2013年12月24日「あなたへ」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 イブですね。この季節、賑やかと感じる人もいれば、淋しいと感じる人もいます。あなたはどちらですか?

 賑やかであればあるほど淋しさって募りますもんねえ。

「放浪と旅の違いってわかりますか?」
「旅には目的もあれば目的地もあります。終われば帰る場所もあるでしょう。けど放浪にはそんなものはありません」

 国語教師をしていたと語る男(ビートたけしさん)が倉島(健さん)にこう語ります。

 芭蕉は旅で、山頭火は放浪。

 まったく期待してませんでしたが、東映本を紹介する中、だれかが高く評価してたんです。だれだっか忘れたけど。
 観ました。大当たり。しばらく健さんにはまりそうです。


監督は降旗康男さん。『鉄道員(ぽっぽや)』『夜叉』『あ・うん』『駅 STATION』でも健さんと撮ってますね。

 倉島は富山刑務所の刑務官。妻を病気で亡くしました。遺言NGOの女性が預けられていた妻の手紙を2通持参します。
 1通には「ありがとう」という言葉が、もう1通には「あなたへ 私の遺骨は故郷の海に散骨してください」と。

 故郷の海? 長崎県平戸? 仕事を辞めたら一緒に旅するつもりで改造していたワンボックスカーで、富山から長崎への旅が始まります。

 富山、飛騨高山、京都、大阪、下関、平戸・・・。そこから先は?

 帰る旅?
 還る旅?

 50歳で結婚した2人。子どももなく残された1人がいったいどこに帰るというのでしょう。

 家に帰る? 待っている人はいません。
 土に還る? 黙っていても人は土に還ります。
 いったいどこに還るというのか? たぶん目で見える世界には見あたらないでしょうね。

 生まれてきた母の腹に還るのだ、と思うんですね。人は神様からの授かりものではなく、やはり預かりものなのでしょう。だから元に還る。最後の最後に還るのは母親のお腹の中。魂はそこに還るのでしょう。

 なぜ散骨を頼んだのか? 

 時が来たら、わたしのことは忘れて、あなたはあなたの人生を歩んでください。あなたにはあなたの時間が流れているんだから。

 人にはいろんな時間が流れています。笑顔を絶やさない人が哀しみをたくさん抱えていたり、人それぞれいろんな事情がありますね。この旅でも事情を抱えていない人はだれ1人として登場していませんね。
 生きていくということは1つ1つの事情=しがらみを抱え込んでいくことなのかもしれません。

 そして死んだらゲームセット。すべてのしがらみがご破算で願いましては、となるわけですね。

 いったんゼロになってもう1度歩き始めるわけです。

 この映画の劇中歌は宮沢賢治がつくったものです。刑務所の慰問活動で亡き妻がよく歌っていた、とされる童謡です。宮沢賢治作詞作曲の『星めぐりの歌』(クリックすると聴けますよ)。

 共演は田中裕子、佐藤浩市、草なぎ剛、綾瀬はるか、岡村隆史、ビートたけしなどのみなさん。映画館で観たかったなあ。。。


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