2002年12月30日「鈴木敏文の統計心理学」「日本経済 恐ろしい未来」「デザートのカリスマ」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「鈴木敏文の統計心理学」
 勝見明著 プレジデント社 1200円

 いままで鈴木さんを取材してきた記者がまとめた一冊。解説の内容はそれほどでもないが、鈴木さんの言葉を忠実にトレースしていることに価値があるのでは。
 
 「美味しいものというと、客が喜ぶもの、もっと食べたくなるもの、よく売れるものと条件反射で認識しがちだが、彼は違う。美味しいもの=飽きるもの」と考えているんですね。これはロジカル・シンキングではありません。論理的に考えないほうがうまくいくんです。
 宣伝になりますが、『論理的に考えないほうがうまくいく』(講談社)という本を出したら、コンサルタントと称する方々から大批判の嵐。わたしは理詰めで考えることを非難してるわけではありません。
 「理詰めで考える罠に陥るな、そうすると、平々凡々の発想しか浮かばないよ」
 そう言いたかったんですけどね。この本を読んだら、やっぱり、そうか。セブンイレブンを育て上げただけの人だな。理詰めの脆弱さを肌で知ってる人だな、と思いましたよ。
 
 付加価値の高いものほど、価値は低減していくんです。
 「美味しいもの×時間・回数=儲かる」ではなく、「美味しいもの×時間・回数=飽きる」んです。

 たとえば、いまのような季節、年末になりますと、どこでもおせち用の黒豆を売ってますね。150グラムのパック詰めで割安値段設定をしてる、とスーパーでもデパートでも自慢します。
 でも、ヨーカ堂で量り売りをしたところ、これがバカ売れ。
 なぜか。
 「量をまとめて安く売ればお買い得」というのは売り手市場、売り手発想なんですね。
 これはアメ横でも同じですよ。ここはね、ものすごい集客です。とくに年末は戦争です。
 けど、ほとんどが業者相手ですよ。あるいは、せいぜい来客の多いご家庭だけ。とてもじゃないけど、こんなに多くはいらないんです。必要以上には買わない。それがいまの消費者です。買い置きなんてしないの。北朝鮮じゃないんだから。商品はそこら中に溢れてるんですからね。
 コンビニはいまや、「冷蔵庫代わり」なのよね。

 ところで、いま、セブンイレブンは毎年450店舗の出店をしてきました。
 それが02年度には900店舗の出店です。閉鎖店を除いた純増は630店もあるんです。
 とうとう、国内店舗数は9690店になりました。
 一挙にライバルに差をつけた理由は何か。
 「過去の成功体験を捨て去れるための負荷です」
 同じ出店、同じリズムでは奮い立たないんです。マンネリになるんです。これが一挙に大量出店となると、これまでと同じ仕事ではできません。もう一度、新しい仕事の仕方を追求させるにはもってこい。困難な課題であっても、目標が明快ならば、それを目指していままでのやり方を見直すことができる。
 無謀な仕事をさせてみる。これも喝を入れるために仕掛けたというわけです。

 セブンイレブはいま、32都道府県にありますね。四国、北陸、山陰など15県には一店舗もありません。愛知、三重、岐阜もこの7月まではなかったんです。
 「高密度多店舗出店(ドミナント)」という基本戦略。経営的に物流、システム、広告、店舗指導などの各面で効率が上がるってことですね。

 商圏が半径10キロ。すると、その中はすべて自分の縄張りとオーナーは考えます。そして圏内にほかの店が出ると、客が減ると思う。
 しかし、客からすれば、周囲に何軒もできれば、認知度が高まり、これは便利そうだと、実際に利用しはじめるんです。経営は心理学というのは、ここです。

