2004年01月12日「大事なことはこんなリクルートから教わった」「パワー・マネキン式 食料品完売マニュアル」「犬がどんどん飼い主を好きになる本」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「大事なことはこんなリクルートから教わった」
 藤田久美子著 雷鳥社 1400円

 「トップセールス列伝」とありますから、リクルートを代表する営業マンの方たちが登場します。
 といっても、全員、既に退社し、独立したり、転職したりしてます。

 さすが、リクルート。営業マンには優秀な人が少なくないですね。

 わがキーマンネットワークに参加されている松井隆さんは、「宅訪の松井」と言われたとか。自宅に訪問しちゃうんですね。
 これでお客さんから叱られることも少なくない。けど、そこからが真骨頂で、叱られたことが大きな縁になって逆にファンになってくれるらしい。これはこの人の誠実な人柄が浮かび上がってくるからでしょうね。

 いま、彼はエリートネットワークという就職紹介業をしてます。
 この人の良さは哲学をきちんと持っていることでしょうな。
 たとえば、この仕事にしたって、エントリーする側からは登録料もカウンセリング料もとりません。すべて、採用する側から頂いているんです。
 やることとやらないことをきっちり分ける。たとえば、英語は勉強しない。パソコンはいじらないとかね。こんなものはほかの人にやらせればいい、という判断なんですね。
 「なぜ、営業の仕事をするの?」
 「世の中のことを勉強するため」

 本書では書かれてませんでしたけど、当然、この本、インタビューですから、自分では口幅ったくて言えなかったかもしれませんが、リクルート社内では「松井学校」というのがあったんですね。上司と部下ではなくて、弟子と師匠の関係なんですよ。
 たしかに、人を育てることはずば抜けている人ですよ。
 一社から一億円という大きな契約をとった部下、千社で一億円という小さな契約をとった部下、新規顧客の開拓に成功した部下・・・それぞれに価値があるんです。それをきちんとわからせることができる人です。
 参考までに、本書でも登場する著書「バカな部課長につける薬」(東洋経済新報社)はわたしがプロデュースしてもらいました。

 二番目に登場する人は、住宅産業にいます。リクルートでも住宅を担当していました。
 住宅会社や展示場を訪問するお客にちょっと質問しただけでどんな人なのかが判断できる。
 たとえば、高級車やスポーツカーに乗っていたら、お洒落だったり、ものへのこだわりが強い人だと判断できる。ちょっぴり見栄っ張りかもしれない。こういう人にはやはりうってつけの物件があるんです。

 年収と家賃にはバランスがある。その比率が家賃のほうに傾いていれば、住環境を重視してることが判断できる。「こだわり」があるわけです。
 物件を案内している時も要注意。
 「あっ」「おっ」「へぇ」という反応。これを聞き逃してはいけないんです。
 住宅展示場を訪れるお客というのは、絶対に売り込まれないぞと決心してやってくるのが普通です。一生の買い物でもあるし、ほかの物件もたくさん見たい。だから、ここで決めたりしたらすべての計画が崩れ去るわけです。
 ところが、意に反して期待よりも大きな発見があったり、時に感動したりすると、「あっ」「おっ」「へぇ」という感嘆詞が思わず飛び出てくるんですね。

 ということは、逆にお客が「あっ」「おっ」「へぇ」と漏らすような仕掛けや演出をしておかなければいけないということじゃないかな。
 魚ですらエサがなければ釣れないのだ。まして、相手は人間ですからね。並の仕掛けで釣れるわけがないじゃないですか。

 こういうトップ営業マンが何人も登場する本です。
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2 「パワー・マネキン式 食料品完売マニュアル」
 松田明著 文芸社 1400円

 「マネキン」というのは、スーパーやデパートで試食販売コーナーなどを担当している売り子のことです。服飾品コーナーでも時給やコミッションで派遣されている人がいます。これもマネキンといいます。
 マネキンというのは、普通、その上に服を着せている大きな人形のようなもの、と理解してましたけど、流通業界では「売り子」もマネキンというんですね。そういえば、よく駅前にマネキン紹介所なんていう看板がありますよ。少なくとも、横浜駅のそばには大きな看板があります。
 で、このマネキンにパワーという接頭辞がついている。つまり、ものすごくセールスする売り子という意味ですね。

 さて、どんな人がパワーのあるマネキンなんでしょうねぇ。
 ?声が大きくて通ること。そして、その声が長時間持続すること。
 ?語り口が丁寧すぎず、気取っていないこと。
 ?お客さんと友達のようになれる能力があること。
 ?話の内容が面白くてユーモアのセンスがあること。
 ?花井の内容にリアリティがあること。
 ?立ち姿からすでに目立っており、時には容貌も美形であること。

 もったいないことに、こういう人たちはすぐに辞めてしまいます。理由は、二つ。
 まず、高級スーパーでの高価な食品の販売や精肉の販売、凝った料理が必要な仕事など、面倒で難しい仕事にばかり回されるからです。もう一つは、適当にさぼりながら売っていても、難しい売り場で頑張って完売させても、もらえるギャラはどちらも同じ。
 これでは、バカらしくてやる気を失いますよ。スーパーなどに正社員としてヘッドハンティングされるケースも少なくないそうですが、たいてい、すぐに辞めるのも時給が低くてやはり長続きしません。

