2002年09月02日「コロンブスの玉子屋」「相手に伝わる話し方」「独創力を伸ばす人 伸ばさない人」
1 「コロンブスの玉子屋」
菅原勇継著 文春ネスコ 1500円
1日5万食、年商50億円の弁当屋さん。これが著者の素顔です。
東京大森の仕出し弁当屋「玉子屋」。ここは毎朝、注文を受けてオフィスや工場、官庁にお弁当をとどけています。コンビニには卸してません。配達地域は都内全域、そして川崎の一部ですから、だれもが食べられるわけではありません。
それに10個以上の注文がなければ基本的には配達してくれません。例外として、同じビル内での拡販が可能な場合だと受けてくれるそうですが、まっ、配達ルートに入れてもらうにはロットが必要なんですね。
いま、1日4千カ所に配達してるそうです。
何で、朝、注文を受けるのかね。これが毎日、毎日ですよ。
たとえば月極なら、月単位ですけど売上も一定するでしょうし、配達も楽でしょうし、製造数も上下がなくなるから安定しますよね。実際、昨日30個の売上だった工場が、今日はゼロなんてこともあるんです。
だから、年契約とまではいかなくても月契約はしたい。だれもがそう考えます。
でも、それをしない。
理由は、顧客サイドから考えれば明らか。
だって、「今日は天気がいいから外で食べたい」「今日はお得意さんと会食」といったように社内で食べるかどうか、わからないでしょ。まっ、当日の朝なら、どうするか決定してますよ。だから、毎朝、注文を受け付けているわけ。
そして、作る?
いえ、遠距離の場合はもうすでに車で運んでるんですね。つまり、もう見込み生産してしまっているんです。
じゃ、ロスが大変じゃないの?
ところが、この会社は平均0.1パーセントしかありません。5万食作って50個と言うことになりますね。一般的に数字は3パーセントですから、ものすごい見込み的中率の高さといえますね。
この会社、創業は75年です。
元々、高校を出てから富士銀行に勤務してたんですが、父親がいろんな仕事に手を出していました。そして失敗もしました。トンカツ屋を一緒に手伝っているうちに、「弁当屋をやろう」と閃くんです。
面白いのは、普通、弁当というと工場とか工場地帯を連想します。従業員が固まってますから納入しやすいですもんね。でも、この人は「絶対、丸の内や日本橋のオフィス街だ」と直観するんですよ。やはり、自分で勤めてたからよくわかります。
ここの社長室には「事業に失敗するコツ 12箇条」というのを掲げてます。大企業のトップの名刺を持った人がそれを暮れ、とよく来るそうですよ。
1旧来の方法がいちばんいいと信じていること。
2餅は餅屋だと自惚れていること。
3暇がないといって本を読まないこと。
4どうにかなると考えていること。
5稼ぐに追いつく貧乏無し、とむやみやたらに骨を折ること。
6いいものは黙っていても売れると安心すること。
7高い給料は出せないといって、人を安く使うこと。
8支払いは延ばすほうが得だ、となるべく支払わない工夫をすること。
9機械は高いと言って、人を使うこと。
10お客はわがまま過ぎると考えていること。
11商売人は人情は禁物だと考えること。
12そんなことはできない、と改善しないこと。
この会社が1日5万食も作れるようになった理由は、直接的には機械の導入によるものですが、どうして、機械化できたのか?
それは82年に発生した中毒事件がベースにあります。
三井造船に収めてたんですね。それが中毒を引き起こすんです。「もうダメだ」と退職者が続出です。実際、何社もの顧客が取引中止を通告してきました。
社長と担当者が土下座した姿に打たれたのか、三井造船では「これからも玉子屋を食べたい」と社員からの要望がたくさん来るんです。それでつながった。
「よし、徹底的に安全管理をし、機械化をするぞ」と業界の常識を破るコストをかけて導入に踏み切ります。どうせつぶれる運命にあった会社だ、という覚悟でしょう。
それがあればこそ、数万食というロットでも何ともないわけです。
もし、従来のように手作業で製造していたら、この数は実現できません。それに衛生管理の面でもどうなったか、わかりませんよ。
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2 「相手に伝わる話し方」
池上彰著 講談社新書 660円
NHKの「週刊こどもニュース」でお馴染みですね。
この人、アナウンサーだと思ってたら記者だっんですね。チートモ知りませんでした。
で、本書は記者からキャスターになって、はじめて気づいた「伝え方」の極意みたいなものをまとめた一冊です。
たとえば、ニュースを読むとき、「○○鉄道は、運賃の引き上げを決めました」というのが少なくありません。
でも、これはかんがえてみると、一方的なお知らせでしかありませんね。
では、テレビというメディアでは、どう伝えればもっともフィットするのか?
