2003年11月24日「100億稼ぐ仕事術」「武富士流 金儲けの極意」「苦悩する落語」
1 「100億稼ぐ仕事術」
堀江貴文著 ソフトバンク 1500円
著者は東大在学中に起業し、28歳でマザーズに上場した人物です。やはり、インターネット絡みのニュービジネスで、年商は100億円とのこと。
いや、頼もしいですなぁ。
人間、やはり、ここぞという時にやらないといけませんね。
この人、いつも、ここぞという時に集中して、物事を成し遂げてきたようですね。たとえば、受験、たとえば、就職。結局、会社訪問などせず、学生時代からバイトしていたパソコン関係の会社でそのまま、スキルを磨いて、独立してしまったわけ。
その後、ウェブ制作事業、インターネット広告事業、データセンター事業、オンラインショッピング事業、プロバイダー事業、IP電話事業などなど、周辺分野にどんどん進出してきたわけです。
中核があるから周辺に広げられるわけですな。
パソコンとの出会いは、中学生の時。通っていた英語塾のパソコン学習プログラムの制作を手伝って、数万円というバイト代を稼いだことです。突然、舞い込んできたあぶく銭ですから、パーっと遣っちゃった。
「まさか、これが数年後に、自分の職業になるとは夢にも思わなかった!」
たしかに・・・・。
本書の内容は、完全に著者個人の仕事術を徹底して紹介しています。マネジメント、経営書ではありません。完璧に仕事術です。
人生論、人生哲学など、まったく語られていませんから、物足りないかもしれません。しかし、20代向けにはいい内容ではないかと思います。
構成は、人、時間、情報、そして金という4分野に関して、独自の方法論を展開しているというわけです。
たとえば、「人」の章で「クライアントを増やす」という項目では、「人脈ゼロ、営業活動ゼロ。それでも、一つの信頼が次の仕事を生む」という具合。
「いまでも創業以来おつきあいしている顧客かせいるのはも最初から、手を抜かずに仕事をしていたおかげだと思っている。さらに百パーセント完璧な仕事において、納期に間に合わせることは絶対条件である」
何度か冷や汗をかいたことがあるらしいですが、その都度、応援を得て切り抜けてきた。けれども、一回だけずらしてもらったことがあるらしいんです。
「事情を話して、仮のものを納品し、あらためて一カ月ほど後に本番のものを納品することになった。代金は頂くことができたが、この顧客からの追加の発注は二度となかった」
とにかくやってみる。やりはじめて、覚えてくると面白くなる。面白くなると、スピードがどんどん速くなってくる。
150円高。購入はこちら
2 「武富士流 金儲けの極意」
高島望著 ポケットブック社 1400円
またまた、やっちゃいました。これ、七年前の本なんですが、当時、たしかに読んだことがあります。途中で気づきました。
今、テレビや雑誌で「武富士問題」が騒がれているでしょ。「解雇した幹部社員やジャーナリストを軒並み盗聴してた」とかいう問題ですね。
この問題はものすごく大きいと思いますよ。
バブル崩壊後、都銀をはじめとした銀行の評判は地に落ち、逆にいままで「サラ金、サラ金」とバカにされてきた消費者金融業界のイメージはここ数年、アイフルのくーちゃんや武富士のダンスCMなどもあって徐々に偏見が薄れつつありました。
それが今回の事件一発で吹っ飛んでしまいましたね。
「しょせん、サラ金はサラ金か・・・」
いま、書店に行くと、武富士関係の本がたくさんあります。たとえば、「武富士と山口組」とかね。これも買いましたけど・・・。それにしても、物騒な取り合わせですなぁ。同類項ってことなのかねぇ?
そんななか、ブックオフに行くと本書があるじゃありませんか。思わず買ってしまいました。
著者は松下政経塾出身で、その後、武富士のオーナーの娘さんと結婚した人、すなわち、女婿ということになります。
いきなり、取締役人事部長を拝命するなど、武井オーナーから二十四時間薫陶を受けたキーパースンのようですね。
この人、一度、島根県で新進党から出馬したことがあるらしいです。本書によると、「いまも衆愚政治を打破するために政治活動に邁進している」らしいですが、今回は立候補してなかったのかな。
それとも、来年の参院選に出馬するんでしょうか・・・。
本書を読むと、武井さんという人物がいかに巨魁であるかということがよくわかります。
まさに、「経営者」としては超一流の人間だと思いますよ。
「この人なら、絶対に成功をものにする!」という成功欲の塊のような人です。
「よくまぁ、ここまで・・・」というところまでやりきらないと、とても成功などしないってことがよくわかりますよ。辟易するほどの執念です。
「もう、成功なんてしなくてもいい!」と思えるほど頑張れるか? 「成功ってのはそこまで徹底しないとできないんだな」ってことが伝わってきます。
武富士は昭和41年、36歳の時、わずか4坪の事務所からスタートしました。それがいまや、一万社とも二万社とも言われる業界の中でトップですよ。
それまで、米の行商、パチンコ屋の店員、国鉄の下働きなど、数々の仕事をやってきたそうです。しかし、女婿にさえ詳しいことはあまりよくわからないとのこと。
団地の住民相手に少ないタネ銭で金を貸す。金主の信用を得るために、あらゆる努力をしたとのこと。たとえば、接待にしても、徹夜や2日酔いでふらふらになっても、熱いお湯で顔を洗って活力を演出しては勤めたそうです。
いや、たいしたもんだ。すごい!
