2005年11月27日「牢屋でやせるダイエット」 中島らも 青春出版社 560円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 そういうわけで、私が関口宏、いやいや館ひろしです。
 ♪泣いてもいいよ♪

 いやはや、新手のダイエット法かと思って買ったら、違ってた。
 著者が中島らもさんじゃないですか。なーんだ。アマゾンで買うと、こういう勘違いがものすごくありますな。
 でも、らもさん、好きでんねん。私、京都に4年間、住んでたでしょ。関西のテレビには、らもさん、よく出てましたもん。いま、テレビを見るとね、どことなくリリーさんとかぶるんだよね(私だけ?)。 
 
 「お縄を頂戴致しやす」
 麻薬及び向精神薬取締法違反、大麻取締法違反。この2つの容疑で中島らもさんが逮捕されたのは、2003年2月4日2時30分。
 来たのは警察官じゃなくて、厚生労働省の麻薬Gメンなのね。
 そうか。ここが担当してんのか、なんて感心しちゃいました。はたして丹波哲朗は出てくるんだろうか。

 しかも来たのは11人。
 思わずらもさん、「どことサッカーするんだ!」と答えたとか。
 でも、この無駄口、すぐに「発見しました!」という声にかき消されちゃいます。なんと、机上に使ったばかりのマリファナおいてるんだもの。
 弁解できないでしょ。
 で、即、拘置所行き。

 日本の刑法では、逮捕後48時間以内に裁判所に勾留請求が出されます。裁判所が拘留を許可した場合、起訴、あるいは不起訴が決まるまで、拘置所に10日から最長20日留め置かれることになる。
 この20日間で証拠を集めたり、自白を促したり、公判を維持するための材料を集めるのだよ。
 すなわち、逮捕後48時間、拘留許可後20日間、トータル22日間が取り調べの持ち時間なのね。
 だから、この間、頑張りましょう(いったいなに頑張んだよ!)。
 独房は二畳のスペースなんだけど、廊下に面して鉄格子があるため、また、奥にトイレ、洗面所があめため、実質的には一畳と考えておいてください。
 ここに入ると、人生は本当に「座って半畳、寝て一畳」だな、ということがしみじみと伝わってきますなぁ。

 らもさんは持病として、躁鬱病があるのね。で、ここ20年ほどは睡眠薬無しには寝られません。
 しかも、高血圧。
 で、拘置所には医師はいません。これがどういう意味か・・・。

 入って4日ほどたつと、もうギリギリ。ちょっとおかしくなってきたんです。
 下痢、手の震え、イライラ・・・連日の不眠、夜間4度まで冷え込む気温、1日8時間の取り調べ、緊張感、頭痛・・・。これがいっぺんに襲ってきた。
 こりゃ大変だよ。
頭の中で何十匹ものセミが一斉に鳴く。孫悟空の頭の輪っかがぐいぐい締める。これ、脳溢血の典型的前兆じゃないですか。
 でも、医者はいないわけ。看護師はどうやらいるらしい。
 看守を呼んでも、診察はあっさり却下。「今日は土曜日だから医師は来ない」とね。
 看護師にいうと、「ここは不安な人だらけ。みんな不眠なの。そんな人たちに薬を与え放題にしてたらどうなる?」
 で、くれたのはバファリン。
 「えっ、これだけ?」
 「いらんか?」
 「いります」
翌日、あさいちばんに診察してもらえるわけではないのね。午後一時にようやく診察。
 血圧を測ると、「上が230」。医師が驚いて舌下錠をくれた。もう胃で吸収させてる状況じゃないわけよ。
 「血圧ってどのくらい上がるものなんですか?」
 「250を超えて生きてる人は見たことがないです。たいてい、それまでに死んでいます」と医師。
 昨晩はおそらく250は超えてたはず。この日の取り調べは当然、中止。

 拘置所って役所らしい役所なのね。まったく融通は利きません。明治時代の監獄法がいまだに生きている空間です。
 看守がどうして「先生」と呼ばれるのかわかりませんな。しかも、この人たち、決められた規則に疑いをはさむこともなく、ここをこうしよう、あぁしようなんて提案活動があるわけでもなく、永遠に過去を踏襲するだけで、完璧にロボット人間だそうです。
ルールからはみ出たら押し戻す。上役から叱られれば頭を下げる。散らばった書類は、元に戻す。心が揺らぐことは一切ありません。
 人間としての意思をなくさないとできない仕事なんでしょうな。若くしてこういう仕事してたら、辛いんじゃないかなぁ?

 でも、さすが、そこはらもさん。彼らの微妙な心の動きをきちんと感じてるわけよ。
 普通の人よりはるかに心の動きが狭いけど、そんな微妙な周波数を敏感に感じとると、意外といい人たちなんだなとわかります。

 それにしても、大麻って本当は人畜無害なのね。
 これ、アルカロイド成分はテトラヒドロカンナビノールっていう塩基物なんだけど、常習性もないし、ニコチンもないの。
 ここだけの話だけど、ほら、わたし、いろんなとこに行ってるじゃない? 学生時代から。しかも秘境といわれてるとこばっかし。
 ホントにここだけの話なんだけど、たいてい、「ご当地大麻」ってのがあるんだよね。しかも、これ、ガキが売ってるわけ。某国では「これ、お勧めです」なんて、10歳くらいのチビがマジックマッシュルームもってくるしさ。「あれ、きかなかった? じゃ、これは? サービスしとくよ」なんて、ハッシシもってきてくれたりさ。「思いっきり吸って、そのまま吐かすにガマンするといいよ」なんてね。「おまえは大麻コンサルタントか」なんて突っ込んだりして。
 でも、地域によっては「利き大麻大会」とか「大麻早吸いチャンピオン」とかあるんだろうね(あるわけない!)。
 どうも元々、耐性があるというか、強いらしくてきかないのよ。そういえば、昔、手術前に下剤飲まされたんだけど、下剤まで消化しちゃったらしくてさ。医者が往生してたわな。
 だから、たいていのものは試しました。ただし、天然ものだけ。そこは「人工的なもの、添加物は身体に悪い」という家庭の方針ですね。

 たしかにコカインやシャブは戦闘的になるけど、大麻は平和的だもの。LSDは危ないと思うよ。覚醒剤は心身ともにボロボロになるよ。まだ若いのに歯がボロボロの人いるけど、これ、覚醒剤でやられてるケースね。常習性もあるし、耐性があるから、どんどんエスカレートしてきます。
 「ストップ・ザ・覚醒剤!」
 
 らもさん、懲役10カ月、執行猶予3年という判決がおりました。
 けど、翌2004年7月26日、転落事故による脳挫傷で急逝します。享年52歳。惜しいね。200円高。