2010年05月14日「中島孝志の 聴く!通勤快読」全文掲載! 「小さいころに置いてきたもの」 黒柳徹子著 新潮社 1470円
『窓ぎわのトットちゃん』大好きなんです。『インテリジェンス読書術』(講談社新書)をお読みの方はわかるでしょ? 「いちばんの愛読書」と書いてますからね。
これ、去年の9月に出版されました。机の上じゃなくて、テーブルの上にずっと置かれてて、下の方にあったんです。
表紙がとっても可愛らしいの。
小さな女の子と、その弟さん? 2人でニコッと笑ってるシーン。
お姉ちゃんは優しく弟の肩を抱いてます。
白黒の写真。
自然体で、とっても表情豊か。
撮ったのはおとうさん?
でしょうね・・・。
シャッターチャンスを逃さないのは、いつも注目してるからですよね。
この写真の女の子。トットちゃんこと黒柳徹子さんです。
で、顔を見合わせて笑っている男の子。弟さんなのね。
でもね、トットちゃん。
この写真のこと、ぜんぜん知らなかった。
2人で撮ったことも知らなかった。
弟がいたことも・・・知らなかった。
−−ここまでが公開情報です(以下は登録ユーザーのみなのホントは)−−
いつの日だったろう? 鍋焼きうどんが好きになったのは。
この世にこんな美味しい食べ物があるなんて、いつ、知ったんだろう?
たぶん、冬。当たり前か。夏に鍋焼きうどん、あまり食べないもんね。
風邪ひいて、熱出して、寝込んでて、なんか栄養のあるもん食べさせなくちゃ・・・と母親が用意したのが最初だったと思う。
天ぷらなんか消化に悪いのにね。風邪ひいてるときは、何も食べずに水分たっぷりとって寝てるに限る。けど、当時は、栄養つけさせなくちゃと思ってた。
黒柳さんのお母さんもそう。でも、とても変わってて出前をとらなかったそう。
風邪ひいて、学校休んだとき、はじめて鍋焼きうどんを出前してもらった。甘くて、美味しくて、天ぷらの衣がおつゆに溶けて、一口食べるたびに、「ああ、美味しい〜!」と感動する。
この一度の体験で鍋焼きうどんにはまります。小学1年生のときでした。
どこのおそば屋さんが出前したのか、突き止めます。そして、登校するとき、少し遠回りしてもおそば屋さんの前を通ります。まだ営業してないけど、あの鍋焼きうどんの匂い。おつゆの甘い匂いがしてたから。出汁つくってるんでしょうね。
登校するときは、いつも愛犬ロッキーがついてきます。「道が違うぞ!」とロッキーは怪訝な顔をしますが、そのうち慣れると、おそば屋さんの窓の下で2人でクンクンと匂いをかぐ毎日。
風邪をひけば鍋焼きうどんが食べられる・・・けど、それ以来、風邪をひかなくなっちゃった。いつの間にか、戦争が始まり、おそば屋さんからはなんの匂いもしなくなりました。
次に鍋焼きうどんを食べたのは、10数年後。疎開から帰り、音大も卒業し、NHKの劇団に入り、テレビやラジオに出るようになってから。
初月給で食べた。嬉しかった。夢のような気持ちだった。
写真の男の子は2歳違いの弟。小学校の低学年で敗血症で亡くなりました。いまなら薬さえあれば治る病気ですけどね。あっけなく死んでしまったらしい。
「らしい」というのは、何一つ記憶にないから。弟のことを何一つ覚えていない。『窓ぎわのトットちゃん』を記憶を頼りに書き完えた黒柳さんですが、弟についてはなにも覚えていない。
「あなたたち、仲良かったじゃない。毎日、肩くんで学校にいってたじゃない」
「なにをするのも一緒だったじゃない」
「いつも2人で笑っていたじゃない」
母親はそういうけど、なにも出てこない。数枚ある2人の写真。鎌倉の八幡宮で見つめ合って笑っている写真。
こんなに仲が良かった弟がいたなんて!
その後、黒柳さん。ボスニア・ヘルツェゴビナとかソマリア、アンゴラ、カンボジアなど、内戦で、親や家族を亡くした子供たちに何度も会います。
そんな中で、10歳くらいになっているのに、自分の名前を忘れちゃった、という子どもにも会った。どこに住んでいたかも、自分の身になにが起こったかも、親がどんな風に死んだかも、覚えていない。
そういう子どもにたくさん会った。
そのうち、気づいた。
「あまりに悲しいことや辛いことがあると、忘れることができるのかもしれない」
考えてみると、ちゃんと記憶してる。ちゃんと言える・・・のが当然ではない。むしろ、それは逆で、言えない、覚えていない、忘れてしまった・・・というのが自然なんですね(母親は60年以上も経つのに「悲しいわ」と言う。それはそうでしょう)。
写真を見れば、仲が良かったことが悲しいほどよくわかる。でも、前に進ませようと、「記憶力」よりも「忘却力」のスイッチを入れてくれたんだと思う。
おねえちゃん。
泣いてちゃいけないよ。
まだ若いんだから。
やるべきこといっぱいあるんだから。
すべてやりきったら思い出してね。
それまで、ボクのこと、忘れていてもいいよ。
そんなことなのかもしれません。黒柳さん、まだ気づいていないかもしれない。いまの彼女の活動。これ、すべて、この弟さんと交わした「遠い約束」だってこと。
音声はこちらからどうぞ。
これ、去年の9月に出版されました。机の上じゃなくて、テーブルの上にずっと置かれてて、下の方にあったんです。
表紙がとっても可愛らしいの。
小さな女の子と、その弟さん? 2人でニコッと笑ってるシーン。
お姉ちゃんは優しく弟の肩を抱いてます。
白黒の写真。
自然体で、とっても表情豊か。
撮ったのはおとうさん?
