2012年07月14日「インサイダー」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
「Are you a businessman or are you a newsman?」
(あんたは商売人かそれとも報道マンなのか?)
あくまでも真実を報道することに執念を燃やす男が、「会社大事」「御身大事」を優先させる周囲の力学に思わず怒りをぶちまけた瞬間。
ずるいよ、あんたたち。保身ばかりじゃないか。あの男はすべてを捨てて、たばこ業界のインチキを暴露してくれたんだよ。
これ、実話です。ほんの数年前の出来事です。
アメリカの3大ネットワークにCBSがあります。日本で言えば、TBSとかテレ朝といったテレビ局ですな。で、人気番組に『60 Minutes』という硬派番組があります。
番組プロデューサーのローウェル・バーグマンのとこにはインサイダー(匿名の告発者)からいろんなストーリー(ネタ)が届きます。
あるとき、タバコ産業のインチキを告発する極秘ファイルが届いちゃった。いまはほかの会社に吸収されたけど、ラッキーストライクとかマルポロなんかを販売してたB&W社のデータなのね。で、これが本物かどうか、専門家にチェックしてもらおう、と思うわけ。同時に、たばこ産業の「インチキ=不健康促進企業であるにもかかわらず、まともな産業面している化けの皮を剥いでやろう」と考えるわけ。
「ニコチンは麻薬と一緒。しかも体内、脳に早く吸収させるためにアンモニアを使用している」
もち、これはトップシークレット。クビになった研究開発部門の副社長ジェフリー・ワイガンドは、退職後もこの守秘義務を守らないと退職金も医療保険も没収されちゃう。
インタビューに応じるように説得するけど、受けたら彼は大損ですわな。けどね。。。受けるんですよ。
おかげで、ワイガンドはたばこ産業からあることないこと徹底的にネガティブキャンペーンを受けます。500頁にものぼる「人生破滅の徹底攻撃文書」がばらまかれます。
インタビューを受けなければ、真実をしべらなければ、人生は安泰。。。それを捨ててまでどうして話したのか? 家庭の幸せに波風立てたくないでしょ? 普通はね。
大津市の教育委員会の連中も、真相究明会を当日シカトした担任の先生も、父親が何度も訴えたけど、やる気ゼロで事件にしなかった警察も、「我が身かわいさ」「くさいものには蓋」「終わったことはもういいじゃん」という体質だったんでしょう。揃いもそろって「公務員」だからやる気ゼロだったわけじゃなくて、あの人たちはごくごく普通の人ですよ。「自殺した子ども」より自分の生活を大切にしたい小市民なの。
B&W社に執拗に圧力をかけられるワイガンドは苦悩します。だって、大津市の教育委員たちとちがって「良心」があるもの。
で、『60 Minutes』のインタビューに応じます。法廷で証言します。逆に訴えられると知っていても、『60 Minutes』の看板キャスター、マイク・ウォレスのインタビューを受けるわけ。
ところが、CBSの上層部はタバコ産業との訴訟を恐れます。裁判に負けたら膨大な賠償金とられちゃう。そんなリスクは負いたくない、と法務担当顧問がアピールするわけ。
インタビューをカットして放送せよ、と決定、さらにはうるさいバーグマンを番組そのものから降ろせ、とね。
この報道番組の視聴者は全米3000万人ですよ。真実を追及する硬派番組だから人気があった。それが足下から崩れていった。視聴者より広告スポンサーを優先したからですよ。
「視聴者なんて15分だ。名声も15分しか続かないよ」
「名声はそうだ。しかし汚名は永遠に続くんだ」
さて、どうなるか。インサイダーという情報提供者を守ることを信条にしてきたバーグマンがどんな行動をとるか。。。
