2013年03月31日期末にあたりひと言ふた言。。。

カテゴリー中島孝志の不良オヤジ日記」

 松藤民輔さんのご厚意で、ここ2カ月ほど彼のブログに短期集中連載させてもらいました。
 その最終回のお話を少し。。。 
 

 まことにまことに小さな国キプロス。辺境といってもいいでしょう。

 キプロス。いったいどこにあるかご存じでしょうか? ほとんどの日本人は知らんだろうなあ。わたしは30年ほど前に地中海をほっつき歩いてましたから土地勘だけはあります。

過去の金融危機を振り返りますと、たいていこういう小さな国が発火点になってますね。メキシコ、アルゼンチン、ギリシャなんかが大火事になったりね。

 ギリシャ危機のとばっちりを受けたようなものですけどね。投資家が債権を強制削減されてしまい、キプロスの金融機関は大損害を受けました。
 キプロスは200億ユーロ程度のGDPしかありません。ない袖は振れない。資金を注入しようにも用意できずユーロ圏に支援を要請したのです。

 ユーロ側の返事は、「貸してもいいけど銀行預金に課税したい。それを条件に100億ユーロ支援しましょう」というもの。キプロスの国会は拒否します。拒否できる立場じゃないけど、一応、交渉の段取りとして「拒否」というポーズをとったわけですね。

 キプロスの金融機関の資金総額は680億ユーロ(8兆円)しかありません。うち外国人が40%保有してます。それもロシア人。

 なぜか?

 キプロスは「租税回避地(タックスヘイブン)」ですからね。リーマンショックまでの間にオイルマネーで潤ったロシアの連中が資金洗浄や脱税目的でキプロスを活用してるわけ。ユーロ圏はこんな脱税マネーを税金で保護するわけがありません。なにしろ、ユーロ圏の富がスイスにどっさりフライトしてることにもカンカンですから。

 かつてのアイルランドやアイスランドのように法人税をめちゃくちや低くして、世界中から企業誘致にも懸命でした。法人税率は10%。日本は40%。

 こんな調子ですから、預金者に応分の負担をしてもらうのは当然、という強行な立場をユーロ側は崩してないんです。

 キプロスには天然ガスという資源がありますから、これを担保にできるでしょうし、今後の開発に投資・融資という形で融通してもらうという手もあるでしょうし、返済のリスケジューリングも懇願するでしょう。
 もし支援がなければデフォルトは確定的ですし、そうなるとユーロ圏初の脱退騒ぎにもなりかねません。

「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている。」と司馬遼太郎が『坂の上の雲』の書き出しで、アジアの辺境の地にある日本を評したほどの国かもしれません。

 ただ日本と絶対的にちがう点は、エネルギー資源が豊富にあって、人口は少なくて、失業率も3%未満。それでいて、より優雅な暮らしを求めて、世界中からマネーロンダリング資金を集め、法人税10%という合法的脱税を「売り」に国家経営をしてきたんです。

 量販店の店先で1円単位で値引きを要求される家電メーカー、ライバル社が多くて研究開発分野をはじめとして、ありとあらゆる分野で競争を余儀なくされて、「国内の競争で日本企業はくたくただよ」と経産大臣から同情される日本の製造業とは真逆の生き方に見えます。

残念ながら、キプロスはアイルランドが勘違いしたように、アイスランドが捕らぬ狸だったように、人のふんどしで相撲を取ることは所詮、絵に描いた餅。ヘタに資源なんてあるから生真面目に仕事をしなくなるわけ。楽に稼げるのに額に汗して働こうとする人はバカか大物です。先祖伝来の財産や利権なんてものがあると、ギリシャ人みたいに怠け者、いやいや酒を酌み交わしては議論ばかりしたがる哲学者になってしまうのが落ち。

「オランダ病」という言葉があります。1960年代、北海の海底に油田や天然ガス田が見つかってしまいました。資源エネルギーの輸出が盛んになってしまったために通貨が高くなり、その結果、製造業の輸出力が落ち始めて経済成長が止まってしまったのです。

