2003年12月01日「一勝九敗」「私は初診料10万円の歯医者です」「男と女の悲しい死体」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「一勝九敗」
 柳井正著 新潮社 980円

 ユニクロのCEOの本がやっと出ましたね。けど、どうせ出すなら、どうしてもっと早く出版しなかったのかなぁ・・・。社長も譲ったことだし、ここらへんで途中経過の報告というか、まとめということでしょうか。

 タイトルの一勝九敗とは、「ユニクロも失敗ばかりだったなぁ」というメッセージです。

 ユニクロといえば、フリースですね。
 テレビCMでブレイクしたのは99年のことですが、実はあれ、97年以前にも販売してたんです。  
 アメリカにモールデンミルズというフリースメーカーがあります。そこで作る「ポーラフリース」は世界一の折り紙付でした。
 ユニクロはこれを大量仕入れして売ってたんです。値段は5900円、4900円の2種類でした。
 当時、ユニクロが日本最大の顧客だったわけです。

 「ポーラフリース以上の商品を作りたい!」
 ユニクロの命題は、低価格商品高品質を自社の努力によって実現することです。で、紆余曲折、失敗の連続の末に生まれたのがあのフリースなのです。
 97年以前には80万枚の売上、原宿に進出した98年には200万枚、テレビCMに登場した99年には600万枚の計画のところ、850万枚を売り切り、00年には51種類のフリースが勢揃いして1200万枚の計画がなんと2600万枚も売れちゃった。
 これはユニクロ最大の商品になりました。

 「母さん、ぼくのあのフリース、どこにいったんでしょうね・・・」
 「人間の証明」ではありませんが、これだけ売れたにもかかわらず、さすがにいま、町中で見ることはありません。わが家にも2着ありましたけど、着ること、ないもんね。
 あれ、作業着ですからね。
 去年、電車内で久しぶりに見かけました。
 「おいおい、ユニクロのフリースだ。懐かしいなぁ・・・」
 思わず見とれてしまいました。けど、三年前にはバカ売れしてた商品だったんですよね。もう昔々の思い出だよ。

 こんなユニクロの成功、失敗物語です。
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2 「私は初診料10万円の歯医者です」
 谷口清著 新講社 1500円

 これ、なかなかいい本ですよ。
 著者は歯科医。たんなる歯科医ではありません。歯科医師会に反発して脱藩、保険医も返上。とにかく、歯科医療に全知全霊を注いでいることが伝わってくる本でした。

 近所にI歯科という自社ビルの歯科医院があります。いま、2代目がやってますけどね。 「金歯が取れたんで違う歯科医に行ったら、これ、金じゃありませんよ、と言われましたよ」と近所の人から言われたことがあります。
 「そうやって、ごまかして自社ビル、建てたんだねぇ」
 なるほど、たしかに。
 友人の経営者の奥さんの実家がこれまた、何代も続く歯科医。地元の名士です。
 しかし、彼曰く、「歯科医ほど勉強しない人間はいない。結婚以来、三十年経つけど、彼らが本読んでるの見たことない。いつもゴルフの話ばっかり」だと。

 いや、そんな歯科医ばかりではないんです。
 著者は勉強の鬼だとしても、わたしの友人にも名人、達人と言われる歯科医が何人もいます。彼らも「治療の鬼」「技術の鬼」ですが、その前に「研究の鬼」「勉強の鬼」ですね。自分の医院をほったらかして、より高度な技術をマスターするために海外に数年間、留学しちゃった人間もいますしね。
 わたしのかかりつけの歯科医の先生も、彼らから推薦してもらった人のとこに行ってます。家族中、みんなでお世話になってますけど、この歯科医の先生はものすごく丁寧で一流の仕事をしています。
 「あの先生の趣味は歯科治療だよ といわれるほどなんです。何しろ、休日はほかの歯科医院(もちろん、上手と評判の歯科医)に出張見学に行ってるんですからね。
 でも、正直、こんな歯科医は千人に一人くらいじゃないかなぁ。あとは昔、習ったことを毎日、繰り返しているだけでしょう。