 データを記録として見るか、マーケティングに使うのとではまったく違う。売り手から買い手へと転換するとデータは別の意味を持つようになるんです。
 たとえば、冷やし中華は夏の食べ物で、8月がいちばん売れると思いがちだが、実はそうではなく、6月下旬から7月上旬に売れる。デパートで1万円以上の福袋でも売れるが、スーパーでは「トータル5千円以上の価値あるものを2千円」で売ってもさほど売れない。夢を買う場、実質を買う場という心理的な際が存在するんです。
 問題意識を持って見ないデータは、いくら数字を並べても何の意味もないのです。
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2 「日本経済 恐ろしい未来」
 水谷研治著 東洋経済新報社 1500円

 以前から、日本経済の行く末に警鐘を鳴らし続けてきたエコノミストの代表です。
 超ネガティブに発想する。「覚悟はいいか!」と真剣を振りかぶってるようなイメージがあります。
 「このままではいけない」「いまに大変なことになる」
 真摯な人ですよ、この方は。エコノミストの中ではいちばん好きです。

 「財政赤字を続ければ、普通の国ならインフレになっている。しかし、物あまりが深刻な日本ではインフレの恐れはない。ところが、将来、物あまりがなくなり、普通の国のようになると、金利が上昇し、国家財政は一気に借金地獄へと転落する。国の借金が猛烈なインフレ要因となり、国民の生活に破滅的な影響を及ぼす」
 国民の政府に対する要望は相変わらず強いものがあります。
 「景気を良くして欲しい!」
 景気さえ良くなれば、苦労しなくても自然に問題が解消します。一人一人が努力しなくても成功できるんです。
 景気が良くなれば、売上が増える。利益が増える。経営者はたくさんの税金を納めるから、国も自治体も喜ぶ。従業員も収入が増える。いろいろ買える。商品がまたまた売れる。豊かな生活を満喫できるというわけです。
 日本、日本人が豊かになれば、海外の商品も買うし、旅行にも行く。世界も豊かになる。
 景気が良くなれば、八方すべて丸く収まって万々歳てなわけです。

 国民の要望には限りがない。どれほど景気が良くても、さらに良くなることを求める。景気が少しでも悪くなることを嫌がる。
 わが国の政府ほど、国民の要求を忠実に聞いて施策を実行しているものはないのです。毎年、力の限りを尽くして、景気を持ち上げているんです。でなければ、今日のように水準を維持することはできないものね。この景気をさらに持ち上げるためには、さらに無理をしなければならない。これ以上の無理はもう無理なんです。

 近年の財政赤字は膨大で、02年度528兆円。年間売上に対比すれば、15倍の借金残高ということになってます。
 国の借金返済のためには、支出の大幅な削減と大増税が必要です。
 これから大変ですよ。増税、社会保険のコスト増大、20歳から介護保険料を徴収するってんでしょ。これね、ある意味で世代間の戦争を引き起こすと思いますよ。
 いまでさえ、中央と地方、都会と田舎、民間と公務員の見えない戦争が存在するのに、これに輪をかける。今度は年寄りと若者との一騎打ち。
 そういえば、カリフォルニアでも以前(いまも続いてると思うけど)、裕福な南とそうでもない北との南北問題がありましたもの。
 搾取される階層と搾取する階層。いま、日本を覆う暗澹たる絶望感の一つは、この奪う階層、奪われる階層という二つの存在にだれもが気づいてきた。一億総中流なんていうまやかしに、みな、気づいてきたからではないでしょうかね。
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3 「デザートのカリスマ」
 内海悟著 ビジネス社 1300円

この著者は、03年1月度「キーマンネットワーク」の特別講師です。
 パシフィックコンサルタント、ドッドウェルエンドコムパニーリミテッドなどで、営業戦略立案、宣伝販促プラニング、消費開発・分析、マーケットリサーチなどをマスターしたあ、85年にミックビジネスシステム、00年にデザート・カンパニーを創業します。
 この人の名前を聞いたのは、28歳で商社の新商品開発リーダーとして、年商40億円を超えるロングセラー商品を開発したでしょうね。これは、いまでも業界の語りぐさとなってます。

