2003年08月11日「口コミの経済学」「40歳をすぎてからの賢い脳のつくり方」「記憶力を強くする」
1 「口コミの経済学」
田中義厚著 青春出版社 700円
いまや口コミは販売促進のキーワードだ。
多額の費用をかけてもまったく売れない商品。営業マンが頭を抱える中、口コミで火がついたとたん、バカ売れ。
こんなことも少なくない。
たとえば、昔のケースでは「いっぱいのかけそば」。これ、バブルの時の落とし子だ。わたし自身、知人に誘われて聞きにいったもの。栗良平さん。その場で本とテープを十セット買ったものである。
中には泣いて聞き入っている経営者もいた。
いま、香港で大ヒットとか。日本では「あの人は今・・・」にしか出ないけれども。
「天国の本屋 という本がある。かまくら春秋社という出版社から出された本である。しかし、これが売れなくて断裁一歩手前まで行った。
その時、千葉県の某書店店長が感動して大量に発注。店長自ら推薦文を書いて売り出したところ、お客さんが列をなして買ってくれる。結局、二十五万部も売れたとか。実はわたしも買った口である(まだ読んでないが)。
「白い犬とワルツを」も同じやり方。
具体的にはどうするか? 本書はケースは豊富だが、具体的な方策についてはあまり述べられていないので、わたしがかわりに述べよう。
まず話題を作る。その話題はできるだけ出版社ではなく、お客さんサイドに立った人がいい。
中にはアメリカでよくコンサルタントが使うベストセラー対策があるが、これは著者自ら今後出したい本の内容を簡単な冊子にして街中で配布する。そして、読者から読者へのプレゼント攻勢を仕掛ける方法だが、こんな直裁的なマーケティングではなく、あくまでも店長が推薦する、読者が推薦する、一部のカリスマファンが推薦するといった切り口でガンガン草の根宣伝をするわけだ。
昔、キョンキョンが推薦した本が続々とベストセラーになったことがあるが、あれと同じである。
面白いのはサッカーJ1リーグのベガルタ仙台である。
このチーム、去年、ようやく一部に昇格したが、それまではもう廃部寸前まで行ったらしい。それが去年の観客動員数は一試合平均二万千百六十二人。
これは浦和レッズ、横浜F・マリノス、FC東京に続く堂々たるもの。あの鹿島アントラーズよりも多いのだ。
このチームができたのは九十五年のこと。最初は「ブランメル仙台」というチーム名だった。
第三セクターで作られたから税金投入でいい加減だったのだと思う。最初はカネにものをいわせて高い移籍料で有名選手をガンガン入れた。
ところが、これが勝てない。累積赤字はどんどん溜まる。J1には昇格できない。
これでは仙台市民も怒るに決まっている。
「もうやめちまえ」
これに驚いた球団は二〇〇〇年から大リストラに着手。年俸の低い若手選手を中心にチームを新たに編成。出直しをはじめる。
「このままでは無くなる」
いずれにしても、仙台市民はみんなそう感じていたのである。
ここからはプロジェクトXである。
とくかく、二〇〇二年のワールドカップまでは潰さないでおこう。仙台でもゲームがあるのに、「ホームチームは消えました」では洒落にもならないからだ。
「どうせ無くなるなら、最後はパッと打ち上げ花火みたいに応援してやろう」
こんな声が出てくる。これがインターネットのメーリングリストとかでどんどん増殖するのである。
これが口コミではじまった「ブランメル応援合戦」のきっかけである。
チームカラーの緑のビブス(サッカー用のベスト)を無料で市民に配る。それを着て応援に来て欲しいというわけである。スカスカの客席が緑色で染まったらなんと痛快なことか、というわけである。
口コミで集まった仲間たちは有志による後援会を発足。自分たちでスポンサーを見つける。
「小さな布を集めて大きなフラッグを作ろう」
こんなお祭りで市民もビラまきに協力したり、スタジアムに集まってきた。
応援だけにとどまらず、場外での観客の誘導、チーム年鑑の作成まで、ボランティアで引き受けるのである。
おかげでチームの戦績と人気がうなぎ登りとは言わないまでも、右肩上がり。とうとう、J1に昇格してしまうのである。
元々、仙台人はお祭り好きで協力し合うのが好きなのか。