 著者が歯科医を志した理由は、「大儲けできるから」でした。
 ところが、東京医科歯科大学の医学部病院長の教授から、ある日、一言。
 「君は歯科医をやらなくても食べていける才覚がある。悪いことをやっても成功すると思う。だけど、医療に関しては正道を行ってほしいんだ」
 それまでは、医局に残って博士号をとって箔をつけ、削って稼ぎ、つめて儲け、抜いて金をもらい、入れ歯でマイカーを買おうかなと思ってのに、妙に感激を覚えてしまったそうです。

 かといっても、現実の世界に戻れば、また、元の木阿弥。やっぱり抜いて儲けようとなる。
 
 それを一変させたのが、医科病棟で仕事をしていた時のこと。
 あと数日と診断されている末期癌の患者さんが、主治医が帰った後、著者にくしゃくしゃの紙を渡すのです。
 そこには、「いろいろとおせわになりました。せんせい、ありがとうございました」と書いてあった。
 「ボクは担当医の下働きで、あの患者さんに静脈注射の練習をしていただけではないか?」
 翌日、その患者は亡くなった。
 この事件が著者に生きる方向性を明確に指し示すことになります。

 初診料十万円、しかも、会員制の歯科医院。内科の全身検査を含む入会金五万二千五百円を支払うのです。
 会員制にした目的は、五百人の患者ならば自分が管理できると踏んだからです。電話を取って一分以内にカルテが取り出せます。

 一見、高い。しかし、話を聞くと安いことがよくわかります。
 治療が安くあがれば差額を返します。多めにかかった場合は、見積もりミスだから請求しない。
 事前の説明をする部屋、治療室など、それぞれに分けてある。タービン(歯を削るもの)も患者ごとに新品に交換します。
 それだけではなく、1日で治してしまう。
 だから、全国どころか海外からも予約客がやってくるのです。

 ダメな歯科医、いい歯科医の見分け方も具体的に指南しています。
 ダメな歯科医院はエックス線をかける時、防御エプロンを患者につけません。
 これ、ものすごい被爆量なんですよ。平均四百ミリレムですが、なんと、原子力船「むつ」の放射線漏れの時ですら〇・二ミリでした。歯科用フィルムはたいてい十枚〜十四枚撮ります。すると、五千六百ミリレムですよ。なんと、二万八千倍じゃないですか。

 それと領収書、明細書は必ず請求すること。すると、悪事を働けません。
 「えっ、こんな治療、受けてないよ」とわかるわけです。すると、インチキして自社ビルなんて建たなくなるわけです。

 いやはや、著者は半端ではありません。
 ここまでやれば、普通の保険医では真っ赤かでしょうな。初診料10万円でも、つい最近までは赤字だったとか・・・。21世紀は黒字転換だそうです。
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3 「男と女の悲しい死体」
 上野正彦著 青春出版社 1300円

 著者は東京都の監察医として三十年間、計二万体の死体見続けてきたキャリアの持ち主。あの名著「死体は語る」で脚光を浴びた人ですね。
 今回の本は、死体は死体でも男と女の「悲しい死体」をとりあげました。

 「悲しい死体」って何だろう?
 心中?
 そう、心中もあります。
 著者によれば、昭和三十年代から観測していると、どんどん時代を経るにしたがって激減していくスタイルだとか。
 「死ぬなら1人で死んでよ。つき合いきれないから」へと変ってきたそうです。

 「失楽園」という本があります。渡辺淳一さんの原作で日経新聞で連載されたベストセラーですが、このラストシーンは男女がセックスをしたまま心中する、というものでしたね。
 この時、原作者と編集者は二人して著書に確認してるんですね。
 「そんなこと、ホントにできるの?」

 普通はできません。青酸カリなど飲んだら苦しくてもがくからとても抱き合って死ぬなんてできない。氷酢酸だと死ぬまで時間がかかるから、そうとう苦しまないと死ねない。農薬もそうです。三日くらいかかる時もあるそうです。まして、挿入したままなんて不可能。
 しかし、著者の頭にはある死体が閃いたのです。
 