 日本は資源がないから買うしかなかった。戦前は買おうにも、欧米が意地悪をして買えなくしたから戦争に訴えるしかありませんでした。戦後は低姿勢の中にも金の力にものをいわせて、高く吹っかけられても、資源、エネルギーを買い続けてきたのです。八方美人のお金持ちにケンカを売るばかはいませんからね。
 それができない三流国家は侃々諤々。「オレのもんだ」「いや、歴史上、わが国のものである」とつばぜり合いをせざるをえないわけでね。

 たとえばカスピ海。カスピ海って、その名の通り、「海」なんでしょうか? それとも「湖」なんでしょうか?
 
 カスピ海の面積はなんと日本国土とほぼ同じです。これが湖とすると、沿岸国の共同管理になります。資源については周辺5カ国で平等に分配しなければなりません。「海」とすると、「国連海洋法条約」が適用されますから、各沿岸国に「領海」(=排他的経済水域)が割り当てられます。資源については自国の「領海」にあるものしか開発できません。

 そこで、各国とも最大限の国益をせしめようと欲の皮を突っ張っているんです。ロシアなんて当初は「湖」と主張してましたけど、途中から「海」へと宗旨替え。いまや「分割せよ」と主張。
 イランはあくまでも「湖」を主張してます。というのも、自国領海に有望な油田や天然ガス田がないからね。で、「共同管理」にして少しでも分け前にあずかろうという腹づもり。

 大国といいながらも、中身はなんともせこい。平素えらそうなことを言ってても、金を前にすると豹変するのは人間も企業も国家も同じですな。

「狭き門より入れ」とは新約聖書マタイ福音書にあります(「狭き門より入れ、滅にいたる門は大きく、その路は広く、これより入る者多し」)。ノーベル文学賞受賞者アンドレ・ジッドの小説でも有名ですね。

尊敬する鈴木清一翁はダスキンの創業者。はじめに創業した会社は外資系企業に乗っ取られ、次に起業した会社は潰された。このとき、債権者に土下座をして謝罪しましたが、ひと言もいい訳をしなかった。不思議なことに、鈴木翁にまたまた出資しようと考える債権者がほとんどでした。その後、ダスキンを創業して、乗っ取られた会社、潰された会社の何百倍もの会社にして大成功しました。

 この人の口癖が「損と得の道あらば、必ず損の道を行け」というもの。合点がいかないんで、後継者の駒井茂春さんは、「損と得ではなくて善と悪ではないんですか?」と確認したことがありました。
「善と悪はどちらの立場から見るかで善にも見えれば悪にも見えるものです。しかし損と得ならだれにもわかります。だれも損はしたくない。得をしたい。だから、そのときは損する道を選ぶんです」

 達人の発想ですな。これと似た話をやはり30年前に聞いたことがあります。

 茨城の地場スーパーに「カスミ」という会社があります。創業者は神林照雄さん。すでに故人となって久しいですが、生前、いろいろ教導していただきました。あまりにも素晴らしいので、会社に押しかけ、道元禅師の話を何時間も拝聴したことを覚えています。そういえば、話の一端を編集して幸之助さんに聴いてもらったこともありました。

「損得ではなく善悪で判断せよ」と神林さんは言うんです。関連企業にコンビニの全国組織がありました。ほとんどのオーナーは酒屋さん出身。
 買ったばかりのコーラをお客さんが落として割ってしまう。すぐに無償で交換して差し上げなさいと教育します。オーナーも店員にそう指導します。

「コーラではなくて、1本10万円のワインならばどうします?」
 このとき、ほとんどのオーナーは少し考え込みます。
「迷うことはありません。やることはコーラと一緒です。喜んで無償で交換して差し上げるのです」

 これが商売のコツです。感動した1人のお客さんは26人のお客さんを連れてくる。そして逆もまた真なり、です。

愛すれば愛される
 与えれば与えられる
 信じれば信じられる

 憎めば憎まれる
 奪えば奪われる
 疑えば疑われる

 これがまたなんとも難しいんだわ。まだまだ人間ですな。生きてる証拠ですな。