これが全然違うのだそうだ。「しがらみが多く、保守的で、何かやろうと一致団結することがない」とのこと。
いずれにしても、口コミで成功したケースである。
口コミは諸刃の剣で、商品をブームにもするし、殺しもする。「正の口コミ」もあれば、「負の口コミ」もあるのである。後者を通称、「ネガティブ・キャンペーン」というのだが、わたし自身は「負の口コミ」と定義している。
たとえば、落ち目になった時のユニクロ、マック(マクド)がそうだし、インチキ商売で汚点をつけた日本ハム、雪印などがそれに当たる。
口コミを笑うものは口コミに泣くのである。
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2 「40歳をすぎてからの賢い脳のつくり方」
高田明和著 講談社 880円
古今東西の偉人を見ると、多くの著名人は若い時に有名な人から薫陶を受けている。
20世紀の著名人を調べた結果、82パーセントの人がそうだったとのこと。とりわけ、68パーセントは子どもの頃に将来、自分が活躍する分野の著名人の中で育っているのだそうだ。
ノーベル賞受賞者の半数以上がノーベル賞受賞者の弟子なのである。やはり、いい教育、いい情報シャワーの下で勉強することがいい影響を与えているのである。
裏返して言えば、身近にやくざ、暴力団、ちんぴらのような悪党に囲まれて育っていると、だいたい、これと同じ比率で不良人間の拡大再生産ということになるのではなかろうか。
いずれもエリート教育であることは同じである。
子どもは親を選ぶことはできない。
敷衍して言えば、生まれる子どもは国家を選択することもできない。
となると、「生まれてこのかた、戦争のなかった時代は一度もない」という人もたくさんいるのである。中には、生まれついた国が覚醒剤と偽札作り、誘拐ビジネスを国家事業として取り組んでいる、というケースもあるのである。
本書は脳研究の第一人者による、科学エッセイととらえたほうがいいだろう。本線である脳科学はもちろんのこと、仏説、政治論、社会批判、教育論まで、内容は多岐に渡っているからだ。
本論を少し紹介すると、脳には一千億個の「神経細胞(ニューロン)」がある。そのうち、見たり、聞いたり、考えたりする五感に関連する大脳皮質には百五十億個の細胞がある。神経細胞は突起を伸ばして別の神経細胞とネットワークを作っている。
このリンクするポイントを「シナプス」というが、生後はたった二個、それが四十歳ともなると平均二千個のシナプスをもっているから、神経細胞にはトータルで一千億個×二千個=二百兆個のシナプスが結合していることになる。
インターネットもびっくりのネットワークなのである。
もちろん、インターネット同様、ネットワーク間は「電気信号」でそれぞれのコマンドが送られることは同じである。
生後しばらく経つと、言葉を話したり、歩き出したり、自転車に乗ることができるようになるのも、このネットワークが徐々に形作られるからである。
仕事でうまくいくと、誰しも嬉しく感じる。それが難しい仕事であればあるほど、なおさらであろう。
この時、脳の動きはどうなっているかをMRI(核磁気共鳴映像法)でチェックすると、不安を感じる「海馬(記憶力を支配する部位)」の帯状回や怒り、恐怖を感じる「扁桃」の活動が弱くなり、快感を感じる「側坐核」の活動が活発になっていることがわかる。
活発にさせた脳内物質はセロトニンとドーパミンである。これらが増えるから嬉しく感じるのだ。
結論を言えば、人間の感情は神経伝達物質によって決められる。
たとえば、脳幹に細胞体があるセロトニン神経は刺激されると元気になったり、前向きになったりするから、うつ病患者には脳内のセロトニンを増やす薬を使っている。セロトニンが増えれば、元気になり、減れば暗い気持ちになるといった具合である。
神経伝達物質というと快感物質ドーパミンが一般に良く知られているが、これは増えると快感を覚えるものだ。コカインなどの麻薬を服用すると、一時的にドーパミンが増えて快感、幸福感が高まるから止められないのだろう。
