2006年04月30日「黒い太陽」 新堂冬樹著 祥伝社 2205円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 どうも風俗遊びって、縁がないのよね。風俗業の顧問先はあんのにね。
 苦手というか、好きになれないっていうか。ほら、シャイで変に気取り屋だから、バカ騒ぎが苦手なのよ。キャバクラって、バカ騒ぎというイメージがあんじゃん?
 だから、1回も行ったことないの。行きたくもないし。

 だけど、編集者の中には好きなのがいてね。
 この前も、「中野にいいキャバクラ、見つけたんですよ。今度、ご案内します」って打ち合せの時にチラッと言うんだよね。
 ところが、こいつ、調子ばっかりよくって、「男と男の約束」を平気で破る。以来、なんの音沙汰もない。原稿の催促はこまめにするくせに、キャバクラの約束をすっかり忘れてるわけだ。

 この世でいちばん嫌いなのは小さな約束を守らない人。
 こう見えても、私は律儀でものすごく有名なんです(あまり知られてないけど)。町内会では、歩く「走れメロス!」と呼ばれてるくらいだもの。
 締切だってきちんと守ります! いや、守りたい。いや、守れば、守る時、守ろう、守れ(出版界ま行5段活用)。
 別にキャバクラなんて行きたくないよ。行きたくないけど、約束は大切だ。国と国との条約に等しい。

 「締切云々と文句を言う前に、人間としてもっと大切なことを忘れてないかな?」
 「?」
 「著者と編集者の間には、締切よりもっと大切な約束があるんだ」
 「それ、締切が1カ月も遅れてる言い訳ですか?」
 「そんなことを言ってるんじゃなぁぁい」
 「じゃ、なにを?」
 「胸に手を当てて考えてご覧なさい」
 「わかりません」
 「ヒント1 それは中野に関係があります。ヒント2 そこには可愛い女の子がうじゃうじゃいます」
 「わかった! 中野サンプラザ」
 「ブー!アホか! ヒント3 大船の先は?」
 「鎌倉」
 「ドイツ系アメリカ人の片言英語で言うと?」
 「ギャバグ〜ラ!」
 「濁っちゃいけない、人生は」
 「キャバク〜ラ」
 「ピンポーン」
 「先生、キャバクラ行きたかったんですか? それですねてたんですね」
 「見くびってはいけない。私はそんな男ではない」
 「キャバクラ、お嫌いですか?」
 「お好きです」 
 「素直に行きたいっていえばいいのに。歪んでるなぁ」

 てなわけで、今回の舞台は「キャバクラ」なのね。

 筆力ありまっせ。恋愛ものも書いてるけど、やっぱ人間の欲得のテーマを描かせたら、この著者は巧いねぇ。「無間地獄」「ろくでなし」「カリスマ」以来ですな。
 「無間地獄」なんてさ、Vシネで借りちゃったよ。けど、小説のほうがはるかによかったな。

 主人公は、植物人間となった親父の治療代のために高校中退で、夜の世界に飛び込んできた19歳の男(母親は若い男と逃げちゃった)。
 住み込みで雇ってもらった店は池袋にあった。正直で直情径行で生き方が下手で、けど、一本気で純粋で。
 そんな男に店のナンバー1の千鶴が惚れちゃった。

 経営するのは、都内でキャバクラ、イメクラ、抜きキャバなどを数十店舗も持つオーナー。
 これが千鶴とは幼馴染みなのね。で、千鶴に惚れてる。

 この主人公、千鶴にちょっかいを出したお客を殴って謹慎処分。けど、これきっかけで目をかけられる。
 「こいつは俺に似ている」
 この商売、やっぱ才能がものをいう。で、抜擢される。

 学歴、職歴関係なし。裸一貫、人間の迫力でのしていく風俗世界。
 この2人は千鶴の件で対立。片や、吹けば飛ぶようなガキ、片や風俗王。金、色、嫉妬、欲得、裏切り・・・人間の汚い部分をすべてさらけ出した戦争。
 勝負はとうについている。けど、一寸の虫にもやっぱ五分の魂というか、意地がある・・・。この喧嘩は見物だよ。

 普通の会社でマネジメントしてるのがいかに楽かがわかる。けど逆に言ったら、人間の欲得だけでマネジメントできる世界。
 要はどちらの世界が棲みやすいかで決まるね。水が合わないとさ、生き抜けないよ。200円高。