アメリカではマスメディアの一角がまだ健全で、テレビ屋がダメならブン屋が真実を暴いてやるゼ、ワイルドだゼ、というジャーナリスト魂みたいなものが残ってたようですな。利害というのはたいてい対立するものでしてね。あちらにとって危ない情報は、こちらにとって美味しい情報だったりするわけ。こちらのテレビ局には不都合だけど、あちらのテレビ局にはウエルカムちゅうことはたくさんありますな。私がこのプロデューサーだったらまた違うやり方をしたでしょうね。
ひるがえって日本を見ますと、大手新聞は上から下まで、エサをぶら下げられると涎を流して尻尾を振る飼い犬のようでしてね。御上が垂れ流す「誘導情報」をありがたく頂戴する「記者クラブ」のサラリーマン記者ばっかりのようですな。
来週、「中島孝志の聴く! 通勤快読」で『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』という本をご紹介しましょう。著者はニューヨーク・タイムズの日本支局長。このCBSの時も最後はニューヨーク・タイムズが詳細なる記事で世論に訴えましたよね。
政府にとって都合のいい情報、電力会社にとって美味しい情報、スポンサーにとってありがたい情報。。。ばかり流してたら、モノが見えている国民には見透かされますな。
「ほら、またウソついてる。裏で広告費いくらもらったんだろう」
そのうち、新聞もテレビ(報道番組と称するエンタテイメント番組)も見なくなりますよ。
長野県知事時代の田中康夫さん、金融大臣当時の亀井静香さん、そしていまの小沢一郎さんなどなど、記者クラブの弊害を熟知した政治家たちは、記者クラブに属さないジャーナリストたちにも門戸を開放しました。既得権益を侵されたくないサラリーマンたちは一揆を起こして、彼らを潰そうとしたわけですね。なんのことはない、大津の教育委員会の連中とまったく同じですわな。
「中島孝志の聴く!通勤快読」を視聴されてる情報感度の高い人にはぴったりの映画だと思います。見て損はありませんよ。
※原理原則研究会(東京)は来週17日(火)がオーラスです。1年間お疲れ様でした。打ち上げは21日に横浜でやります。よろしくです。
(あんたは商売人かそれとも報道マンなのか?)
あくまでも真実を報道することに執念を燃やす男が、「会社大事」「御身大事」を優先させる周囲の力学に思わず怒りをぶちまけた瞬間。
ずるいよ、あんたたち。保身ばかりじゃないか。あの男はすべてを捨てて、たばこ業界のインチキを暴露してくれたんだよ。
これ、実話です。ほんの数年前の出来事です。
アメリカの3大ネットワークにCBSがあります。日本で言えば、TBSとかテレ朝といったテレビ局ですな。で、人気番組に『60 Minutes』という硬派番組があります。
番組プロデューサーのローウェル・バーグマンのとこにはインサイダー(匿名の告発者)からいろんなストーリー(ネタ)が届きます。
あるとき、タバコ産業のインチキを告発する極秘ファイルが届いちゃった。いまはほかの会社に吸収されたけど、ラッキーストライクとかマルポロなんかを販売してたB&W社のデータなのね。で、これが本物かどうか、専門家にチェックしてもらおう、と思うわけ。同時に、たばこ産業の「インチキ=不健康促進企業であるにもかかわらず、まともな産業面している化けの皮を剥いでやろう」と考えるわけ。
「ニコチンは麻薬と一緒。しかも体内、脳に早く吸収させるためにアンモニアを使用している」
もち、これはトップシークレット。クビになった研究開発部門の副社長ジェフリー・ワイガンドは、退職後もこの守秘義務を守らないと退職金も医療保険も没収されちゃう。
インタビューに応じるように説得するけど、受けたら彼は大損ですわな。けどね。。。受けるんですよ。
おかげで、ワイガンドはたばこ産業からあることないこと徹底的にネガティブキャンペーンを受けます。500頁にものぼる「人生破滅の徹底攻撃文書」がばらまかれます。
