2003年08月18日「マネーマスターズ列伝」「精神科にできること」「通りの達人」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「マネーマスターズ列伝」
 ジョン・トレイン著 日本経済新聞社 2400円

 いわゆる大投資家といわれる人たちの投資哲学、その手法などをインタビューでまとめた好著。
 なにしろ、登場するのがバフェットにジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズ、ベンジャミン・グレアムなどなど、総勢で十七人にものぼる。投資家のアイドル的な存在である。もちろん、垂涎の的、注目の的といったところだろう。

 ただし、わたしはその人生哲学のほうに関心があった。
 というのも、いったいどの瞬間から投資の世界に飛び込もうとしたのか。投資スキルをどこで、だれから、どのようにして習得したのか。それで若い頃、中堅どころ、そしていまと分ければ、戦績はどうなのか・・・。運命をどう考えるか・・・。
 彼らの形而上的な部分と形而下的な部分。両方をインタビューから垣間見ることができればと考えた。

 この目的はほぼ達成できたといっていいのではなかろうか。1人についてそれほど多くのページを割いているわけではないけれども、それだけにかなりのやりとりを通じて、ポイントを絞り込んだ感じがある。

 有能な投資家には常に3つの投資方法が求められている。
 1つは将来を見据えた成長株投資、2つ目は割安株指向のバリュー投資。そして3つ目は市場ではまだ人気の出ていない新奇な、しかし有効な投資テクニック。
 これら3つの中から自分にあったスタイルを選ぶのである。

 ただ、「これ一本で行く」と意固地なわけでもなく、もうリターンが期待できないと見て取るや、バフェットは割安株投資から成長株投資に移行し、ロウ・プライスのポートフォリオは成長重視から資産価値重視へと移行している。ここらへんは抜け目ない。
 プロの投資家の原理原則はいくつかある。
 たとえば、「いま、人気のある方法は避ける」というもの。これは賞味期限がもうすぐ切れる、という意味ではない。いまさらやっても二番煎じで創業利益はすでに取られてしまっているから、やる甲斐がないという意味だ。

 ロウ・プライスの手法は、計画通りに売買を展開することだ。
 たとえば、いま、20ドルで買ったけれども、これが40ドルにあがれば欲をかかないですぐに売る、という具合である。
 能力も経験もあるが、市場動向にはそれほど詳しくない投資家にとっては、目先の売買を前提とした投資方法よりも、長期保有のほうが現実的にメリットがある。これなら、いろいろと情報を聞いて回る必要もないし、なにより、次から次へと難しい判断を要求されることもないからである。

 バフェットの場合、ほとんどの企業は実体価値以上の値段で売買されているのが普通だが、ごくまれに景気や相場の見通しが悪いために、一流企業が市場から見捨てられていることが少なくない。そんな時こそ、思い切って投資する。
 彼が好むポートフォリオは極端なコア銘柄に対する集中投資であり、あれもこれもリスクを回避した分散投資は「ノアの箱船式投資法だ」と決めつけている。また、割安銘柄にはあまり関心がないようである。
 割安銘柄ではなく、成長銘柄に注目しているのだ。割安とは結局、資本利益率が低い会社のことなのだ。だから、大もうけの難しい。高成長には資本利益率が高い。その会社が成長しているかぎり、ずっと儲けられる。

 株を買うということは、持ち分比率に対して企業を所有するという意味である。だから、バフェットは投資する前に、「この会社を丸ごと買うとしたら、自分ならいくら出すだろうか?」を考える。
 「自分で本格的に投資する前に、10年ないし15年間、理論と実践両面から集中的に訓練すること」という。これは彼自身がベン・グレアムに弟子入りしていたことからも言える。
 とうのグレアム自身は、時価総額が運転資本の額を著しく下回っている時に買い、両者がほぼ一対一に戻った時に売るという方式に勝るものはないことを発見した。彼は「業績が悪く、短期見通しも暗く、全体的に悲観ムードが漂っていて株価が低い時」こそ、絶好の投資チャンスというのが持論だし、「大幅な値上がり直後の買い、大幅な値下がり直後の売りは絶対にダメ」とも述べている。
 ただ、グレアムは数字だけを見ていればいいというスタンスだったが、バフェットは経営者のインタビューをかなり重視している。つまり、量的なデータだけではなく、方針とか哲学といった質的な部分にも注目していたのだ。
 経営者に対しては、「モーレツであるかどうか」という一点が重要だと述べている。 「自分のよく知っている企業だけに投資せよ」という通り、コカ・コーラやペプシ・コーラなどに投資していた。
 「勝ち目があると見たら大きく賭け、それ以外は手を出さない」というのもバフェット流である。

 モンデルトンの場合は、割安株に投資するが、もはや割安ではないというタイミングに別名柄へと乗り換える。
 
 ジム・ロジャースは銘柄というよりもその国が気に入ったら、そこに乗り込んであれもこれもと株に投資するタイプである。アナリストやエコノミストの意見などまったく聞かない。もちろん、格付け機関の査定も無視。
 自分で単身、その国に乗り込んで自分で調査するというタイプなのだ。
 彼がソロスとともに初期に、あのクォンタム・ファンドを立ち上げた張本人である。
 「財務諸表よりも貸借対照表を重視する」とも述べている。彼は倒産寸前の会社を買うのが好みだが、こうした会社は表面上の欠損にもかかわらず減価償却に由来するキャッシュのおかげで危機を乗り切ることがよくあるのだ。

