2000年06月20日『人の上に立てる人』
カテゴリー価値ある情報」
やる気のないリーダーなどいらない
知人が某自動車販売会社の経営者に就任したときの話である。
普通なら出世で喜んでいられるものの、彼の場合はそうではなかった。「一年で目途がつかなかったら会社ごと潰す」という親会社からの厳命なのである。この販社は本社直轄であるにもかかわらず、いや、だからこそそうなのかもしれないが、設立以来一度も儲けたことがない。毎年、赤字を繰り返している曰く付きの会社だ。ほかの販社はたいてい地場のオーナーが独立採算で経営をしているから、こんな悠長なことは言ってられない。赤字、即、トップの更迭。赤字の連続イコール倒産である。
この不況下でとうとう親会社も背に腹を換えられなくなってしまった。そこで、彼に白羽の矢が立てられ経営トップとして就任することになったわけだ。
社員数は約百人、ほとんどが営業マンである。彼は赴任すると、手始めに全社員と話をすることにした。まるで、ルノーから日産自動車に乗り込んだカルロス・ゴーンCOOのようである。
「どうして毎年、赤字が続くのか?」
「どこに問題があると思うか?」
「その問題を解決するにはどんな方法があるか?」
それこそ、全社員に真摯に聞いて回ったという。それでわかったことは一つ。
「四十代、五十代の部長、課長に問題がある」
彼らは本社からの出向であるため、それほど頑張って働かなくとも給料は保証されている。下がることもないが、頑張って成果を上げてもボーナスがアップするわけでもない。だから、「こんなキャンペーンをやってみたい」という部下が提案しても、積極的に取り組もうとしない。こんなことが何回か続くと、若手社員というのは「どうせ話してもムダだろう」と自己規制してしまう。
「欲求不満で燻っている若手に、オレが火をつけてやればもう一度燃え上がるにちがいない」
一通りヒアリングを終え、会社の現状と問題点を明確に真摯に訴えるた若手を見たときに、そう感じたという。
リーダーにいちばん大切な能力はやる気である。やる気のないリーダーなどリーダーではない。チャレンジ精神がない人間をリーダーなどにしておいてはいけない。そこですぐに本社に掛け合ったのである。
「本当に再建させようと考えるなら、ちょっとやそっとの荒療治では無理だ。組織をもう一度、作り直さないといけない。人事を大幅に変更することになるかもしれないが、黙って見ていて欲しい。もし、それができなければ、わたしの力では無理だから社長は遠慮したい」
やる気に火をつける
彼が本社に提案したのは「リーダーの全とっかえ」である。管理職は出向者が占めていたが、彼らの役職をすべて取り上げることにした。「肩書きはそのままでいい。しかし、仕事をする上では肩書きは一切認めない。つまり、部下はゼロにするし、決裁権も無しにする」ということだ。
たった百人しかいないのに、部長、次長、課長、副課長、係長、主任と六種類の肩書きがあった。ヒアリングのときに問題点と解決案を提案したり、「こんな企画を実践したい」というアイデアをいろいろ出した若手を新リーダーに指名。さらに、「リーダーになりたいならいつでも登用する。ただし黒字にすることが最低の条件だ。それがきちんと説明できるなら、いつでも抜擢する」と宣言すると、「こんなチームを作りたい」と志願者が次々に出てきた。
入社二年目の女性社員も、「女性だけのチームで勝負したい」と立候補してきた。
「君の気持ちは分かるが、はたしてきちんと儲けが出せるのか?」
「一台当たり二十五万円の利益が取れます」
「それは無理だ。値引きを要求されるから一台五万円が平均の利幅だ」
「いえ、わたしたちが売るとお客さんから値引きされることがありませんから、一台十万円儲かります。それにオプションでカーナビやCDチェンジャーなどいろいろつけてもらえますから、それで五万円は儲かります。これを見て下さい」と彼女がいままで取った注文票を見せてもらうと、これがほんとうに「すべてお任せ」というくらい彼女のセールス通りになっている。
極めつけは、「住宅ローンも最長回数で組んでもらいますし、保険もお勧めのものに入ってもらいます。これでそれぞれ十万円。トータルで二十五万円です」
この二十五万円という数字は人件費、家賃、電話代をさっ引いた利益額なのだ。つまり、一人当たり年間三百万円の黒字を稼げる。即、任命である。
また二十歳の男子営業マンもユニークなところに目をつけて提案してきた。
「いま駅のそばにクラブを作ってますね。あのメインストリートにメーカーの物置があるんですよ。あんなもの何の役にも立っていませんから、すぐに撤去してショールームを作ってください。車を売るというより、いかしたDJを呼んできたり、パーティっぽい乗りで情報を発信する。クラブ目当ての若いお客がたくさん流れてくると思うんです。ぜひ僕と同じ年代の連中でやらせてほしい」
リーダーOK。どちらのチームもこの会社のドル箱に育っている。
「何とかしよう」という気持ちはだれもが持っている。ところが、まだやってもいないのに、「それは無理だよ」「やったことがないからなぁ」の一言でやる気のある人ほど腐っていく。
だれでも主役で頑張りたい。逆に言えば、脇役でいる限り人は本気にはならない。リストラはチャンスそのものを無くしてしまう。やっぱり、淋しい仕打ちである。