この人は超ワンマンで、けっして他人任せにはしないそうです。これは徹底しているそうです。たとえば、駅前のティッシュ配りやお客への飴やお茶のサービスはもちろん、「¥enshop 武富士」「¥en結び」といったコピーもすべて自分で考えたものです。
これだけの成功を収めてきたポイントは、失敗を未然に防いできたからでしょうな。
「失敗は成功の元」なんて、全然考えていないそうです。これは実母からたたき込まれたそうですね。
ハリウッドの映画会社との提携でも、仮契約まで結んでも、ある日突然、「ヤーメタ」となる。話を具体化するために、骨を折り、根回しをしてきたのも水の泡。違約金を請求されてもけっして払わない。
「これは儲かる」と思いこんだ時点では、ものすごい執着心と実行力を発揮するものの、いったん、「これはどうなるかな?」と疑心暗鬼を抱くと、その撤退ぶりは実に素早いとのこと。
担当者の面子丸つぶれ、人間関係はこじれる、会社の信用も失うかもしれません。しかし、進めて赤字を出すよりも勇気ある撤退が必要なのではないでしょうか。やはり、経営者はこうでなくてはいけないでしょうな。
この人にとって、社会的名声や見栄などは無縁なんですね。
人を見る目も厳しいですよ。
たとえば、東日本ハウスの社長(当時)に中村功さんという人がいます。この会社の株が上がるというんで、まとめ買いしたところ、証券会社の紹介で歓談することになった。
その席で数字などの経営上の細かいことを根ほり葉ほり聞いた。ところが、満足な回答を得られなかった。すると、どうしたか?
「あの会社の株を全部売れ」
もう痺れてきますね。投資というのは、このくらい真剣にすべきなんですよね。歓談してる時も金儲けのことしか考えないわけです。だから、見切り千両ができるわけですよ。
四六時中、金儲けを考える。カラオケを歌っている時は社員サービス、好きな競馬は勘を鍛えるため、つまり、「一日中、金儲けのことばかり考えている」というのです。
人脈作りにしても、異業者交流会なんか出ない。「そんなものは何の役にも立たない」と徹底しています。
彼にとって、人脈とは金儲けの手段であり、そのためには、わからないことがあれば、呼びつけてポイントだけを聞く。わからない点だけを質問して、わかればそれで終わり。自分から出かけて教えを乞うことなどしないのです。人間関係には対等の関係など無く、必ず上下いずれかなんですね。
「ナンバー2を非常に怖れる」とのこと。ナンバー2にのし上がった人は、それまでどんなに可愛がられようにいずれ必ず粛清される運命となるらしいです。
というのも、会社に指揮官は一人いればいい。二人の指揮系統があれば、船はとんでもない方向に進んでしまう。武富士という会社は、オーナーが指示を出し、残りの人間はその実現化のためにきちんと仕事をすればいいだけなのだ、と徹底しています。こういう会社には、派閥なんてないでしょうな。すべてオーナー閥ですからね。
オーナーと違う意見を持つということは、会社を辞めるという意味なんです。
なぜか?
オーナーが自分以上に勉強してる人間は社内にはいない、と考えているからでしょう。また、この強大な権力は義務と責任と裏腹である、ということを熟知しているからでしょうな。どこぞの銀行のように、だれも責任を取らないという体質ではないんです。
失敗はすべてトップが取る。だからこそ、超ワンマンを堂々とできるんでしょう?