 結論としては、「商品自体を売るのではなく、マネキン自身と楽しい買い物するというシチュエーションを売ること」に尽きます。

 たいていのマネキンは二種類に分かれます。
 「いらっしゃいませーー。本日、新発売の○○の試食販売キャンペーンを行っております。よろしければ、お味を見ていってくださぁい」
 「お客さーーん、これ、美味しいねん。ホラ、一個食べてって! 今日は安うなってるでぇ!」
 しかし、だいたい無視されるのが落ちです。

 なぜでしょうか。では、どうすれば売れるんでしょうか。

 まず、圧倒的な魅力を作り出すのです。
 先に努力をしておけば、後が楽なのです。宣伝文句を聞いて貰える状況を先に作りだしておくのです。
 いきなり売らないのです。宣伝文句をしゃべるのは後回しにして、まずは、宣伝文句を聞いて貰える状態を作り出すこと。ここにポイントがあります。マネキンのパフォーマンスに足を止め、情報を受け容れる準備ができたお客さんだけを対象に、宣伝文句をしゃべるのです。

 要するに、街頭であの穴あき包丁の実演販売をしている名物おじさんになりきればいいのです。
 彼らのトークを聞いているとわかりますが、一人称トークでも三人称トークでもありません。二人称トークですね。
 一人称トークとは、「独り言」です。三人称トークとは、「皆さん」という問いかけです。これはテレビ通販でジャパネットタカタの社長さんがよくやってますね。けど、これはマネキンにはふさわしいありません。
 で、二人称トークです。これは「あなた」に向けて話すものですね。「そこの奥さん」「そこの旦那さん」という問いかけです。このポイントは、押し売りではなく友達になるということです。友達の勧めるものなら買います。

 お客さんが足を止めるキーワードは三つ。
 「有名店の」「限定発売の」「高級品」です。
 トークのコツも三つ。
 「腹式呼吸」「外郎(ういろう)売り(歌舞伎の名シーンですよ)」「コント」です。

 「はい、本日のお勧め品はこちら! ○○産の○○でございます」
 ぱんぱんと柏手を打って、お客さんにアピールします。
 「本日限りの限定品となっております」
 「平常価格○○円のところ、本日限り○○円引きとなっております」
 まだまだ、買ってくださいのかの字も言ってません。この間に売ってしまうのです。

 試食でも、実際に試食に出すのはマネキンが手に持った小さなお盆の上に並べられた、すでに楊枝が刺してある試食品です。試食のお盆など、大きなものにてんこ盛りではいけないんです。いいのは、「展示用の美しい調理見本」と「ホットプレートで調理中の試食」だけです。
 試食はマネキンの手から渡されたものだけを食べてもらう。これが原則です。

 みのもんたになりきって、一人おもいっきりテレビをはじめてしまうのも効果的。
 「いいですか、お母さん。ハンバーグは(とじっと目を見て唇を結ぶ)普通に食べても意味はありません。これはどういうことかというと、はいこれ、トマト。トマトと一緒に食べてはじめて、ハンバーグの中に含まれているビタミンBが活性酸素を分解する働きをするんです。いいですか、これからは毎日、ハンバーグの上にトマトをのせてください。次にトマトを煮てのせたらいいのか、それとも、すり下ろしてのせたらいいのか。答えはこちら。・・・焼いてのせたらいいんですね・・・」

 いちばん頑張って欲しいのは、繁忙時間ではなく午前中です。午前中に売れればこそ、高く評価されるのです。夕方の繁忙時期に売れても評価低いですよ。 
 150円高。購入はこちら



3 「犬がどんどん飼い主を好きになる本」
 藤井聡著 青春出版社 1200円

 いままで一万頭と接してきたカリスマ訓練士の著者ならではの、目から鱗のワンちゃんとのつき合い方の本です。

 たとえば、次のような行動はよくありますよね。
 しっぽをふっいる犬は喜んでいる。
 決まった時間にエサをあげる。
 かまってあげないと可哀想。
 家の中で遊んであげる。
 いつでもできるようにトイレを家の中に置いてある。
 ハウスは広くて大きい。
 叱る時は大声できちんと叱る。
 ぐるぐる回る芸を自然と覚えた。
 はじめて合った人の手を舐める。
 耳をかくのは痒いから?
 うんうん、わが家のワンちゃんもそうだと頷いてる人も少なくないでしょう。
 でも、これらはすべて飼い主の勘違いで、ワンちゃんのメッセージなんですね。

 どんな?
 それは本書を読んでください。

 たとえば、広いハウスはかえって不安にさせるのです。
 自由に動き回れる広々したスペースを与えたい、と思う気持ちはわかります。けど、ワンちゃんがもっとも居心地がいいのは「立ち上がることができる高さ、伏せができる幅と奥行き」なのです。
 動き回れる広いスペースでは、落ち着けないんです。狭くて可哀想、というのは人間の基準です。
 これはほとんどの人がわかっていないようですね。

 著者がドイツシェパード犬の訓練士大会に出場するため、ボストンに行った時のこと。
 JFK空港(ニューヨーク)でシェパードを預けてチェックインすると、放送で名前が呼ばれました。
 貨物係のところに行くと、「こんなにでかい犬なのに、このケージじゃ狭すぎるだろ?」と語気を荒げているのです。動物虐待と勘違いしたんでしょうね。
 そこで、一度、犬を出して「ハウス!」と声をかける。犬はすっとケージに入り、なかでくるりと身体の向きを変え、伏せの姿勢で待っています。
 「ほら、見ただろ。これが狭くて嫌がっているように見えるか?」
 一目瞭然。係官の誤解は解けました。

 こんな情報が満載された本です。
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