でしょうね・・・。
シャッターチャンスを逃さないのは、いつも注目してるからですよね。
この写真の女の子。トットちゃんこと黒柳徹子さんです。
で、顔を見合わせて笑っている男の子。弟さんなのね。
でもね、トットちゃん。
この写真のこと、ぜんぜん知らなかった。
2人で撮ったことも知らなかった。
弟がいたことも・・・知らなかった。
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いつの日だったろう? 鍋焼きうどんが好きになったのは。
この世にこんな美味しい食べ物があるなんて、いつ、知ったんだろう?
たぶん、冬。当たり前か。夏に鍋焼きうどん、あまり食べないもんね。
風邪ひいて、熱出して、寝込んでて、なんか栄養のあるもん食べさせなくちゃ・・・と母親が用意したのが最初だったと思う。
天ぷらなんか消化に悪いのにね。風邪ひいてるときは、何も食べずに水分たっぷりとって寝てるに限る。けど、当時は、栄養つけさせなくちゃと思ってた。
黒柳さんのお母さんもそう。でも、とても変わってて出前をとらなかったそう。
風邪ひいて、学校休んだとき、はじめて鍋焼きうどんを出前してもらった。甘くて、美味しくて、天ぷらの衣がおつゆに溶けて、一口食べるたびに、「ああ、美味しい〜!」と感動する。
この一度の体験で鍋焼きうどんにはまります。小学1年生のときでした。
どこのおそば屋さんが出前したのか、突き止めます。そして、登校するとき、少し遠回りしてもおそば屋さんの前を通ります。まだ営業してないけど、あの鍋焼きうどんの匂い。おつゆの甘い匂いがしてたから。出汁つくってるんでしょうね。
登校するときは、いつも愛犬ロッキーがついてきます。「道が違うぞ!」とロッキーは怪訝な顔をしますが、そのうち慣れると、おそば屋さんの窓の下で2人でクンクンと匂いをかぐ毎日。
風邪をひけば鍋焼きうどんが食べられる・・・けど、それ以来、風邪をひかなくなっちゃった。いつの間にか、戦争が始まり、おそば屋さんからはなんの匂いもしなくなりました。
次に鍋焼きうどんを食べたのは、10数年後。疎開から帰り、音大も卒業し、NHKの劇団に入り、テレビやラジオに出るようになってから。
初月給で食べた。嬉しかった。夢のような気持ちだった。
写真の男の子は2歳違いの弟。小学校の低学年で敗血症で亡くなりました。いまなら薬さえあれば治る病気ですけどね。あっけなく死んでしまったらしい。
「らしい」というのは、何一つ記憶にないから。弟のことを何一つ覚えていない。『窓ぎわのトットちゃん』を記憶を頼りに書き完えた黒柳さんですが、弟についてはなにも覚えていない。
「あなたたち、仲良かったじゃない。毎日、肩くんで学校にいってたじゃない」
「なにをするのも一緒だったじゃない」
「いつも2人で笑っていたじゃない」
母親はそういうけど、なにも出てこない。数枚ある2人の写真。鎌倉の八幡宮で見つめ合って笑っている写真。
こんなに仲が良かった弟がいたなんて!
その後、黒柳さん。ボスニア・ヘルツェゴビナとかソマリア、アンゴラ、カンボジアなど、内戦で、親や家族を亡くした子供たちに何度も会います。
そんな中で、10歳くらいになっているのに、自分の名前を忘れちゃった、という子どもにも会った。どこに住んでいたかも、自分の身になにが起こったかも、親がどんな風に死んだかも、覚えていない。
そういう子どもにたくさん会った。
そのうち、気づいた。
「あまりに悲しいことや辛いことがあると、忘れることができるのかもしれない」
考えてみると、ちゃんと記憶してる。ちゃんと言える・・・のが当然ではない。むしろ、それは逆で、言えない、覚えていない、忘れてしまった・・・というのが自然なんですね(母親は60年以上も経つのに「悲しいわ」と言う。それはそうでしょう)。
写真を見れば、仲が良かったことが悲しいほどよくわかる。でも、前に進ませようと、「記憶力」よりも「忘却力」のスイッチを入れてくれたんだと思う。
おねえちゃん。
泣いてちゃいけないよ。
まだ若いんだから。
やるべきこといっぱいあるんだから。
すべてやりきったら思い出してね。
それまで、ボクのこと、忘れていてもいいよ。
そんなことなのかもしれません。黒柳さん、まだ気づいていないかもしれない。いまの彼女の活動。これ、すべて、この弟さんと交わした「遠い約束」だってこと。
音声はこちらからどうぞ。