2001年08月06日「最強の経営学」「痴漢冤罪裁判」「喋らなければ負けだよ」
1 「最強の経営学」
島田隆著 講談社現代新書 660円
著者は同志社大学の先生です。ハーバードでMBAを取り、ボストン・コンサルティングにもいました。いまは、A・T・カーニーのバイス・プレジデントをしてます。
本書は日産とかシャープ、アサヒビールといった企業のケースを取り上げて、その経営分析を具体的に解説しています。
とくに日産自動車のケースでは、毎年、発表されている財務諸表などから、98年3月期にはキャッシュフロー上では厳しくなってましたが、実はEE(エコノミック・アーニング−−「表面上の利益」から投資家として「これくらいの利益は当たり前でしょという部分」を差し引いた「付加価値」のこと)の観点から見ると、94年3月期にはもう明らかにたいへんな事態を迎えていることが判明しています。
企業のライフサイクルには、よく知られているように、「創造」「成長」「衰退」という人間の一生にも似た状況を描きます。マーケティングで考えますと、それぞれのサイクルにおいて、力点が変わっていくんですね。
まず、市場の創造期では「商品を認知してもらうこと」にあります。主要顧客はイノベーター。競争企業はほとんどありませんから、他社のことを考える必要はありません。どんどん市場を広げていくことが大事ですね。むしろ、どんどん商品開発をすることが重要でしょう。
これに成功しますと、いろんな企業が参入してきます。そこで、今度は広告宣伝活動とかブランド力の確立、徹底とかが注目されます。さらに成熟期となると、他社との差別化、優位性が至上命題になります。商品や販売チャネルを整備したり、顧客との緊密度を高めなければなりません。さて、衰退期を迎えるころにはどうやって手仕舞うのかを考えます。これが企業の一生、事業の一生です。
「会社の寿命30年、事業の寿命15年」といわれる今日、衰退期を迎える企業、商品、サービスがドンと増えていると思います。
しかし、どうでしょうかね。衣料品がダメといわれるなか、ユニクロのように急激に拡大発展している企業もあるわけです。
ユニクロについては常勤監査役を迎えてキーマンネットワークで2時間半も勉強しましたし、何回かまえの「価値ある情報」でも触れましたから詳しくは言いませんが、従来の業界の常識に縛られずに、というよりもあえて意識して破ってきた歴史があります。
たとえば、書店のように気楽に入って気楽に出ていく。店員はフォローしない。より安く、よりしっかりした商品を作る。カジュアルに特化する。なによりも一点に集中する。こんな方法でここ数年、のしてきました。10年間に売上は40倍になってます。
こう考えてくると、成熟と思うから成熟なのであって、事業に成熟はないんですね。成熟し、衰退する理由は経営者、役員、そして社員にあります。つまり、人間の意識にすべて原因があるんです。
もっと具体的に言えば、大企業病とサラリーマン根性ですよ。企業が大きくなる。有名になる。優秀な人材が入ってくる。給与が上がる。オフィスがきれいになる。自社ビルができる。休日も増える。
すると、どうなるか。
自分で汗をかかず、手抜きをする人間が出てくる。顧客を顧客とも思わず、クレームに対して真剣にならない。顧客1人くらいに嫌われても困らないよ、と堂々と言い張る人間が出てくる。経費は青天井、使い放題だと無意味な宣伝広告に資金をどんどん使う人間が出てくる。
なによりも、経営者にハングリーさが無くなってくる。「もうこの辺でいいんじゃないか」となってくる。つまり、現状維持は交代を意味することに気づかないんですね。
会社全体がぬるま湯に漬かっていると、どうなるか。もう、厳寒の外になどだれも出ていきません。あえて、シビアなことになどだれもチャレンジしなくなります。黙っていれば、出世できるのにあえてリスクを取ろうとはしなくなります。上から下まで公務員になってしまうんですね。
すると、どうなるか。戦争であるべきビジネスで、戦えない、戦わないビジネスマンばかりで戦うことになるわけです。勝ち目は万に一つもありません。
これが衰退の理由です。
本書は経営学者がまとめたものすごくわかりやすい本です。しかし、わたしは経営学とは心理学、人間学だととらえています。だから、ここ10年の定性的、定量的な傾向であっても、来年にはガラリV字転回できることを知ってます。数字など、いくらでも変えられるんです。その理由は、数字を作るものは人間だからです。
100円高。
2 「痴漢冤罪裁判」
池上正樹著 小学館文庫 500円
サブタイトルが「男にバンザイ通勤させる気か!」とありますが、本書は痴漢というぬれぎぬによって人生を狂わされた男たちを取り上げたルポルタージュです。週刊ポストやサンデー毎日で掲載されるや、たちまち評判を呼んだんですが、それはそれだけ身につまされる経験のある男性が多い、という証左でしょう。