コルチゾルが出ると、ストレスが抑えられるのだ。コルチゾルは記憶を悪くするから、嫌なことは忘れたいという欲求にはうってつけだが、これは一時的な効果しかない。だから、学生にコルチゾルを飲ませた実験では、彼らは一時的に記憶ができなくなってしまうが、薬が消えれば元のようにきちんと覚えるという結果がわかっている。
強烈なストレスの中に「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」というものがある。
ゲリラに悩まされて敗北したベトナム戦争の帰還兵などがよく悩まされているものである。
エール大学のブレムナー博士がベトナム帰還兵の脳みそをMRIで調査したところ、「海馬」が小さくなっていることがわかった。しかも、戦争の最前線にいる期間が長ければ長いほど小さいのだ
「おぞましい戦争体験者の強烈なストレスには、このコルチゾルが強烈に分泌し、それが海馬を縮小させる原因になったのでは?」
ところが、そうではなかった。
海馬の神経は調味料でもおなじみのグルタミン酸という神経伝達物質を使っている。これが多く放出されると海馬の細胞を殺してしまうことがわかったのである。
人間は悩めば悩むほど人間として一皮むけるのではなく、脳の機能を破壊してしまうのである。
ほんの些細な悩みでも細胞は傷つけられ死滅していると考えたほうがいい。
PTSDの最たるものは愛する人との離別、死別である。もちろん、海馬は萎縮してしまう。強烈なストレスで海馬が異常に興奮し、一気に細胞を死滅させるのである。
だから、このようにストレスに陥っている人には優しい言葉をかけてあげたり、身体をさすってあげることが効果的なのだ。魂の癒しともいうべき行為が脳みそを回復させるのである。
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3 「記憶力を強くする」
池谷裕二著 講談社 980円
著者は東大の薬学部の助手。脳に関心を持ち、学生時代からずっと研究していたらしい。
いまでは、若手の脳研究家の第一人者である。
神経細胞は生まれたばかりの瞬間がもっとも多く、年を取るに従ってどんどん減っていく。そのスピードは、一秒に一個の割合で減っていくのだ、という。
重さは七十歳になる時には五パーセントほど減っているのだそうだ。
ただし、自然になくなる神経細胞のほとんどは、脳の中で必要とされなかった神経細胞ばかり。
よくパソコンを起動すると、「このソフト、一度も使ってないから整理してはどうか?」とウィンドウズから提案されることがある。発想としては、ああいうことなのだろう。
ところで、げんこつで頭を軽く叩くだけでも、そのたびに数千個の神経細胞が死んでしまう、という事実にはびっくり。あまり冗談でも、人の頭など叩くものではない。ハリセン芸人やボクサーなど、あまり叩かれると神経細胞がガンガン無くなっているのである。
大丈夫かなぁ、ガッツさん。
脳神経細胞は増殖しない、というのが定説だったが、どうやら、海馬(記憶を支配する部位)の帯状回の細胞だけは増殖するらしい。これは最新の脳科学で明らかにされている。
たとえば、前回、ご紹介したケースだが、本書でも同じ話が掲載されているので再度、ご披露しよう。認知心理学者のエレノア・マグアイアー博士はロンドン・タクシーの運転手十六人と一般人五十人を調査したことがある。
ご存じの通り、ロンドン・タクシーは日本のそれと違って、住所を言うと、ホントにその真ん前までピンポイントで届けてくくれるのだ。そのくらい正確に、しかも近道を知らないと務まらないプロの仕事である。
その運転手さんたちの脳をSMRI(構造的核磁気共鳴画像法)で詳しく調査したところ、海馬の部位が発達していることがわかった。海馬とは両耳の奥に左右一つずつ、直径一センチ、長さ十センチくらいの細長い器官である。記憶を一時的に残すメモリー機能が仕事である。
この海馬の後方右側が発達しているのである。約三パーセントの発達が見られたといえうが、これは脳の神経細胞は二十パーセント・アップという意味である。
海馬に代表される人間の記憶力は年齢にはまったく無関係。どれだけ使うかどうか。鍛えるかどうかで、頭はどんどん良くなるのである。
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