2006年03月07日「スープで、いきます」 遠山正道著 新潮社 1260円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

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 この会社、むちゃくちゃ入りてぇ・・・。そんな魅力を感じさせる1冊でした。
 できあがった会社で仕事するのもいいけどさ、これからみなで作っていくというのは苦労もあるけど楽しいんじゃない。たくさんの失敗と少しの成功に一喜一憂したりね。で、いろんな勉強をする。会社が成長するのとともに、社長も従業員も成長していく。楽しいだろうね。 
 わたしが就活生なら、こんな会社で働きたいね。息子に勧めようかな(大学3年なんだけど、「吉本興業で芸人になる」ってまだ言い張ってます)。

 著者は三菱商事の社員。情報産業グループってとに所属してたの(いまは外食サービス事業ユニット所属、当たり前だわな)。

 それがスープ屋さん?
 そっ、なんの因果か。人生ってそういうことってたくさんあんじゃん?
 食の素人で、サラリーマンで(いまでも)、けど、日本発の洋風ファストフードを提案したい。そんな熱病にとりつかれてはじめちゃった。
 あなた、ここのスープ、食べたことある?
 横浜駅西口にウナギの寝床みたいな店があんの。わたしはあそこでよく買います。やっぱ、定番の「東京ボルシチ」「オマール蝦と蟹」かな。たまに「ストロガノフ」。
 カレーの匂いに釣られて隣の店に浮気しちゃうこともあるけど、なんのことはない。ここの姉妹店だってさ。

 さてさて、具沢山のスープ。事業はスタートからずっと苦沢山だったらしいよ。

 でかい仕事ができる。これって、三菱や三井といった商社に勤務する魅力の1つだよね。
 けど、この人、ちょっと違うのね。「でかい仕事」という解釈のしかたというのかな・・・。スケール感て、1人1人違うでしょ。
 「もっと手触り感のある、身の丈に合ったもの、自分で実感できるもの」
 小売か食の関係に身を置きたいな・・・漠とした願望。で、ケンタッキー・フライド・チキンに出向させてもらっちゃう。先に出向してる友だちに根回しして、「社長が欲しいといってる」という形で三菱を説得したのね。意外とちゃっかり?

 ある日、女性が1人でスープをすすっているシーンが降臨。
 「ふーん。スープか。いいかも」
 堰を切ったようにイメージが膨らんでいく。女性が1人で入れる店の圧倒的不足。無添加の食べ物・・キーワードがたくさんたくさん浮かぶ。
 そんなイメージを言葉にしてみた。
 それが「スープのある1日」という物語形式の企画書だったんですね。これ、この会社の憲法みたいに、原点の原点になってるみたい。

 スープというと、コーンスープ、ミネストローネが圧倒的。
 けど、ここはコーンはいまだにやらない、この前、ミネストローネ買おうと思ったらなかった(勘違いかな?)。
 基本は予定調和的なスープは作らないこと。
 たとえば、オニオンスープ。グラタンスープをイメージせずに、タマネギからの発想。
 NYに100年の歴史を持つステーキハウス「ピータールーガー」。
 ここのサラダって、厚切りトマトに厚切りタマネギがのって、ソースがかかったもの。それをナイフで切って食べる。そこから発想したスープは・・・オニオンスープに厚切りソテートマトをのせて、クレソンを付け加える一品。

 最初のパイロット店での1カ月はうまくいきます。
 たとえば、目標700万円に対して1500万5千円。けど、この勢いを維持するというのは大変なこと。
 2店舗、3店舗で「地獄」を見ます。赤坂が大失敗だったのね。場所的には外国人が多いからスープが売れるように見えるけど、それは昼の一瞬だけ。夜中はみな、地下に潜っちゃうし、土日は人がいない。
 で、毎月赤字。数カ月後には資金ショート!
 
 社長も幹部も現場も1日中働きづめ。癖にならないように、いったん自宅に戻るものの、シャワーを浴びてまた店へ。チラシだって自分で配る。できることはなんでもやった。
 けど、仕組みの失敗は命取り。問題が次から次へと噴出。ビジネスの生き地獄。
 苦渋の撤退。すべては立地戦略のミスでした。

 幸い、他の店が当たった。横浜西口店もその1つ。努力だけではカバーできないことがありますね。見込みが外れたり、当たったり、やってみないとわからないことって、たくさんあります。
 たとえば、売れてるスープのみに依存してると、お客に飽きられ、いつの間にか売上が落ちていく。そこで毎月1つ、新しいスープを開発することを課します。
 
 そんなこんなで、いろんな教訓を得たみたい。
?経営の不作為の帳尻は必ずどこかで合わせなければならない。
?見たくない現実は早く見て、早く対処を決める必要があること。
?人材は「やりたくて・やれる人」でなければ仲間も本人も苦労すること。
?言いづらいこと、大変なことを要求しあえることが、仲間の□であること。
?どんな苦難の時でも、個人としてのユニークさとチームとしての強さを持ち続けられるということ。

 普通、この手の本はゴーストライターに任せたり、「しゃべり」でまとめる人が多いんだけど、これは著者自ら書いてることがわかりますね。これ、他人ではとても書けませんよ。
 人に対して誠実な態度、仕事に真摯に取り組む習慣、優しくて、控えめで、ちょっとおっちょこちょいで、けど熱いロマンがたっぷり伝わってくる本です。300円高。お勧め。