「○○鉄道を利用している皆さん、来月から運賃が上がりますよ」
なるほど、これなら、視聴者に語りかけることになりますね。共感をもって受け容れてもらいやすい。
すなわち、こういう伝え方が同じ目線に立った話し方ということなんですね。
「今日は暑かったですね」という言葉一つにしてもそうです。
著者が感動したケース。それはフリーアナウンサーの村松真貴子さんとの掛け合いのときでした。
「今日は駅まで自転車で行ったら、汗ばんでしまいました」
ほら、イメージが湧いてくるでしょ。こりゃ、暑いやってね。
エルサレムについて説明するときでも、聖地が集中してるのは旧市街地で、ここは1キロ四方なんですね。でも、1キロ四方といっても想像つきませんでしょ。
だから、「東京ディズニーランドと同じ広さの中に三つの聖地があるんです」と言えば、ピンときます(こないか)。
ところで、「週刊こどもニュース」は実は、子どもだけではなくて大人にも人気がある番組です。
元々は小学校高学年以上の子どもたちに、世の中のニュースをわかりやすく伝えることを目的に、94年に始まったんですね。
この番組をスタートするとき、もっとも議論になったのは、「いったいどこまでかみ砕けばいいか?」ということでした。あまりにも易しすぎると、かえってダメですものね。
スタート時、「○○官房長官が」と言うと、「官房長官っていったいどんな仕事してるの?」と質問が出る。「政府は」と言うと「政府って?」と来る。
「官房長官というのは、総理の女房役で・・・」
「じゃ、エプロン掛けてるの?」
これらを子どもにもわかるように説明するのは至難の業だったようですね。
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3「独創力を伸ばす人 伸ばさない人」
軽部征夫著 祥伝社 1300円
著者は東大名誉教授、というよりも、東大最先端技術開発センターを作った人であり、日本のバイオセンサーの第一人者です。いま東京工科大学バイオニクス学部を創設し、先日も朝日新聞に1ページ写真入りでデカデカと広告が出てましたね。
この9月10日に開催する「キーマンネットワーク定例会」の特別講師でもありますよ。
やっぱりユニークな人ですなぁ。
技術開発の世界で仕事をしていると、日本と欧米の質の違いがはっきりとわかります。
「日本は長期レンジ、欧米は短期レンジで物事を考える」と思いきや、これがまったく逆。日本は短期、欧米は長期に取り組むんですね。
軽部さんが東工大に新任教授として赴任します。このときも42歳で就任するや、年齢的に早すぎる」と学内外で物議を醸したそうですが、ちょうど、イギリスのクランフィールド大学から派遣された学生がいました。
21歳くらいですが、博士課程の最後の研究を軽部さんのところでやろうとしたわけ。
そこで研究テーマに対して、ほかの学生同様、その手順や方法を懇切丁寧に指導したわけ。ところが、この人、ぜんぜん動こうとしないんですね。
日本人なら、テーマが与えられたら、すぐにスタートしますよ。でも、彼はまったくやろうとしない。
で、時々、フラッと訪ねてきては、「教授のアイデアは何に由来しているのか?」「あの装置はどういう原理なのか?」とばかり聞いてくる。やがて頻繁に訪問してくるようになると、今度は、「あなたの方法とは違うけど、こんな方法でわたしはチャレンジしてみたい。知恵を貸してくれ」と言い出す始末。
そこに到るまでに半年過ぎてるわけ。
ところが、これが彼のオレジナリティの源泉なんですね。満を持して取り組むまで、自分独自の研究かどうかを吟味してるんですね。
日本の戦後を支えてきたのは、実は短期促成栽培回収システムであり、こういうオリジナリティを重要視する方法ではありませんでした。だから、「ライバルよりも先に早くカタチにしろ」と発破をかけられる技術者、研究者はたくさんいたはずです。
でも、いま、これに類することがすべて曲がり角に来てるんです。
このスタイルは大学でも同様です。研究者は大学にきた翌日から仕事が待ってます。
もう作業員の一人に組み込まれてしまいます。研究者は組織の一員であって、与えられたテーマを忠実に処理することが求められてきたわけです。
「イギリス人が発見し、アメリカ人が論文に書いて発表し、日本人が製品にする」
こんな「日本人の技術タダ乗り論」が長年、揶揄されてきました。
でも、たとえば、ノーベル賞。その生命科学分野一つとっても、アメリカの研究者数は日本の2倍、研究費はなんと4倍です。2倍の人間が4倍のお金を遣ってるんですから、10年分くらい、水をあけられるのも当然といえば、当然かもしれません。
実は、日本と欧米とでは、子どもの教育方法からしてまったく違います。
そして、それが独創力の開発に与える影響がものすごいんです。
たとえば、彼がアメリカ留学中に、子どもが幼稚園に入りました。行ってビックリ、何カ月経っても一向に授業が始まらないんです。子どもたちは勝手にパラパラと好きなことをしてるだけ。
「高い月謝を払ってるのに、けしからん」と、3カ月目に思い切って文句を言った。
「いったい、どんなカリキュラムで教えてるのか?」
ところが、その回答を聞いて唖然、呆然。ニッコリ笑って、「ノー・カリキュラム」と言うではありませんか。これにはたじろいだそうです。
「カリキュラムなどありません。わたしたちは、その子が何に興味を持つかを見つけるてやるのだ」
7〜8人に1人の教師がついて、子どもたちの間を歩きながら、「それはこうしたら?」とか「こう描いたら」とアドバイスするに徹っするんです。彼らは3〜4歳の子どもに「自分が好きなのは何か?」「自分らしさとは何か?」を発見させることが教育の目的としていたんですね。
自分で自分の個性を発見する。そのサポーターであり、アドバイザーなんです。
その後、日本に帰ってくると、このカルチャーギャップのおかげでトラブルが発生します。
幼稚園の先生から呼び出しを受けたんです。
「おたくのお嬢さん、色盲じゃありませんか?」
どうも、真鯉のお絵かきをするとき、彼女はムラサキ色で描いたらしいんです。みんなは緋鯉は赤、真鯉は黒で描いていた。これが「常識」ですもんね。
でも、この常識は日本の従来の教育における常識ではありませんか?
アメリカ流の教育では、「自分のフィーリングで色を使うこと」が求められますものね。
日本は「偉大なる常識人」という名の平凡人を生み出す仕組みがそこかしこに張り巡らされているようです。製品作り同様、規格外に外れない人間作りののためには最適の教育かもしれません。
でも、こういう教育からはピカソもミケランジェロも生まれないでしょうな、絶対。
みなさん、9月10日の「キーマンネットワーク定例会」、ぜひ参加してね。
300円高。購入はこちら