人、「弱者」に対してだけ傷に塩をすり込むような発言をするだけじゃなくて、強者に対しても同じことしてるわけ。そういう意味では、鼻持ちならないほどの選民思想の持ち主なのかもしれません。
 でも、そうなってしまうのは? はい、コンプレックスでしょうな、きっと。200円高。



 どうでもいいけどさ。都議選、自民、やばいよ、これ。1人区で1勝6敗。複数人区では1位2位を民主党に取られて、議席を失う区まであるじゃん。
 国政は1位しか議席がとれませんからね。つうことは、自民・公明総崩れということになるわな。

以前述べたように、自民党議員は生き残りをかけて分裂し、新党=別働隊ブームが来まっせ。これを忍者ハットリくんは「分身の術」と呼んでます。

 で、野中広務さんはなんと言ってるか? 土曜早朝のテレビで、元々、麻生さんは福田さんから譲られた政権なんだから、この際、福田さんに返して、解散してもらえばいいのでは? そうすれば、党内でチョロチョロ動くようなことはない、と。

 そんなこんなで、麻生総理は解散の腹を固めたようでございます。ふ〜ん、腰砕け総理のわりにはプライドはやっぱ高かったんですな。なにか手はあるんだろうか。鳩山由紀夫さんを検察に逮捕させるんだろうか? う〜ん、ようわからん。「やぶれかぶれ解散」か。