2010年10月22日「武士の家計簿」 磯田道史著 新潮社 714円 

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 12月に映画が公開されますね。その原作というか、データ提供というか、
 ま、あちらは物語として脚本をきちっと作ったもの、こちらは論文。中身がぜんぜん違います。脚本を書く上でデータになったわけですね。

 誉めるべきは、この本を読んで、物語をイメージできた人。つまり企画者ですよ。

映画では、武士のくせに剣術はからっきしダメ。取り柄といえば、算盤がめちゃ巧いこと。ま、武士では落ちこぼれですよ。でも、時代は天下泰平。剣術なんていくら強くたってなんの役にも立ちやしない。この取り柄あればこそ・・・という男の一生を描くわけ。

 もちろん、本書にはそんな物語など微塵もありません。では、たんなるデータ論文かというとそうではない。意識して数字の羅列にはしていない。わかりやすいし、読みやすい。ひらがなが多い。うん、売れますね、これは。

 6章立てですが、1章と2章、それと第6章のラスト4頁(=この後の猪山家)を読めば十分でしょうな。

 本書のネタは「金沢藩士猪山家文書」という武家文書です。遭遇したのは平成13年の夏。自宅に、毎度、古文書販売目録が郵送されてきたわけ。いつものように物憂い顔で眺めていると、その中に・・・。これは出物だ! 値段は15万円!! 慌てて神田神保町の古本屋に電話すると、まだ売れてない、とのこと。

 ボナンザ!
 
 たぶん、そのときの気持ちは、1億円くらいの当たりサマージャンボを手に持って銀行に駆けつけるようなもんでしょうな。だいたい、歴史学者の業績というのは、なにを研究したかも大事でしょうが、どんな資料に出会ったかにありますからね。 
 まさに武士の家計簿。それも天保13(1842)年7月〜明治12(1879)年5月まで37年間。幕末武士が明治士族になるまでの完璧な記録が残されていた・・・。

 なんとも慎ましい、いじらしい、健気な武士の生活。

 ああ、なるほど、これでは士農工商、侍以外の階級の人々が侍になりたいとは絶対に思わない。維新は武士による革命でしたもんね。

 「武士は食わねど高楊枝」と言われてきましたね。
 どうして、こんなに武士は貧しいのか?
 貧乏にならざるを得ない構造だったんでしょうか?
 では、それと猪山家はどう戦ったのか?
 そもそもも猪山家ではどうしてそんなに精緻な家計簿が残っていたのか?

 実はね・・・続きはこちらからどうぞ。