2018年10月01日「岸辺のアルバム」じゃん。

カテゴリー中島孝志のテレビっ子バンザイ!」

 未曾有の台風ですね。風速も桁違いだとか。電車がこんなに止まるのもはじめてでしょ。
 昨晩はデパ地下も午後6時に閉まるわ、「西郷どん」は放送延期になるわ、「わや」でんがな。

 こういう時、私、いつも思い出すことがあるんですよ。

 いまや「ニコタマ」といって高島屋とか楽天本社ビルとかTSUTAYA家電とかがひしめくファッショナブルな街なんすけど、少し前までは(いまでも本質的にはそうなんすけど)川っぺりの冴えない進行住宅地だったんすよね。

 で、大雨で多摩川が氾濫して、建て売り住宅がわんさと流されたことがあります。その模様を、私、ニュースですけどリアルタイムに見てました。

 先の台風でクルマがコロコロ転がってたように、住宅も家財もちっちゃいけど丹誠込めた家庭菜園も洗いざらい流されてしまった。

 こういう時、バラバラに壊れた家庭はどうする? もっとバラバラになる? 悪条件出尽くしの株式市場が反転するように、文字通り、雨降って地固まる?

 脚本家の山田太一さんもニューズ映像を見ながらイメージを膨らませていったと思うのね。
 
 そうです、私がいま取り上げているテレビ番組って『岸辺のアルバム』なんすよね。なんと41年前の放送ですよ。このドラマ大好きなんすよ。過去にも触れてますからよっぽどです。
 桃井かおりさんがセーラー服のスケ番役、頼りない小倉一郎さん、同級生役でまだ自転車であちこちツーリングしてない火野正平さんが出演してた『それぞれの秋』も大好きでした(これDVD化されてないのよ)。
 ついでにいうと、「おたくはどうすんの?」とストレートのロン毛でコケティッシュな魅力たっぷりの真行寺君枝さんがデビューした『沿線地図』(これも山田太一さんでしょ)も好きでした。そう、「ゆれる、まなざし」の彼女ですよ。 



 さて、ドラマは都心からちょいと離れた新興住宅地(和泉多摩川だから小田急線なんすけどね)の一戸建てに住む家族の話。
 夫は中堅商社の部長さん。昭和のサラリーマン。妻(なんとなんと40歳そこそこの八千草薫さんっす。色っぽいのなんのって。お嫌いですか? お好きですゆうてね)は良妻賢母。サラリーの足りない分は洋裁で内職するつう内助の功。娘は上智大学に通い、主人公である弟は大学受験直前。

 一見、どこにでもあるご家庭なんすけど・・・ある日、イタ電みたいなのがかかってくるわけ。「浮気しませんか?」つうお誘いなのよ。


八千草薫さん。20代より40代50代のほうがより美しいですな。

 初めは電話でお喋りするだけ。そのうち喫茶店で会うようになり、ひょんなことからラブホテルに入ってしまう。で、逢瀬を重ねる仲に・・・男は竹脇無我さんが演じてましてね。魅力的なのよ。あの声でしょ。で、彼は奥さん大切。可愛い娘もいるサラリーマン。

 「自分でも嫌になるほど常識的な人間なんです。しかしそんな人生で情けなくないか、という気持ちがありました。狂ったような世界に首をつっこんで溺れてみたい気持ちがありました。でも、ゼッタイそんなことはできないだろう、ということも知っていました」

 ところが、1、2度見かけた人妻に電話をかけてしまった。自分の中にこんな「非常識な情熱」があったのか、と自分を見直す気持ちになった、というんです。

 1度の人生。願望を封印して死ぬも人生。気づいてみたらジジイになりババアになり、やりたくてもできない年になってしまう。

 「そんな気持ちにさせたのは、電話だから言えるんですが、奥さんの美しさです」

 どうっすか? こんなこと囁かれたら? 

 昔、「よろめきドラマ」つうのがありましてね。「有閑マダム」という言葉もありました。でも、このドラマ、それだけじゃない。「殻を破りたい!」という潜在意識みたいなものが流れてるんすよね。

 竹脇無我さんが演じる男は教養があって優しくて、早い話が「女」と見てくれない夫とは雲泥の差なんすよ。

 どうっすか?

 で、どうなるか? どうせDVDも販売されてないんでネタバレしちゃいますけど、母親の様子に不審を抱いた息子がそっと跡をつけちゃう。で、母親の浮気を知ります。それだけじゃありません。英語好きの姉がヤンキーに犯されて妊娠。で、下ろしたことも知ります。父親が商談のために女衒みたいなことをしてることも知ります。

 「善人ぶる家族」「お互いに無関心な家族」に怒り心頭。で、ちっちゃな正義感からぶちまけちゃう。もち、家族はバラバラですよ。

 そんな時に多摩川が氾濫しちゃう。いままで住んでいた家が流されてしまう。いったいどうする?

 この時、この家族はいちばん大切なものを持って逃げるんですよね。それはアルバム。偽りのつくり笑顔、偽りのバラバラ家族、偽りの写真。
 すべて偽り。けど「想い出」がもう一度「家族」をつくってくれるかもしれない。

 この台風は何を残しますかね? 災害だけでしょうか・・・。バラバラ家族がよりを戻すきっかけを残してくれたらろっもんですけど・・・。
 

 さて、今日の「通勤快読」でご紹介する本は「なぜ柳家さん喬は 柳家喬太郎の師匠なのか? 前編」(柳家さん喬・柳家喬太郎著・1,836円・徳間書店)です。