 ソロスの方法は、はじめは小さく儲けて、うまくいったらポジションを大きく増やしていくという方法である。
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2 「精神科にできること」
 野村総一郎著 講談社 660円

 著者は防衛医科大学教授。専攻は精神医学。
 最近、うつ病に関する記事が目立つが、アメリカでは成人の実に28・1パーセントが精神障害を経験している。日本でも統計では、183万人の人が精神科外来を受診しているとか(平成8年)。いまなら、もっと多いだろう。
 うつに関しては、成人人口の10パーセント強が苦しんでいる、とされている。結局、アメリカとほぼ同規模なのである。

 日本が不景気になり、リストラと成果主義が浸透し、組織の中でストレスが増えていることと無関係ではなかろうが、とくに銀行員は少なくないのではないか、と思う。
 というのも、知人の銀行員から聞けば、彼の近くの部署では上司のまわりをうつ病や心身症で悩む行員が取り巻いている、という。その行員にとっては、その上司とだけはコミュニケーションができるらしいのだ。

 うつ病や心身症というのはある日突然、何かをきっかけにして発病する。
 たとえば、電車内で突然、お腹が痛くなって脂汗という経験はだれにもあるだろう。この時、なんとか治ったとしたも、その後、また電車に乗ると、「お腹が痛くなるのではないか?」という意識が本当に痛みを誘因してしまうのだ。
 これはわたしにも体験はある。
 この時、同僚が車内にいて、「大丈夫。痛くなったら医務室に連れてってあげる」と言われたとたんに一安心。もう治ってしまうのである。
 ところが、毎度、同乗してもらうわけにもいかない。かといって、意識してしまうものは意識してしまう。
 そこでどうするか?

 たとえば、ある人がわけのわからない動悸に長年、苦しめられていた。心臓をいくら調べても異常はない。精神的なものであることは自分でも感じていた。
 しかし・・・わからない。
 この時、医者が「そんなことはありません。それは気のせいですから安心してください」と言っても、本人はドキドキしてるわけである。
 精神科医は患者の「意識の世界」に働きかけて、大丈夫と言っても、精神分析ではこんなものは治療とは言わないのである。
 この患者の無意識の世界に実は問題点が隠されているから、症状が取れないのである。この問題点に気づきたくないからこそ、無意識の世界にそれを追いやって、その無理がたたっているわけである。
 そこで、治療では自由に患者に語らせ、長い時間をかけて無意識の世界にアプローチする。そこに閉じこめられているものを解放させ、その意味に患者自身が気づいた時、症状は治っていく。
 この患者の場合は、幼い頃に弟の交通事故を目撃し、その恐怖心がショックとして残っていたのである。表面意識では忘れていたかもしれないが、無意識の世界ではまだ残像が残っていたというわけである。
 無意識の世界に巣くっていた症状を意識の世界にまで引っ張り出す。そして、もう大丈夫だと認識してはじめて、症状が治まっていくのである。トラウマというのは怖ろしいほど根深いのである。

 ところで、精神障害の脳異常というのは機械で調べても正常人とは違いはほとんど見られない。
 精神障害の脳異常とは形ではなく、あくまでも機能なのである。ハードウエアが異常なのではなく、ソフトウエアがおかしくなているのである。
 そこで脳波なとが出てくるけれども、これもてんかん以外はあまり当てにはならない。うまく出てとしてもおおまかな範囲しかわからないのである。

 統合失語症という症状がある。つい最近まで精神分裂症といわれてきた病気である。
 これは薬が効くケースがある。だいたい7割程度は薬が効くという。服用してから二カ月ほどで不安、興奮、幻覚などから解放される。再発率も高くない。
 
 うつ病の治療でもっとも大切なものは「休養」である。薬だけではダメで、薬と休養との二人三脚が有効なのである。
 というのも、うつ病に罹る人というのは「手を抜かない生真面目タイプ」が多いからである。ということは、わたしには無縁の病気ということになろうか。
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3 「通りの達人」
 石塚英彦編集 日本テレビ 1238円

 自称、「商店街」通のわたしとしては無視できない本である。
 なにしろ掲載している通りは下記の通り。
 深川門前仲町・向島見番通り・柴又・日本橋・おかず横丁・両国通り・横須賀・青山通り・代官山・広尾・麻布・浜松町・湾岸通り・錦糸町・早稲田・西荻窪・北千住・茶沢通り・武蔵小山・築地・鎌倉・江ノ島/湘南・三崎・潮来/佐原・勝沼・北海道・沖縄・鹿児島・銀座・六本木・新宿・渋谷・池袋・汐留・横浜・上野/アメ横・原宿・吉祥寺・下北沢といったところ。
 これはたまりまへんなぁ。

 通りが何がいいって、やはり、味である。
 とくに通りといえば、コロッケであり、総菜である。
 石塚さんのようにご飯抱えて、通りを歩き、あっちからコロッケ、こっちからおでんというようにどんどん火薬ご飯のように入れてしまい、ガッツクというのは至福の瞬間ではなかろうか。

 わたしの趣味は商店街巡りである。地元の横浜にはたくさんの商店街がある。
 日本でいちばん長い商店街といえば?
 そう、伊勢佐木町商店街である。
 また、横浜橋商店街にはオリーブオイルで焼いてるたこ焼き、コロッケもあるし、何と言ってもキムチがすごい。朝鮮漬けやホルモンの店がたくさんある。
 一度、ご飯だけ抱えて回ってみるか。
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