2011年12月11日「マネーボール」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 「人々は野球に夢を見る」

『マネーボール』という映画は原作が日本で15万部も売れたベストセラーだけど、映画の封切りでさらに売れるでしょうな。こんなにおもしろいとは思わなかったもん。

 う〜ん、メジャーリーグに一石を投じた男たちのドラマであり、評価されなかった男たちのリベンジドラマでもあるな。

 主人公ビリー・ビーン(オークランド・アスレチックスのGM=ゼネラル・マネジャー)をブラッド・ピットが演じてますけど、これだけ怒る役は「トロイ」のアキレス以来じゃないかな。

 ところで、実は、一昨年の夏、ロサンゼルスに行ったんですよ。親戚がソニーピクチャーズのカルバーシティ・スタジオの真ん前に住んでましてね。
 ほんじゃ、ちょいとスタジオ見学してみっかと軽いノリで訪問したわけ。ま、3000円くらいとられたんだけど。

 ビリーとコンビを組むのは、野球などなにひとつ知らず、数学と解析が得意なエール大卒の太っちょピーター(ジョナ・ヒル)なのね。

 で、ガイドがこちらをご覧くださ〜いなんてやってんだけど、つまんねえから、少し離れて勝手に歩いてたら、なんと目の前のカートにこの2人が乗ってしゃべくってやんの。
「おいおい、生ブラピじゃん」
 芝居の打ち合わせしてたみたい。ガイドの話聞いてたヤツらは知らんけどね。


ソニー・ピクチャーズの入口(元々はMGMのスタジオ)。

 さて、内容ですけど、ビリーが登場するまで、イチロー選手や松井秀喜選手が活躍するメジャーリーグではホームランを数多く打ち、打率の高い選手ばかりが高く評価されてたわけ。
 お金をたっぷりもっている球団、たとえば、ニューヨーク・ヤンキースなどは各球団のホームラン王、打点王、打率王をトレードでいくらでも獲得できるから、いつも理想的に補強できるわけ。
 けど、ほかの球団はヤンキースのような金持ち常勝チームじゃない。で、ヤンキースのお眼鏡にかなわなかった2〜3番手の選手をできるだけ揃える。。。つう戦い方をするわけね。

 でも、3分の1しか予算のない貧乏球団アスレチックスにはそんな芸当もできるわけがない。アスレチックスの選手の給料なんて予算4000万ドルしかないんだもん。ヤンキースは2億ドル。

 こんな巨象を相手に弱小劣敗チームがどうすれば戦えるのよ? いままでのやり方で臨んではいけない。これだけはわかりそうなんだけど、そんなことにも気づかないほどスタッフは古いんだよなあ。



 で、ビリーは考えた。戦い方を一新しよう。

 優勝にいちばん貢献する要因はなにか? 徹底的に分析し、コンピュータで数値化し、コンピュータで解析すると、必ずしもホームランや打率が勝利に貢献しているわけではないのね。とにかく点を取ること。その結果、既存の常識とは違う野球=「出塁率」を最優先する野球に切り替えるわけです。

 この大方針を実践するために選手をがらり換えます。ホームランではなくフォアボールを選んでも出塁するような選手をかき集めるわけ。投手は、どこのチームも目をつけてない「安物」。だけど本当は「掘り出し物」というヤツを次々にトレードでもらい受ける。こうして、あっという間に地区優勝するチームに生まれ変わるのです。

 ビリーとピーターがたどり着いた野球理論は、1970年代にビル・ジェイムが生み出したもの。この男、工場で夜警を務めるかたわら、野球のデータ研究に勤しんできたという変わり者。常識に次々と質問を投げかけた。

 ビリーははじめからこんな野球がやりたくて「マネーボール理論」を導入したわけじゃない。ヤンキースの3分の1しか予算がない貧乏チームがとるべき戦術はこれしかない、と腹をくくったわけ。

 この捨て身の覚悟が人間ドラマなんだよなあ。

 ビリーはボストン・レッドソックスから球界史上最高額のオファーを受けるんだけどね。いまなおワールドシリーズ優勝を本気で狙ってます。レッドソックスは彼と同じ戦略を志向する参謀をスカウトして2年目にワールドチャンピオンになりました。

 この映画。3人の監督がつくろうとしたのね。だから、それぞれシナリオが違う。どれも素晴らしい。

 プロデュースは一貫してブラピ。この男、もしかすると、プロデューサーとしては、クリント・イーストウッドを超えるかもしれない。

 蛇足なんだけど、ブラピ演じるビリーのGMという仕事は、私の仕事の1つであるプロデューサーという仕事にとってもよく似てます。本質はまったく同じだ、と思う。
 ま、その話は原理原則研究会でとくとご披露申し上げたいと思います。

 いずれにしても、ナベツネさんはじめ読売関係者は必見の映画ではないかしらん。