2004年07月12日「思いつきを会社にする」「ヒットの哲学」「子ども俳句170選」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「思いつきを会社にする」
 マイク・サザン著 阪急コミュニケーションズ 1600円

 起業家のための指南書・・・かな。
 新商品や新事業と同様、会社にもそれぞれ成長パターンがあります。
 たとえば、勃興期、成長期、成熟期、衰退期といった具合ですね。

 著者はそれを種まく時代、苗木の時代、若木の段階、成木の時代と呼んでます。まっ、同じことでしょう。

 で、それぞれの時期にどんなことが大切なのかを明らかにしています。

 たとえば、種まく時代。

 「ビジネスで成功するためにはハード・ワークが欠かせない」
 それは半端な量ではありません。1日20時間、仕事のことを考える。これを少なくとも5年はやり続けなければいけないだって。

 まっ、当然のことですね。「これだ!」「この商品を売っていく」と決めたら、右顧左眄しない。横を見ない、振り返りもしない、それで無我夢中に突き進む。でなければ、負けてしまいます。

 何に負けるか?

 不安にです。
 「これでいいの?」
 「もっといい仕事があるんじゃないのか?」
 いったん、不安を覚えたら、もう終わりですもの。だから、ハード・ワークというのは不安を感じさせないで済む効果的な方法なんですね。
 で、その仕事、その商品が好きならば、1日20時間労働を5年間くらい平気でできますよ。
 わたし、やってますもの。寝てても、コンサルやプロデュースのこと、考えてますものね。

 起業家という人間には特性があります。
 1自信に溢れている。
 2カリスマ的要素がある。
 3エネルギッシュである。
 4仕事中毒である。
 5野心的である。
 5せっかちである。
 6傲慢である。
 7人使いに長けている。
 8計画を達成することができない。
 9競争に執着する。

 どうです?
 「人使いに長けている」はあとになりませんけど、「せっかちである」なんて笑えますよ。
 たしかにそうです。
 「計画を達成できない」という理由は、目移りしちゃうからですね。夢追い人だから、次から次へと夢が現れて、心を奪われる。ある意味、浮気性なんでしょうな。

 で、最初の頃は、「4人の中核メンバー」が必要になります。夢よりも現実的な対処のできるメンバーですね。
 すなわち、営業、経理、経営のプロ、ビジネスに関連するテクノロジーの専門家であること。

 ある程度、目鼻がたってくると、今度はドリームチームが必要になります。このメンバーは情熱と創造力に溢れ、とりわけ、チームワークを尊重する人でないとダメ。
 現実的対処ばかりしてると、新しい事業が隅に追いやられてしまいがちですものね。
 ドリームチームを社内に揃えることは、わたしは難しいと思いますよ。これは人脈や外部のコンサルなどを活用して、自分のプライベートスタッフとして取り込むべきでしょう。
 150円高。
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2 「ヒットの哲学」
 原正人著 日経BP社 1470円

 著者は映画のプロデューサー。ご多分に漏れず、ホームランも空振り三振も山ほど体験してますなぁ。
 けど、名作といわれる仕事をいくつもしている。これはスゴイと思います。

 だいたい、ホームラン王というのは、三振の数が多いものですよね。

 「失楽園」「戦場のメリークリスマス」「乱」「リング」「金融腐食列島」「雨あがる」「突入せよ! あさま山荘事件」・・・よく考えると、これ、わたし、すべて観てますね。
 基本的に外国映画のほうが好きなんだけど、リストを見てたらこの人の作品はかなり観てます。

 でも、いちばん好きなのは「瀬戸内少年野球団」かな。
 これ、三部作なんだけど、1作目が良かったと思います(2作目は知人、昔の部下の父親が監督したんですけどね。俊ちゃんと鷲尾いさ子さんの主演。3作目はどうもね)。
 この映画については、近々、メルマガ「いま、この人が最高に面白い! 中島孝志の感動!人間塾」の中でも紹介します。とにかく、ジープとチューインガム、野球、それに「イン・ザ・ムード」で夢を大きく膨らませてくれました。

 著者が映画界に入ったのは、昭和20年代の終わり。
 ちょうど、映画の全盛期ですね。映画館にはたくさんの人が押しかけ、千円札が段ボール箱に入りきらないで、足で踏みつけていた時代ですよ。プロ野球チームはもってた時ですね。
 たしか、1人平均年間13回は映画を観てた時代だと思いますよ(いま、1回だから、マーケットが縮小したことがよくわかります)。

 元々は政治的、芸術的にかなり強いメッセージをおくる独立プロで仕事してたんですね。ちょっと時代を読むのが早かったようで、メジャー映画の前であっという間に倒産。
 で、そんなとき、ある名古屋の資本家が外国映画の配給事業に乗り出すことになった。
 それがヘラルド映画です。

 ヘラルドと言えば、やっぱり、「エマニエル夫人」でしょうな。
 これ、私、高校一年の時に見ました。日比谷のみゆき座で。そう、帝国ホテルの隣にありますね。
 それにしても、映画館、混んでたなぁ。いまだに覚えてますよ。スカッシュを打つエマニエルと妙齢のご婦人。このご婦人、「スキャンダル」という映画でフランコ・ネロと共演してる人でしょ。
 まっ、大人に混じってませガキが観てんだから、いま考えると笑えます。