さすがに盗聴まではしなかったでしょうが、著者も社員を調査したことがあるそうです。
「あいつは謀反を計画している」といきなり言い出す。その人物は外部から役員として迎え入れた人間ですが、チェックすると、とんでもない問題を抱えていることが発覚。
とにかく、勘が鋭い。
感心したのは、友人知人からの借金の申込をどうあしらうか、という点です。
消費者金融は限度額が低いのが一般的です。ですから、億単位の融資となると、オーナーに直接、借金を申し込むのが普通です。
この時の対処方法が鮮やか。
著者は義父のことだから当然、即座に断ると思っていたら、意に反して、「ちょっと待って欲しい。いまちょっとほかの案件で引っかかっていて、それが片づいてから・・・」と、まるで融資するという口ぶり。
相手もホッとして、なんとか頼むと帰る。
ところが、その後、何度、連絡があろうが、言質を取られないようにのらりくらりとかわすばかり。
さすがに、著者も不思議に思って聞いてみる。
「貸すわけ無いだろう。だが、無碍に断るとそこで人間関係は途切れてしまう。腹いせに悪口をいいふらされるかもしれない。友人を見殺しにしたと世間の目も冷たい。とにかく、このまま引き延ばしておけばいい。事業家なら、当然、ほかにも手を打っているはずだ」とこともなげにいう。
その後、相手から電話が入る。
「別で調達したから、ありがとう」
断らず、かといって貸さず。
さすがです。
こういうタイプの経営者、いまの時代、少ないんじゃないかなぁ。とくに、サラリーマン経営者にはいないでしょうな。
「どうせ他人の金だもの、無くなろうと知ったこっちゃ無い」
これが公的資金や公共事業や補助金にたかってる経営者でしょ。
「一度つかんだゼニは絶対に他人に渡さない!」
このくらい金に執着しなければ、金貸しはできませんよ。
250円高。購入はこちら
3 「苦悩する落語」
春風亭小朝著 光文社 800円
「寄席がなくなってしまうのは困るけど、別にいつも出演していたいわけじゃない。これが多くの噺家の本音です。
そして、せっかく今までやってきたのだから、これからも続けていく気はあるけれども、もし、バブル時のように高額で買い取ってもらえるならば、寄席を売ってもいい。これがお席亭の本音でしょう」
なるほど。
厳しい発言がそこかしこに飛んでいます。それだけ、落語を愛し、噺家を愛しているからこそなんでしょうな。
いや、落語家の世界というのは狭く、特殊であり、また閉鎖的でもありますね。ですから、彼らを取り巻くものは大幹部から前座まで含めて、「不安、嫉妬、絶望」なんです、と。
いやはや、たいへんな社会です。
しかし、よく考えてみればたしかにそうです。
ここは相撲業界と同じで、師匠から見放されたらもう生きていけませんもの。ほかの師匠が拾ってくれたら別ですよ。でも、どこかの師匠について前座、二つ目、そして真打ちとる、いわば、縦の関係がずっと続くわけですよ。
それだけに師匠を選ばないと大変なことになります。
以前、本欄で円丈師匠の本を紹介したことがあります。あれなんか、悲惨ですもの。いまでこそ、円丈さんは落語協会の副会長という大幹部ですけど、師匠の円生さんが落語協会を脱退すると、完全に席亭から一門が干されてしまいましたものね。ホント、円生さんが死ぬまで続きましたもの。
「噺家同士、仲良く手をつないでいてはダメだ。一人一人が商売敵なんだから、芸で真剣勝負をしなくてはいけない」
これは小さん師匠の言葉だそうですが、たしかに高座の上で戦うことは大事。しかし、その前でくたくたになってる人がなんと多いことか・・・。
たとえば、楽屋で五人くらいの噺家がその場にいない噺家の悪口を言う。そのうちの一人が帰り際に、「今度はみんなで俺のことを悪くいうんだろ」と決まり文句を口にする。
これがけっしてジョークではない。
落語家は前座修業がつきものです。
小朝さんも末広亭では、まずは炭をおこす、座布団を並べる。お湯を沸かす。出演者のメクリ(舞台の横にある名前の表)を揃える。それが済んだらフリータイム。高座に上がって一席噺したり、太鼓の自主トレ、ネタ帖を見て傾向と対策を練ったり・・・。
こんな毎日をおくっている下っ端にも、下っ端なりに夢がある。
それは「売れて、なおかつ、実力のある噺家になること」でした。いまの若手でもそう考えている人はたくさんいるでしょう。けど、彼はその真剣度合いが全然違うと断言します。
先月、NHKで新人落語家コンクールがありました。あまりうまくもない二つ目が優勝しました なぜ、ほかの噺家が選ばれなかったのか?
実はこんなことは昔からあったようですね。
「何年か前に、NHKをはじめいくつかのコンクールで賞をとった二つ目に、昇進の噂さえないのはなぜか、とある理事におたずねしたことがありました。すると、審査員にひとりも噺家が入っていないだろ? 素人たちが選んだ人間たちを、はい、そうですかと認めるわけにはいかないんだよ、とのこと。これには納得です」
ですから、コンクールがもっとも困るのは噺家の仲間内でまったく話題にもならないことです。
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