2010年03月19日「中島孝志の 聴く!通勤快読」全文掲載! 「幸せ上手」 渡辺淳一著 講談社 1100円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 これ、ラジオで宣伝してたんですけど、だから買いませんでした。
 どうしてかというと、「幸せ上手になれるチャート式処方箋」なんて話してるんですもん。
 たしかにありましたよ。けど、それは帯裏のコピーのみ。本文には一切ありません。
 書店で見たらちがうじゃないですか。

 なんだ、そういうことか。なんとかして売りたいからそんな小細工したんだな・・・疑問氷解。
 それで買ったんです。
 この著者の本をノウハウ本、ハウツー本にしちゃいかんですよ。

 「幸せ上手」になるにはやっぱコツがありますな。基本はポジティブシンキングなんですね。
 ベースはそれです。
 章立ては
 「幸せとは卑近なかたち」
 「身体の中は幸せだらけ」
 「自律神経を学ぼう」
 「デメリットのなかのメリット」
 「既成概念から抜け出す」
 「変われるのが才能」
 「学校以外で学ぶもの」
 「知識より知恵を積もう」
 「恋愛という自己革命」
 「人と近づく第一歩」
 「進歩するものと、しないもの」
 「男時から女時に」
 ・・・です。医師であり作家であり、酸いも甘いもわかっている人が書いてるだけに、「おとこ瀬戸内寂聴」と私は思ってるんですけどね。ええ本でっせ。

※※ここまでが公開情報です。「中島孝志の 聴く!通勤快読」の会員以外の方にもテキストデータのみ(音声データは別)をご紹介させていただきます※※

かがまりて 君の靴紐 結びやる 卑近なかたち 倖せといふは

 中城ふみ子という人の歌ですね。名歌ですよ。
 若くして乳癌となり、当時の医療水準では治す術もなく、乳房を失いながら、だからこそ、奔放な愛の遍歴を続け、『乳房喪失』という歌集を遺したんでしょう。
 31歳で亡くなった彼女の生涯を小説にしたのは渡辺淳一さんでした。
 タイトルは『冬の花火』。奇しくも彼女が息を引き取った病院は著者の母校(札幌医大)でした。縁なのかもしれませんな。

 愛する人と一緒に歩く。
 靴紐がほどけていることに気づく。
 ちょっと待って、とかがまって紐を結ぶ。

 どこにでもある風景ですよ。とるに足らない風景ですね。何気ないシーンです。
 けど、彼女はそこにしみじみと幸福を感じたんだ、というわけです。

 どうしてこんなことに幸福感を覚えたんでしょう? いろんな考え方ができるでしょうが、彼女は地獄、修羅場、どん底にいたからではないでしょうかね。ちがいますかね。私、そんな感じがしてならないんです。

 大きな呉服店の箱入り娘として生まれ、19歳で結婚。3人の子宝に恵まれたものの、やがて離婚。1人で子供を育てようと決心したんでしょう。
 そのうち乳癌を患い、闘病生活を余儀なくされます。その少し前、ある大学生と恋に落ちます。つかの間の愛に没頭します。この歌はその頃のいい思い出なんですよね。
 哀しいですね。愛しい人です。
 
 たくさんの夢があったと思います。その夢を1つ1つ叶えていく作業ほど愉しいものはありませんね。時間のある人、まだ時間を残されている人にはそうですね。
 けど、彼女はどうか。そんな時間などありません。冬の花火はすぐにでも消えてしまうほど儚いんですね。人偏に夢で「儚い」なんてね。

 現実を見ると、なに1つ叶えられそうにありません。いや、苦しくて辛いことばかりでしょう。痛み、苦しみ、不安、恐怖、絶望、孤独、諦観・・・いろんな思いが訪れては消え、消えては訪れたことでしょう。
 そんななかで人生のオアシスを見つけた。それが恋だった。

 もし夢にハードルがあったとしたら、時とともにどんどん低くなっていったと思います。病の進行とともに。ただし、それはレベルが下がったからではけっしてありません。逆です。人間の霊性、霊格が格段にあがった証拠なんですね。

「スプーン一杯で十分。靴の紐を結んであげることで、幸せって満喫できるんだね」って。
 新しい幸福のかたちを発見した瞬間だとわたしは思います。

 人それぞれ「幸せのかたち」はちがうでしょう。融通無碍、自由自在、無為自然・・・幸せとはそういうものなのかもしれません。よくわかりませんけど。