でも、痴漢ねぇ。楽しいのかね、こんなこと。だって、どこのだれかもわからない女性の、しかもちゃんと洗ってるかどうかもわからないお尻や陰部を触って・・・。わたしはとてもダメですね。
そもそも、「女性は美しいもの」という憧れとか幻想がないからね、わたしには。
わたしはサラリーマンを辞めてから生活がガラリと変わりました。いちばんの変化は満員電車に乗らなくなったことですね。あれは地獄です。もう出社する前に一仕事終えてクタクタって感じですね。
先月、ビジネススクールに講義に行かなくちゃいけないので早めに電車に乗ったんですが、これが満員電車。「あっ、いけね」と思ったもののあとの祭り。もうクチャクチャ。死ぬかと思いました。ものすごくスタミナを消費します。年寄りが乗ったら確実に死にます。ホントですよ。
痴漢というのは立派な犯罪ですが、これには「迷惑防止条例違反(罰金5万円・簡裁事件)」と「強制わいせつ(刑法第176条・懲役6か月以上7年以下、地裁事件)」があるんです。どう分けているかというと、「着衣の中に手を入れて女性の胸や陰部に直接触れるのが強制わいせつ」、その他が「条例違反」てことになってます。
で、データによると、列車内の迷惑防止条例違反による逮捕者は94年が271件、98年は866件、強制わいせつは57件から108件と増えてます。これは鉄道警察の対応と勇気ある女性の増加が成果の要因になってると思います。
でもね、この数の中にはかなりの冤罪が含まれてると思いますよ。
本書を読んでびっくりしたのは、痴漢が「冤罪(えんざい)の宝庫(というか温床だな)」になってるってことですね。だって、この犯罪は親告罪ですが、どうやって犯罪が構成されるかというと、女性が「この人、痴漢よ」と言って、その男性を駅事務所に連れていけば、そこから自動的に「犯罪者」ができあがるんです。
いいですか。ポイントは女性が「痴漢を指摘すること」「駅事務所に連れていくこと」にあります。
駅員には逮捕の権限がありませんから、最寄りの警察に電話をして警察官を呼びます。
ここからが大問題の温床です。
警察官は女性の言い分だけを100%聞いて、男性(痴漢)の言い分は無視します。そして、そのまま逮捕してしまうわけです。
さて、そこからは「犯人作りのプロ」ともいうべき刑事の出番です。入れ替わり立ち替わりやってきては、「この痴漢野郎」とののしります。調書を作るときにも、世間話として「婆さんと若い女とどちらがいい?」と聞いたりします。それで思わず油断して、「そりゃあ、若い子のほうがいいよ」とでも答えようなら、「それみろ、やっぱり若い女性を狙ってたんだろう」とさっさと調書に書かれてしまうんですね。
そのうえ、長期間にわたる勾留があります。留置場に入った経験はありませんが、とても人間扱いされるものてせはないらしいですね。で、「5万円の罰金を払えば略式起訴で会社にも近所にも知られないですむぞ」という刑事のささやきにグラリと来て冤罪を認めてしまうんです。ほとんどの痴漢容疑者はやってなくても、認めてしまえば早く出られるという誘惑にかられて認めてしまうんです。しかし、認めてしまえば、これは未来永劫、犯罪として記録に残ってしまいます。
ある男性は「絶対にオレはやってない」とがんばり、2年半の時間と600万円の裁判費用をかけて無罪を勝ち取りました。
この外資系企業に勤務する管理職の男性は、弁護士事務所と協議して、満員電車の混雑状況を再現したビデオを作成したり、「ためしてガッテン」みたいな実験を通じて、シロを主張したんですね。
でも、検察官は「この女性がうそをつくわけがない」という一点のみで控訴してます。今の時代、痴漢をしたら指紋でも調査できるんですよ。でも、検察はそれすらしていない。すべては、被害者(女性)の言い分だけで判断してるんですね。これは証拠ではなく、自白第一主義によって冤罪をやまほど作ってきた検察の誤謬と構造がまったく同じですね。
本書にはおもに4つのケースが紹介されています。
そのなかには電車内ではなく、道ばたで痴漢されたというぬれぎぬで逮捕され仕事を失った若者もいます。犯人はヘルメットにバイクで犯罪に及んだのですが、目が似ていたというだけで刑事たちに自宅に乗り込まれて逮捕されてしまいました。
被害者は「もっと痩せていたし、50ccのバイクだった」と言ってるんですね。彼のバイクは125ccですよ。それで一審は執行猶予付きの有罪。二審で無罪になります。無罪が確定してから刑事に合うと、「一審と二審では違ったなぁ」と感想をいうだけ。冤罪をつくった被害者の女性は詫び状ひとつ寄せるでも無し。
そこで、彼は1400円の慰謝料を彼女と警察を管轄する東京都、そして法務省を告訴します。これ、どうなるか見物ですね。