 「○○地区、旅館、若い男女の変死体、二名」という手元資料のあと、実況見分。
 畳の部屋に入ると、布団が盛り上がっている。そうとうでかい男かな、と思っていたら、布団をめくると、そこには女が下、男が上に乗って、両足と腰をお互いにきつく縛り、そのまま青酸カリを飲んで心中している姿があらわになりました。
 上に布団を掛けているからそれがまた重しになってそのままの形で死んでいたわけです。まさしく、セックスしたまま心中してるわけですよ。
 お互いに苦しいから互いにしがみついた。だから、より重なり合っていたのです。

 この時のことが記憶になりますから、「できます」と返事したというわけ。

 心中でも、やはり職業意識というか、普段使い慣れているもので死ぬという習性が人間にはあるようです。
 たとえば、発破職人の心中ではダイナマイトが使われました。芝公園の二畳くらいの石の上で、女の腹にダイナマイトを仕掛ける。抱き合ったまま点火する。男の身体はバラバラになって五十メートルくらい吹っ飛んだそうです。女のほうは腹がえぐり取られただけでした。
 また、ある男は大工さんで、自分の首をのこぎりできって死んだのです。四センチほど切ってあったそうですから、かなりギコギコしないと無理ですね。

 心中の場合、男女だけとは限りません。
 女と女、男と男というカップリングもあるのです。女と女のケースでは、たとえば、失恋とかで片方が死のうとする。それに同情した友人がつき合って死ぬということがあります。
 男と男の場合はホモ関係ですね。
 ホモ関係というのは、これが必ずと言っていいほど、男役から別れを切り出し、女役が無理心中を図るらしいです。女と女は精神的に結びつき、男と男は肉体的にも結びついているためにかなり別れがたいということらしいです。

 監察医は1日二十体くらいの死体を検分するそうですね。そして、事件性のある死体かどうかを判別するわけで。
 プロはごまかされませんよ。
 たとえば、テレ朝の社員が強姦で逮捕されたことがありました。犯人は強姦した後に精液を綺麗周到に

 事故死も少なくありません。
 たとえば、SMです。これも必ずと言っていいほど、家庭で発生するのです。首を絞めると窒息します。すると、脳に酸素が行かないから酸欠でくらくらする。1、2分間、痙攣するらしいです。その時、ものすごい快感が押し寄せてくるらしいですね(わたしはやったことがないからわかりません!)。
 こでやめておけば回復しますけど、そのまま、快感に気を取られて絞め続けていると死んじゃう。こういう事故が少なくないそうです。
 これがSMクラブとかですと、相手はプロですから死ぬような事故は起こりません。ところが、アマチュアだと首を絞めて殺してしまうわけですよ。これって、業務上傷害致死になるのかなぁ。

 オナニー中の事故死も少なくありません。
 たとえば、奥さんの晴れ着を着たまま死んだ男とかね。また、ストリップ激情のトイレで死んだとか。これはいずれも心臓発作ですが、実はオナニー事故でもっとも多い死因は「窒息死」だそうです。
 理由は、紐によるものです。
 たとえば、ある男性。もちろん、妻帯者は首とチンチンとドアノブの三点に紐をグルグル巻きにし、足とかでドアを開けたり閉めたりするとチンチンに伝わる。この刺激が快感になる(これもやったことないからわからない!)。つまり、1人SMの果てに窒息しちゃうというわけです。
 第一発見者は奥さんでした。

 大学院の実験室で、頭からビニール袋をかぶったままオナニーしていて窒息死した、というとケースもあります。これは二十四歳の学生。

 意外と心臓発作による死が少ないのにはびっくりしました。だって、腹上死だってありますもんね。
 さてさて、この腹上死ですが、やってる最中ばかりとは限らないのです。二時間後、五時間後に来ることもあるそうです。これにはちょっとショックでした。
 わたしのような心臓の弱い人間はどうしたらいいんでしょうか・・・。
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