2004年07月19日「生活習慣病に克つ新常識」「会社を踏み台にして昇る人踏み台にされて終わる人」「演技と演出」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「生活習慣病に克つ新常識」
 小山内博著 新潮社 680円

 サブタイトルが「まずは朝食を抜く!」だって。

 でもなぁ、朝食、抜くと力入らないし、ご存じの通り、人間の脳みその栄養源はブドウ糖です。これ、持ち時間というのがあって、たいてい朝までもたないんですよね。
 だから、朝、胃袋に入れて、ブドウ糖に変えて脳みそに栄養を送って午前中をしのぐ。で、ランチを食べて夕方までしのぐ。
 夕方食べたら、これで朝までしのぐ・・・というようなリズムなんですが。

 著者は違うの、真っ向から反対してるの。

 「現代人が抱えてる身体の問題のほとんどは、実は生活習慣病によるもので・・・糖尿病、痛風、腰痛・・・アトピー、花粉症、肝炎、ガン、リウマチまでが、この改善によって快方へと向かう」
 はい、これは賛成です。
 で、著者はこの大部分が朝食を抜くことで改善するっていうわけ。

 この人、東大医学部を卒業後、労働科学研究所の元所長さん。がん、高血圧といった生活習慣病の第一人者だとか。

 元々、日本人は道元が宋から朝がゆという習慣を持ち込むまでは、一日二食だったらしいですな。午前十一時くらいにようやく食べてたわけです。
 そのころ、農業でしょ。
 朝食食べずに、朝、野良仕事してたわけですよ。いまでいえば、ブランチってとこ?
 
 ここ数年、日本人の死因のトップが胃ガンから肺ガンへと取って代わられました。けど、まだ、胃ガン死はガンによる死因の二割近くを占めてます。
 この数字はアメリカの約十倍ですよ。

 なぜ、日本人に胃ガン死が多いのか?
 白飯を食べるから、塩分の摂りすぎだから、焼き魚を食べるから・・・。理由は時代によって変わりましたが、「塩分摂りすぎ」以外は消えてなくなりました。

 昭和三十年頃、奈良県の男性の胃ガン死発生率は日本一でした。
 その多くは林業従事者ですね。この人たちの仕事は激務です。ですから、唯一の楽しみは昼の茶がゆ。
 これを多い人で一日百二十杯、少ない人でも四十杯は食べていたという記録が残っています。
 で、働いた後、すぐに仕事をする。
 のこぎりで杉や檜という大木を切るわけですよ。大変な激務です。

 実は、茶がゆは消化が悪いのです。胃に物凄い負担がかかってしまいます。
 だから、胃ガン死が多かったのです。
 それが証拠に、後日、チェーンソーが導入されると、胃ガン死は激減します。仕事の負担が楽になったからですね。茶がゆをあまり食べなくなった。
 
 著者は胃ガン死の原因を茶がゆの食べ過ぎ、食後すぐ労働すること、ということよりも、「朝食摂取」の習慣にあると断定しています。

 欧米、とくにヨーロッパの場合は、ディナーがかなりしっかりしてるので、朝は軽くコーヒーにサラダ、フルーツといったことが少なくありません。いわゆる、コンチネンタルですね。
 一方、アメリカでも少ないものです。
 
 朝食を消化する時間は通勤時間中、あるいは仕事中です。その負担するパワーは、安静時と比較すると約五倍もかかってしまう。
 これが毎朝続くとなると、こりゃ大変です。

 「でも、朝食を抜いた子どもは朝食で倒れるのでは?」

 データを取るとそんなことはありません。食べても食べなくても、倒れる子どもは倒れるのです。
 「朝食をとらなくても平気だ。前日の晩ご飯をきちんとバランス良く食べていれば大丈夫」「問題はバランスのいい食事をとっているかどうか、睡眠不足かどうか。こちらのほうがポイントだ」というのです。

 糖尿病は食事制限されることで知られますが、「糖尿病は食べて治せ」というのがこれまた、著者の持論。
 ただし、肥満と糖尿病は深く関係してますから、まず体重を落とすこと。それから、バランスのいい食事。「ドカ食いを避けよ」というわけ。
 いずれにしても、耳が痛いな。
 150円高。
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2 「会社を踏み台にして昇る人踏み台にされて終わる人」
 夏川賀央著 アンドリュース・プレス 1470円

