2010年05月29日「トンマッコルへようこそ」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 韓国でしか作れない映画でしょうな。なにしろ、韓国軍、米軍、そして人民軍(=北朝鮮軍)の兵士が三つ巴、入り乱れて・・・となると、やっぱり韓国でしか作れませんよ。

「今度は違う場所で会いたいな」

 1950年11月。朝鮮戦争のまっただ中。太白山脈の奥地に「子どものように純粋な村」という意味のトンマッコルという村がありました。

 えっ、戦争? どことどこが闘ってるの? ここには戦争の情報すら届きません。
 おかげで、村人は同胞同士が殺し合ってることなど露とも知りません。貧しくとも、のどかに、平和で、のんびりと、家族仲良く、そして人間らしく、暮らしているのです。

 ところが、ある日、飛行機とともにこの村に米軍のスミス大尉が落ちてきた。さらに、険しい山で遭難し、迷い込んだ3人の人民軍兵士。さらにさらに、2人の韓国軍兵士までが迷い込んできます。

 トンマッコルへようこそ! みな、それぞれ歓待されるんですけどね。
 
 相手の軍服を見るや、弾の入っていないピストルと手榴弾を手にとり、にらみ合いを続ける始末。雨が降っても、晴れても、夜も朝も、向き合ったまま。

 しかししかし・・・村の雰囲気に慣れ親しんでいくうち、敵対心がいつの間にか消え、心を許しあうようになります。6人は村の仕事を手伝い始め、年頃の兵士は村の娘に恋心まで抱いてしまうようになります。

 ところが、しばらくすると、遭難したスミス大尉を捜索する米軍が落下傘部隊ほ派遣してこの村にやってきた。
「おまえはだれか?」「どこから来た?」と尋問。「告発しないと村人を1人ずつ殺していくぞ」と脅かす米兵(米軍が一方的に悪者なんだけど)。

 幸いにも米兵はわずか。よしやっちまおう、と一致協力。なんとか成功します。けど、今度、米軍が大挙して押し寄せてきたら・・・ひとたまりもない。村は殲滅されてしまうだろう・・・。

 どうしよう? どうすればいい?

 米韓連合軍兵士3人&人民軍兵士3人。呉越同舟。敵同士。けど、この6人は村を守るために米軍と闘う腹を固めます。多勢に無勢は承知の上。

 大丈夫? んなわけない! さて、どうなるんでしょうか? 

 人間、なんのために殺し合うんでしょうかねえ。愛するもののためですよね。たとえば、家族、友人、祖国、故郷、名誉、誇り・・・とか。
 この兵士たちもそう。本来、自分たちは連合軍。にもかかわらず、この韓国軍兵士2人は米軍と戦います。北朝鮮なのか韓国に帰属するのかわからない。けど、この村のために人民軍兵士3人も命を投げ出して戦います。

 なんのために? だれのために? いまこの瞬間、いちばん愛するもののためですよ。

 いま、朝鮮半島はとってもきな臭い状況です(この映画の舞台となった1950年当時とはちがう臭いがしますけどね)。
 いままで祖国のために、自由主義のために、共産主義のために、首領様のために・・・と闘ってきた兵士たちが、もっと具体的に、もっと人間的に、もっとわかりやすく、「この人のために」「この子どもたちのために」「この村のために」と命を投げ出す。
 けどね、そんな理屈なしに、戦争となれば個人の感情や事情などお構いなく、オートマチックに命のやりとりをしなければならない。
 愛などへちまなどと考えてる暇すら与えられない。こんなに哀しいイベントはありませんな。

 いまこそ、観るべき映画じゃないかな。