 ものすごくヒットしたそうで、ボーナスが20カ月分出たそうですよ。空前絶後の大ヒット。
 元々は小さな作品だった。けど、これをプロデューサーの力でヒットさせた。
 どうやって?
 そうです。女性を巻き込んだんです。テーマは女性の奔放な性、性の解放でしょ。だから、スチール宣伝も、たまにお笑いの人がやってるように、大きなゆりかご式の籐椅子にエマニエルが足を組んで座ってるきれいなきれいな写真。大人の女の雰囲気いっぱい。

 基本的にエロスたっぷりだから、話題にもなりました。で、世の女性陣は共感したんでしょうな。
 おかげで大ヒット。
 私、その後、エマニエル・アルサンの原作も読みました。

 名もない小品でも、時代にあったコンセプトとやり方で、マーケットにアピールすれば大ヒットに結びつくんです。
 つまり、時代を巻き込んでいく、時代を動かす。これがマーケティングの面白みであり、醍醐味ですな。

 たとえば、「太陽はひとりぼっち」。
 アラン・ドロンですね。私が好きな女優モニカ・ヴィッティ。
 これ、ものすごくアンニュイな作品で大好きなんですね。「ブーベの恋人」もそうだけど、グルーミィで、けだるい感覚が最高なわけ。フランス、イタリア映画特有の時間の流れが好きなんだろうね。

 で、元々、この映画のテーマ曲はツイストだからアップテンポなの。となると、映画とは合わないんです。
 で、この人、曲を変えちゃった。ブルース風にね。それで大ヒット。

 このやり方で「赤いランタン」というギリシャ映画も変えちゃう。これ、娼婦の恋愛がテーマなのよ。
 変えちゃうといっても、映画はすでにできてるから内容を変えるわけにはいきません。だから、音楽とか、タイトルとかね。
 まず音楽を変えちゃう。
 だれに変えさせたか。それが無名のギタリストであるクロード・チアリ。いま、日本に帰化しちゃったでしょ、あの人。
 タイトルも変えた。それが「夜霧のしのび逢い」という映画。
 映画も音楽も大ヒットしました。

 当時、著者は作品を見れば、売れるかどうか、どう売ればいいか、どうプロデュースすればいいか、そのポイントが瞬時にわかったといいます。
 この感覚、わたし、よくわかります。

 けど、こんなにヒットすることばかりではありません。
 失敗作もたくさんあります。

 たとえば、「乱」。これはもう真っ赤っかの赤字。とんでもない赤字。あまりのショックで、それからしばらく映画を作らなかったほど。


 いま、日本ではアメリカ型シネコンが流行ってます。
 データからいうと、2700(2003年現在)のスクリーン数のうち、6割がシネコンです。1つの施設でだいたい8スクリーンといったとこでしょうね。
 シネコンは極端な話、遊園地ですから、ヒットすれば同じ映画が何スクリーンも占めてしまいます。
 ハリポタがそうでしょ?
 観客にしても、みんなが観てる映画を観たい。だから、ヒットする映画としない映画の二極化現象が起こっちゃうわけ。

 たとえば、寺島しのぶさん主演の「赤目四十八瀧心中未遂」という映画がありました。日本の映画界の賞という賞を取りましたね。
 テレビの露出もめちゃくちゃ多かった。
 この映画、原作、読んだ時に、これは映画になると感じました。

 じゃ、ヒットしたか?
 映画館はガラガラでしたよ。

 なにしろ、封切ったのが2軒しかありません。
 東京の中野と横浜の黄金町の映画館。もちろん、わたしは黄金町で観たけど。
 二百数十人入る映画館に、観客は10人だけ。女性が6人。男はたったの4人。
 唖然、呆然、愕然(まっ、こんな場末の汚い映画館ではデートには不向きかもしれませんけど)。

 著者の大失敗は「乱」です。映画の質としてはものすごくいい仕事をしました。世界のクロサワと仕事ができたし、充実感もある。
 しかし、興行的に失敗しました。

 この映画での教訓は「監督とプロデューサーとの年齢差は上下10歳まで」。1つの作品を作る時に反発も萎縮もいけないからですね。
 プロデューサーはある時は監督と激論を戦わせてバトルを繰り広げる人間でなければいけないんですね。
 350円高。
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3 「子ども俳句170選」
 あらきみほ編著 中経出版 1300円

 子どもの発想って、すごいでしょ。
 以前、子どもの詩やコピーの素晴らしさを紹介したことがありますけど、こういう定型パターンの中でも溢れる才能というか、発想が浮き彫りになってますね。
 ただし、それほど多くはありませんでした。やっぱり、自由詩のほうがいいようです。

 私のテイストでは、以下の通り、

 「そらをとぶ バイクのような はちがくる」(小一)
 「1日を 捨てるぜいたく 夏休み」(中三)
 「サンタさん かくれてないで 出てきてよ」(小二)
 「はつ日ので やっとでてきた まっかっか」(小一)

 こんなもんかなぁ。

 番外編として二つ、ご紹介しましょう。

 「白髪の 最前列や 夏期講座」

 定年後になにか資格でもとるんでしょうかね。頑張って!

 「浴衣着て 少女の乳房 高からず」(高浜虚子)

 さすがですね、やっぱり。
 これ、好きな句です(ちょっとロリコンかな)。グラビア誌やテレビなどでいたずらに大きいことばかりが強調されてますけど、どうもね。スイカじゃあるまいし・・・。
 250円高。
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