知人が某自動車販売会社の経営者に就任したときの話である。
普通なら出世で喜んでいられるものの、彼の場合はそうではなかった。「一年で目途がつかなかったら会社ごと潰す」という親会社からの厳命なのである。この販社は本社直轄であるにもかかわらず、いや、だからこそそうなのかもしれないが、設立以来一度も儲けたことがない。毎年、赤字を繰り返している曰く付きの会社だ。ほかの販社はたいてい地場のオーナーが独立採算で経営をしているから、こんな悠長なことは言ってられない。赤字、即、トップの更迭。赤字の連続イコール倒産である。
この不況下でとうとう親会社も背に腹を換えられなくなってしまった。そこで、彼に白羽の矢が立てられ経営トップとして就任することになったわけだ。
社員数は約百人、ほとんどが営業マンである。彼は赴任すると、手始めに全社員と話をすることにした。まるで、ルノーから日産自動車に乗り込んだカルロス・ゴーンCOOのようである。
「どうして毎年、赤字が続くのか?」
「どこに問題があると思うか?」
「その問題を解決するにはどんな方法があるか?」
それこそ、全社員に真摯に聞いて回ったという。それでわかったことは一つ。
「四十代、五十代の部長、課長に問題がある」
彼らは本社からの出向であるため、それほど頑張って働かなくとも給料は保証されている。下がることもないが、頑張って成果を上げてもボーナスがアップするわけでもない。だから、「こんなキャンペーンをやってみたい」という部下が提案しても、積極的に取り組もうとしない。こんなことが何回か続くと、若手社員というのは「どうせ話してもムダだろう」と自己規制してしまう。
「欲求不満で燻っている若手に、オレが火をつけてやればもう一度燃え上がるにちがいない」
一通りヒアリングを終え、会社の現状と問題点を明確に真摯に訴えるた若手を見たときに、そう感じたという。
リーダーにいちばん大切な能力はやる気である。やる気のないリーダーなどリーダーではない。チャレンジ精神がない人間をリーダーなどにしておいてはいけない。そこですぐに本社に掛け合ったのである。
「本当に再建させようと考えるなら、ちょっとやそっとの荒療治では無理だ。組織をもう一度、作り直さないといけない。人事を大幅に変更することになるかもしれないが、黙って見ていて欲しい。もし、それができなければ、わたしの力では無理だから社長は遠慮したい」
やる気に火をつける
彼が本社に提案したのは「リーダーの全とっかえ」である。管理職は出向者が占めていたが、彼らの役職をすべて取り上げることにした。「肩書きはそのままでいい。しかし、仕事をする上では肩書きは一切認めない。つまり、部下はゼロにするし、決裁権も無しにする」ということだ。
たった百人しかいないのに、部長、次長、課長、副課長、係長、主任と六種類の肩書きがあった。ヒアリングのときに問題点と解決案を提案したり、「こんな企画を実践したい」というアイデアをいろいろ出した若手を新リーダーに指名。さらに、「リーダーになりたいならいつでも登用する。ただし黒字にすることが最低の条件だ。それがきちんと説明できるなら、いつでも抜擢する」と宣言すると、「こんなチームを作りたい」と志願者が次々に出てきた。
入社二年目の女性社員も、「女性だけのチームで勝負したい」と立候補してきた。
「君の気持ちは分かるが、はたしてきちんと儲けが出せるのか?」
「一台当たり二十五万円の利益が取れます」
「それは無理だ。値引きを要求されるから一台五万円が平均の利幅だ」
「いえ、わたしたちが売るとお客さんから値引きされることがありませんから、一台十万円儲かります。それにオプションでカーナビやCDチェンジャーなどいろいろつけてもらえますから、それで五万円は儲かります。これを見て下さい」と彼女がいままで取った注文票を見せてもらうと、これがほんとうに「すべてお任せ」というくらい彼女のセールス通りになっている。
極めつけは、「住宅ローンも最長回数で組んでもらいますし、保険もお勧めのものに入ってもらいます。これでそれぞれ十万円。トータルで二十五万円です」
この二十五万円という数字は人件費、家賃、電話代をさっ引いた利益額なのだ。つまり、一人当たり年間三百万円の黒字を稼げる。即、任命である。
また二十歳の男子営業マンもユニークなところに目をつけて提案してきた。
「いま駅のそばにクラブを作ってますね。あのメインストリートにメーカーの物置があるんですよ。あんなもの何の役にも立っていませんから、すぐに撤去してショールームを作ってください。車を売るというより、いかしたDJを呼んできたり、パーティっぽい乗りで情報を発信する。クラブ目当ての若いお客がたくさん流れてくると思うんです。ぜひ僕と同じ年代の連中でやらせてほしい」
リーダーOK。どちらのチームもこの会社のドル箱に育っている。
「何とかしよう」という気持ちはだれもが持っている。ところが、まだやってもいないのに、「それは無理だよ」「やったことがないからなぁ」の一言でやる気のある人ほど腐っていく。
だれでも主役で頑張りたい。逆に言えば、脇役でいる限り人は本気にはならない。リストラはチャンスそのものを無くしてしまう。やっぱり、淋しい仕打ちである。