 会社ってなんでしょうかねぇ。
 いま、独立してるでしょ? でも、元々、サラリーマンになった当初は、つまり、学校を出てから最初に就職した時は、「よし、ここでサラリーマンとして骨を埋めよう」というつもりでした。
 当時、こんな人間が当たり前だったと思うのです。

 いまのように、人材流動化が常識になっている時代ではありませんものね。

 夢を抱いて入社する。けど、内部に入れば見えなかったものが見えてくるものです。

 「来てみれば 聞くより低し 富士の山 釈迦も孔子も かくやあるらん」

 すると、「一生働こう」と考えていた気持ちが、「いつ辞めてもいいや」に変わっていきます。
 このまま、出世コースに乗って突き進むのは簡単なことです。
 けど、「たった一度の人生、そんなものと引き替えてはつまらない」と感じてくるのです。
 事実、転職する時の気持ちは、「さて、今日のランチはどの店にするか?」よりも軽かったのです。
 当時は、いまと比べれば、まだ景気も良かったし、この私レベルですら、いくらでも転職できた時代でしたからね。

 私の場合、著者が指摘するような「会社を踏み台にする」といった覚えはありません。
 というのも、29歳の時に社内で新事業を展開した時、このベースになった企画、人脈は、すべてプライベートで作っていた「キーマンネットワーク」という手弁当の勉強会組織でした。当時、700人もいましたから、みな、私をサラリーマンとは思っていなかったはずです。
 会社を世話したことはあっても、世話になった覚えはないのです。

 人生には損益計算書、バランスシートがあります。
 会社と自分を天秤にかけで、どちらがどれだけ重いのか、軽いのか。会社に世話になりっぱなしという人もいるでしょうし、世話しっぱなしという人もいるでしょう。

 けど、忘れてならないことは、サラリーマンは1つの歯車だということです。スペアはたくさんあるのです。
 大きな歯車になるか、小さな歯車になるか。それはいろいろあるでしょう。けど、歯車は大きかろうが、小さかろうが、なければ全体が動きません。
 「スペアでいくらでも代替可能だよ」
 そんなこと言われないだけの存在感を示したいものですね。
 200円高。
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3 「演技と演出」
 平田オリザ著 講談社 735円

 この著者のこと、私、ずっと女性だと思ってました。
 だって、そんな名前じゃないですか。もう紛らわしいんだよ。完璧なオヤジじゃない、ショック・・・(まっ、人のことは言えないけど)。

 ええっと、著者は劇団青年団の主宰者。大学の先生でもあります。

 「蜷川幸雄さんの舞台。幕開けから5分以内に、観客をサプライズさせる仕掛けがある。たとえば、大音響の音楽であったり、たくさんの群衆の登場であったり、奇抜なアイデア。いずれも驚く、ということが、観客とのイメージの共有がしやすい」

 たしかに。

 さて、著者の作品に「東京ノート」というのがあるんですよ。

 こんなプロットなんだけど・・・。
 登場人物は男と女子大生。この女子大生、昔、この男に家庭教師をしてもらってたことがあって、当時、二人は恋愛してたの。

 で、この二人、ひょんなことから再会するんですね。

 女「あなたと別れた後、わたし、子どもができてたんですよ」
 男「えっ?」
 女「赤ちゃん・・・」
 男「・・・」 
 女「うっそー」
 男「・・・」

 この時、著者は演出家として、俳優にこんなことを要請します。

 「女性は本当は妊娠していた。けど、わざとうっそーと言ったと、観客の半分に思わせる。もう半分の観客には、妊娠はしていない。ただの嘘だと思うようにして欲しい」

 いずれにしても、「演出家として正解はない」ということ。

 従来の演出では次の3通りになります。
 1本当は妊娠していたが、過去の関係を絶つためにウッソーと言い放つ。
 2妊娠していない。男を困らせるために嘘を言った。
 3よりを戻したいから、カマをかけた。だが、男が困ってしまったので諦めた。
 
 けどね、わたし、この会話の女の狙いはそんなものではないと思うんです。次が正解じゃないかなぁ。正解はないって言うんだけど・・・。

 4あの時、この男は本当に私のことを愛していたのかどうか。それを確認したくて、白状させるきっかけを与えた。
 違うかな。
 200円高。
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