2018年06月20日「ラッキー」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 「孤独」と「1人暮らし」とは違うんだ、とさ。まあ、死ぬ時に周囲にだれかいるのといないのとの違いかしらん。

 人間、1人で生まれて1人で死んでいく、とはいうものの、孤独死か増えてるとはいうものの、たいていは病院で死ぬわけで、そうすると、家族には看取られないけど、看護士さんとかが気づいてくれるかもしれんし、孤独死に付き合ってくれるわけじゃないしね。

 そういえば、妻と複数の愛人が病室で鉢合わせして、「あのまま死んでしまいたかったね」と以前、NYCで大成功した有名レストランのオーナーが言ってたなあ。

 さて、この映画。見たかったんです。あまりやってないのよ。ギリのギリで、阿佐ヶ谷の小さな小さな小さな映画館。これなら家で見た方がでかいんじゃね、という映画館まで見に行きましたよ。


阿佐ヶ谷駅北口。午後6時過ぎから1回だけの上演。1日6種類くらい上演してます。阿佐ヶ谷って住宅街と飲み屋が混然としててサイコーっすね。



 90歳のジジイを演じるのはこれまたジジイのハリー・ディーン・スタントン。残念ながら公開前に亡くなっちゃいました。最後の主演作品つうことですな。

 友人の監督デヴィッド・リンチまで共演してんの。いい役なんだよね、これが。「ルーズベルト」って命名したリクガメに遺産相続させるつもりが逃げられちゃった、つう役。

 90分程度の映画ですけど、とても良くできてますね。

 このジイさん、めちゃくちゃクセが強いんよ。朝はミルク。それからヨガ。で、馴染みのコーヒーハウスで悪態ついて、自分を出入り禁止にした店に大声でこれまた悪態ついて家路につく。

 この繰り返し。

 フラッと倒れて病院に。

「あなたの場合、禁煙は体に悪いから許します」
「どうして倒れたんだ?」
「加齢ですよ」
「いまさら?」

 笑いましたよ。90過ぎて加齢もないわな。とっくに加齢じゃん。

「病気なら、あなたの年ならとっくに死んでます」

 たしかに医師の言う通り。ヘビースモーカーでもどこも悪くない。ピンピンしてるわけ。あとは加齢で動けなくなり、そして死ぬ。それまでに呆けてしまうかもしれんし、呆けなければ悲劇だし。



「秘密があるんだ。聴いてくれるか」
 心配になって見に来た看護士に告白します。
「怖いんだ」
 
 だれだって死ぬのは怖い。はじめてのこと。リハーサルもきかないしぃ。覚悟してたって怖い。一休さんみたいに、死にとうない、死にとうない、と叫びたい。

 生きるのが辛いほど苦しい。早く死にたい。楽になりたい。それほど辛い、苦しい。ここに来てどうして難行苦行せんとならんの?
 愛しているから楽にしてやりたい、と殺してしまう。それほど辛い。
 死に顔が優しい。とっても穏やかな顔になった。そういうことってあります。

 呆けたら顔は穏やかになります。これ、ホント。呆けは神様からのプレゼントなんです。

 頑固で意固地で攻撃的で傲慢で・・・このジジイ。怖さを告白したらとっても穏やかな顔になります。

♪素直に生きれば良かった。君とやりなおしたい。
 招待されたメキシコ人のパーティで思わず愛の歌「Volver Volver」をアカペラしちゃうジジイ。歌に合わせて演奏がはじまっちゃう。やんやの喝采。

 結婚せず、家族もいない。恋はしたかもしれないけどもう忘れた。男としては役に立たないし。素直に生きたかった。もっと自然に。ああだこうだと決めつけないで、あるがまま、すべてを受け容れればよかった。

 いまとなっては遅いけど、いまからでもそうして生きていこう。後悔はしない。自分の人生だから。ジジイ、カッコイイぜい。

 ホントに脚本よくできてるわな。原作読んでみよっと。

 でも、どうして、これ、見たかったんだろ? 呆けてきたな。


 今日の「通勤快読」でご紹介する本は「Jimmy 後編」(明石家さんま著・702円・文芸春秋)です。