2014年03月15日韓国映画の傑作「風の丘を越えて」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 北京の版元の編集長氏からメール。
 「ようやく翻訳出版できました。月末に来日するのでお会いできませんか?」

 いまや米中韓に北朝鮮まで敵に回している、と言われる中、よおやって来まんなあ。ま、まだまだ小物ということざんしょ。

 出版までなんと3年半。なんたって、ならず者船長の体当たり事件が発生したとき、中国とのトラブルを避けるために、映像を封鎖したのが当時の民主党政権仙谷官房長官がいたでしょ。海保の一色さんが映像をユーチューブに流したら、「特定秘密保護法をつくらないといけない」と言い出したあの御仁ね。民主党って、原発事故だけでなく一事が万事。そもそも隠蔽体質なのかもね。

 あのとき以来なのよ。中国では日本関係の本が撤去。「平気、平気。そのうち変わりますから」と一貫して言ってましたね、この編集長氏は。

 で、韓国。私の本、韓国では25万部も売れてるわけ。1冊でですよ。もちベストセラー。いまも翻訳が続いてますけど、ええんかいな。当人が心配してしまいますがな。

 「韓国は日本の真似ばっかする」とオ・ソンファさんは指摘してましたけど、なかにはものすごい傑作がありまんねん。
 映画では『カシコギ』とこの『風の丘を越えて』。カシコギはDVDもってるけど、風の丘はどこにも売ってない。

 ようやく手に入れました。即、見ました。やっぱ傑作。


♪アリアリラン、スリスリラン♪ 林權澤監督の1993年公開作品。

「弟だといつわかった?」
「太鼓の音。お父さんとそっくりでした」

 舞台は60年代の韓国。伝統芸能パンソリにたずさわる家族の物語。「西便制」つうのは歌唱法の流派ですねん。

 そうですなあ。ひと言でいうと、津軽三味線、門付けの風雪流れ旅の韓国版つう感じでしょうか。原作は李清俊さんの『南道の人』ですね。全羅道が舞台ですから。芸能は南ですわな。工業は北朝鮮。昔からそうなの。

 山奥の鄙びた酒屋兼旅籠。ドンホという男が現れます。
「パンソリの歌い手がいると噂で聞いた。ぜひ聴かせてもらいたいんですが」
「しばらく歌ってないからどうだか・・・おまえ、お客さんだよ。歌をご所望だ」

 女は別れた姉ソンファ。ドンホはその弟。2人に血のつながりはありません。
 ドンホが幼かい頃、後家の母親のもとに居ついたのが旅芸人のユボンと養女ソンファでした。母親は出産で落命。以来、養父に育てられ、厳しい厳しい修行の毎日。でも、いっこうに生活は楽になりません。もう時代に取り残されていたからね。

 ソンファは歌を、ドンホは太鼓。伝統芸能とはいっても、欧米の音楽がどんどん入ってくる時代。ベサメムーチョがあちこちで流れています。
 忘れられつつあったパンソリにあくまでも固執する養父と言い争って、ドンホは飛び出してしまいます。

 2人で旅する中、逃げられたくない。恨のために、養父はソンファに毒を飲ませて視力を失わせてしまいます。歌は熟していきました。

 薬の仲買人をしながら、ドンホはパンソリの奥不覚に沈む「恨」を極める養父と姉は忘れたことはありません。探しに探し、とうとうある漁村にいることを突き止めます。

 再会。ドンホは名前を名乗らない。自ら太鼓を打ちます。姉の唄にあわせて夜を徹してパンソリを続けます。そして夜が明けると、何も言わずに別れます。

「お世話になりました。ここを出て行きます」

 姉はその後、弟に会うことはありませんでした。
 
 映画館1か所で196日間のロングラン。ソウルだけで100万人動員。韓国映画の名作中の名作ですな。