 で、このデフレ不況下、「デザート」を切り口にして、逆風をものともせず、外食、流通、サービス、メーカーをクライアント、たった2年で250社、計1000店舗とコンサル契約を結んで(まだまだ急増中)、連戦連勝の成功を導いてるんですね。

 わたしはデザート、好きではありません。でも、周囲の女性、たとえば、女子大生とか20代、30代の女性から、さらに熟女といわれる人までヒアリングすると、「あたし、デザートの内容で、店、選ぶ」という人が少なくないんですね。
 メインディッシュがいちばん大事でしょうが?
 「メインディッシュって、ほとんど、どこの店も味が変わらないもの」
 そんなものですかねぇ。

 でも、デザートは別腹というのはよく聞きます。ということは、別勘定なんですね。
 ということは、理屈抜きに心をとらえるビジネスでもあるんですな。

 で、著者もデザートを導入したことがない企業、たとえば、居酒屋、回転寿司、カラオケ店などなどから契約をドーンともらってるわけ。
 外食産業はもうアップアップです。努力の上にも努力してます。価格破壊、新メニューの提案をここ数年、短期間に何度も繰り返してます。もう、次の段階は残された盲点、サイドメニューである「デザート」がクローズアップされてるんです。
 和食の世界ではまだ浸透してませんけどね。この世界、まだまだ男性中心のメニュー構成なんですね。だから、客数の落ち込み、売上の伸び悩みで深刻なんですよ。
 いまの時代、女性をつかまえないことには商売なんて成立しませんもの。

 それにね、「はしご」がなくなりつつあるんです。
 もう一店完結型。すなわち、一店舗の滞留時間がそれだけ長くなるってことです。
 そういえば、わたしがよく使ってた「蝦夷御殿」「光林坊」なんて店は、座敷で飲んだ後、もうその場所で二次会セット。引き戸を開けると、ジャジャーンとカラオケがせり出してきますもの。
 なんだ、なんだと驚いてる間に、二次会はもう始まってるというわけ。

 女性が主役なんですね。
 いままで食ビジネスは、「美味しさ」「安さ」「早さ」を求めてきました。効率重視のマニュアル世界でもありました。この食の世界で忘れたモノ、それが「楽しさ」なんですね。

 楽しめる要素は何か?
 それがデザート。
 不思議なことに、原価率を高めに設定してもオーケーですよ。「美味しくて安い」と感じちゃいます。原価率はメインメニューの二倍でも集客アップ、採算も合います。トータルで利益率が上がる。これがデザートビジネスの「魔法のマーケティング」なんです。

 ただし、どんなデザートでもいいかというと、そうではありません。この世界、かなり深いんです。
 たとえば、どんなものでも定番がありますね。洋生菓子ではショートケーキ、シュークリーム、モンブラン、焼き菓子ではフリアン、マドレーヌ、ミルフィーユ、和菓子では饅頭、大福、どら焼き。これが御三家です。
 だから、この定番を外さない仕掛けが大事なんですね。たとえば、「いちご大福」「フルーツあんみつ」といったヒット商品がありますね。これなんか、よく考えれば、イチゴと大福、フルーツとあんみつといった、昔から人気のある食べ物をミックスしただけでしょ。
 デザートというのは斬新さが求められているように見えますが、実は安心して食べられる味、すなわち、定番を外さないことがポイントなんですね。

 この会社の提案では、菓子職人を雇う必要もありません。店側にデザートの知識も必要ありません。それでいて、各店独自の個性的なデザートを提案できるんです。しかも、納入価格100円弱(送料込み)です。それを店頭価格300〜500円で販売できるんですね。
 回転寿司屋でいちばん売れてる商品が「チーズムース」だなんて、初耳ですね。
 小さな会社が儲ける「魔法のマーケティング」のヒントをいろいろ教えてくれる本です。
 もちろん、キーマンネットワーク定例会にもご参加ください。よろしくね。
 250円高。購入はこちら