インタビューを受けなければ、真実をしべらなければ、人生は安泰。。。それを捨ててまでどうして話したのか? 家庭の幸せに波風立てたくないでしょ? 普通はね。
大津市の教育委員会の連中も、真相究明会を当日シカトした担任の先生も、父親が何度も訴えたけど、やる気ゼロで事件にしなかった警察も、「我が身かわいさ」「くさいものには蓋」「終わったことはもういいじゃん」という体質だったんでしょう。揃いもそろって「公務員」だからやる気ゼロだったわけじゃなくて、あの人たちはごくごく普通の人ですよ。「自殺した子ども」より自分の生活を大切にしたい小市民なの。
B&W社に執拗に圧力をかけられるワイガンドは苦悩します。だって、大津市の教育委員たちとちがって「良心」があるもの。
で、『60 Minutes』のインタビューに応じます。法廷で証言します。逆に訴えられると知っていても、『60 Minutes』の看板キャスター、マイク・ウォレスのインタビューを受けるわけ。
ところが、CBSの上層部はタバコ産業との訴訟を恐れます。裁判に負けたら膨大な賠償金とられちゃう。そんなリスクは負いたくない、と法務担当顧問がアピールするわけ。
インタビューをカットして放送せよ、と決定、さらにはうるさいバーグマンを番組そのものから降ろせ、とね。
この報道番組の視聴者は全米3000万人ですよ。真実を追及する硬派番組だから人気があった。それが足下から崩れていった。視聴者より広告スポンサーを優先したからですよ。
「視聴者なんて15分だ。名声も15分しか続かないよ」
「名声はそうだ。しかし汚名は永遠に続くんだ」
さて、どうなるか。インサイダーという情報提供者を守ることを信条にしてきたバーグマンがどんな行動をとるか。。。
アメリカではマスメディアの一角がまだ健全で、テレビ屋がダメならブン屋が真実を暴いてやるゼ、ワイルドだゼ、というジャーナリスト魂みたいなものが残ってたようですな。利害というのはたいてい対立するものでしてね。あちらにとって危ない情報は、こちらにとって美味しい情報だったりするわけ。こちらのテレビ局には不都合だけど、あちらのテレビ局にはウエルカムちゅうことはたくさんありますな。私がこのプロデューサーだったらまた違うやり方をしたでしょうね。
ひるがえって日本を見ますと、大手新聞は上から下まで、エサをぶら下げられると涎を流して尻尾を振る飼い犬のようでしてね。御上が垂れ流す「誘導情報」をありがたく頂戴する「記者クラブ」のサラリーマン記者ばっかりのようですな。
来週、「中島孝志の聴く! 通勤快読」で『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』という本をご紹介しましょう。著者はニューヨーク・タイムズの日本支局長。このCBSの時も最後はニューヨーク・タイムズが詳細なる記事で世論に訴えましたよね。
政府にとって都合のいい情報、電力会社にとって美味しい情報、スポンサーにとってありがたい情報。。。ばかり流してたら、モノが見えている国民には見透かされますな。
「ほら、またウソついてる。裏で広告費いくらもらったんだろう」
そのうち、新聞もテレビ(報道番組と称するエンタテイメント番組)も見なくなりますよ。
長野県知事時代の田中康夫さん、金融大臣当時の亀井静香さん、そしていまの小沢一郎さんなどなど、記者クラブの弊害を熟知した政治家たちは、記者クラブに属さないジャーナリストたちにも門戸を開放しました。既得権益を侵されたくないサラリーマンたちは一揆を起こして、彼らを潰そうとしたわけですね。なんのことはない、大津の教育委員会の連中とまったく同じですわな。
「中島孝志の聴く!通勤快読」を視聴されてる情報感度の高い人にはぴったりの映画だと思います。見て損はありませんよ。
※原理原則研究会(東京)は来週17日(火)がオーラスです。1年間お疲れ様でした。打ち上げは21日に横浜でやります。よろしくです。