勝手に犯人呼ばわりし、刑事からは非人道的な扱いを受け、仕事もできなくなり、近所からは白い目で見られる・・・まったく踏んだり蹴ったりです。
いったい、オレはなにか悪いことやったのか? ホントに世を恨みたく気持ちもわかります。
それと、気をつけないといけないのは、最近は、「痴漢」のぬれぎぬをわざと着せて、「警察に行きたくなかったら、カネ、出しな」という女子高生とか若い女性がいることです。これは女性3人が組になって、「痴漢」と叫ぶ役、「わっ、ホントだホントだ。この人、痴漢です。わたし、見てました」という役、そして痴漢を駅に突き出そうとする役。
これが三位一体となってみごとなチームプレーで行われているそうです。バリエーションとしては、このなかに男性が含まれることもありますが、かなり、引っかかっているみたいですよ。
さて、本書では「トラブルに巻き込まれないための5箇条」を紹介しています。
1 車内ではドア際でドアに向いて立つ。
2 つり革につかまるか、つねに手を上に上げておく。
3 痴漢扱いされたら、駅事務所には行かない。その場で自分ではないと説明する。
4 もし駅事務所や警察に行くことになったら、弁護士を早く呼ぶ。
5 弁護士がダメなら知人、友人を呼ぶ。
あとね、「絶対にオレじゃない」と連絡先を告げてさっさと立ち去る、という手もあります。そのとき、他の人から「逃げるのか!」と言われても、「冗談じゃない。こんなぬれぎぬを着せられてふざけるな。ひっこんでろ。この暇人」と怒鳴ればいいんです。ただし、走ったりしないこと、だそうです。
最近、変な人間がたくさん増えてますが、なかには、被害妄想の人も少なくありません。「毎日、痴漢に追われてる」という妄想が頭のなかを占める変な女性もいるようです。
最近、京王電鉄では女性専用車両ができたらしいですが、こうなると、男性専用車両が欲しいですね。わたしが損保の営業マンなら、「痴漢容疑をかけられたときの裁判費用のために損害保険」を企業向けに売り出しますが、どうでしょうね。売れるんじゃないですか。
150円高。
3 「喋らなければ負けだよ」
古館伊知郎著 青春出版社 760円
これ、90年に発行された本なんですね。インターネットで本を探してたら、見つけたわけ。この人の本はほとんどが絶版になってました。残り少なく生きている本でした。
ホントは最近、新刊出してるんですが、どうも読む気になれません。で、この本を読んだわけです。
さすが話術の天才(まっ、努力家ってことですけど)。いろんなシーンを想定して対策を考えながら、しゃべってますね。天才的にポンポンでてくるんじゃなくて、あらかじめ、セリフ、フレーズ、キーワードを作っておいて引き出しに入れておく。それを無理やり出して当てはめてみる。ピッタシならはまるし、外れてても、「おっ、いまのなんか新鮮だな」ってイメージだけは残る。そういうことですよ。
「江川さん、僕は女房とケンカして殴っちゃったら、その後のフォローはやはりセックスですよ」
「(警戒した表情で)あのですね、いろいろなところで僕が女房を殴るなんて、書かれてるけれど、そういうことに関してどうのこうの言われても・・・」
「僕にセックスとまで言わせておいて逃げる気ですか。女房はそういうことをテレビで言うのをいちばん嫌がるんです。そりゃそうです。あえて、わたしはそれを言った。もう一度、言います。うちの場合は、ズバリ、セックスです」
こう言うと、さすがの江川さん(日本テレビ野球解説者)も笑いだし、うち解けた表情でこう語ったそうです。
「昔は時々殴りましたよ。でも、女房は殴られ強いというか、一度、オレンジをぶつけたことがあります」
普通に質問しても相手が話してくれそうにないときは、自分のほうから素っ裸になってしまう。そして、恥ずかしい部分や隠しておきたいことをさらけ出してしまう。
彼の得意なフレーズは、「あなたがここにいるから言うのじゃありませんが」「お世辞に聞こえると困るんですが」、それと「いい意味で」という言葉。
これを入れると、悪口が悪口でなくなったりするんですね。
でもね、わたしはおしゃべりは無言の動作にはかなわない、と思いますよ。
「好きです」「愛してるよ」というよりも、「あら、どうしたの」と曲がったネクタイを直しては、「これでいいわよ」とか、「あら、こんなところに」と背広の肩口についたほこりを取ってくれる。こういうスキンシップが何とも言えない。そう思いませんか。
渡辺文雄さんて俳優がむかし、「食いしん坊バンザイ」って番組のレポーターをしてたときの話です。この番組はいろんなものを食べさせるわけですが、すべてがすべてうまいわけではありません。
で、やっぱりとてつもなくまずい料理が出たそうです。
そのとき、一言、なんといったか。
「いゃあ、好きな人にはたまらんでしょうな」
やっぱり、言葉は魔術です。
200円高。