2006年05月02日「放送禁止落語大全」 快楽亭ブラック著 洋泉社 1785円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 いいのかね、ホントに紹介しちゃって。せっかくここまで築いた「ハマの舘ひろし」のイメージが一挙に崩れ落ちていきかねないリスクたっぷり・・・。
 まっ、いいか。世間はどうせゴールデン・ウィークだしぃ。
 「ハマの舘ひろし」がダメなら、「ハマの猫ひろし」もあるしな。
 
 快楽亭ブラック−−皇室ネタ、宗教ネタ、下ネタに古典のパロディ。この噺家にタブーはないんでしょうな。
 テレビもラジオも放送禁止。上野本牧亭、いまはなき寄席若竹(円楽さんのとこ)、新宿アイランドホール、浅草健康ランド寄席で続々と出入り禁止。
 競馬にのめりこんで2000万円の借金。サラ金、街金はおろか、弟子からも借りて、とうとう立川流を除名。破門にならなかったのは談志師匠の温情だね。
 アパート代が払えなくて、弟子のところに転がり込んじゃった。これ、内弟子ならぬ内師匠っていうの。
 だけど、奥さんから破門されちゃった(離婚つうこと)。

 けど、ものすごくシンパシィを感じますな。
 私も息子に多額の借金があるんだもんね。彼はお年玉たっぷり、毎月、小遣いもらって、衣食住には不自由しない。私なんかよりずっと可処分所得が多いわけ。
 で、いま、私はリボルビング払いで返しております。
 私の顔を見るたびに、「年利30%でよければもう少し融通しようか?」だと。
 ばか者! その原資はすべて、私の財布の中にあったものだぞ! いわば、この私が金主じゃないか? 「ミナミの帝王」では金主がいちばん偉いんだ。沢木の親分より偉いんだぞ。
 それがなんだ! 今後、制限利息法をより厳格に適用することを政府に強く望みたいと思います。

 参考までに、初代のブラックも大変な人だった。最後は借金でクビが回らなかったんだけど、本名ヘンリー・ジェイムズ・ブラック。日本名石井貎刺屈(ぶらっく)。イギリス国籍、オーストラリア生まれ。
 
 さて、2代目の快楽亭ブラック師匠は東京生まれ。父がアメリカ人、母が日本人のハーフ。談志師匠に弟子入りし、前座名は立川ワシントン。この時はもっと痩せてた。
 その後、桂三枝門下に異動。桂三Qと改名。で、また談志門下に転勤。その後、覚えてるだけで立川レーガン、立川レフチェンコといくつも改名。 
 出世魚か? ぶりか? とどか? 欧米か?(関係ないか) 
 そして、2代目快楽亭ブラックを襲名。
 
 さてと、この本、放送禁止用語の連発なのね。いきなり、帯コピーが「一発のオマ○コ」だもの。この○にはどんな文字を入れたらいいんだろうね?
 そう言えば、小学生の時、修学旅行のバスの中でクイズ出したことがあったのよ。「オ○ナのマン○」の○に何を入れたらいいでしょう?ってヤツ。正解はもちろん、「オトナのマンガ」だよ。けっ、担任が引っかかって、女子に総スカン喰らってた。

 本書に掲載されてるのは、すべてブラック師匠の創作落語のオンパレード。
 創作というよりパロディ。しかも、全編下ネタ。
 「イメクラ5人廻し(5人廻し)」「文七ぶっとい(文七元結い)」「川柳の芝浜(芝浜)」・・・その他たくさん。

 帯コピーにある「一発のオマ○コ」を少し紹介しときましょうか?(したくないけど)

 大晦日、いくら好き者が多いススキノでも、もう間もなく除夜の鐘がなろうという頃に・・・店長がトルコ嬢あがりのママに向かって、
 「おい、今日は大晦日だ。もう客はこねぇだろ」
 「そうだね、おまえさん。もう看板引っ込めようか」
 「女の子に年越しそば振る舞ってやれ」
 ママが看板を片づけようとしたその時、
 「あのォ・・・まだ、よろしいでしょうか」
 「あっ、はいはい、まだ営業時間中でございますから・・・」

 ふと見ると、40過ぎの年の割には頭が真っ白になった冴えないよれよれのコートを着て、人生に疲れ果てた中年男と、その子供でしょう。詰襟の学生服を着た中学生くらいの男の子。そして弟でしょう。寒空に半分しかないコートを着た、半ズボンのいかにも寒そうな貧しそうな男の子。

 「3人で一発のオマ○コなんですが、よろしいでしょうか」
 「あっ、はいはい、どうぞどうぞ。おまえさん、オマ○コ一丁」
 「あいよ、オマ○コ一丁」
 「あの・・・先にお金を払わせて頂きます。おいくら・・・」
 「えっ、あの1万5千円です」
 「ホントに3人で一発のオマ○コ・・・」
 「結構でございますよ」
 「あ、ありがとうございます」

 「おまえさん、変なお客だねえ。大晦日に親子3人で。しかも3人で一発のオマ○コだなんて、初めてだよ」
 「一家心中だな」
 「ええ!」
 (中略−−この辺で止めといたほうが、ハマの舘ひろしのイメージが崩れないでいいかもね)
 
 ドアを開けるなり、イブちゃんが三つ指ついて迎えます。
 「おにいちゃん。おばちゃんのお尻の穴、きつくって、なんかおチンチンちぎられちゃいそう。だけど、だけど気持ちいい。おにいちゃんは?」
 「うん、おねえちゃんのおクチ、とっても気持ちよくって、なんか出ちゃいそう。お父さんは?」
 「あぁ、久しぶりのオマ○コだからとっても気持ちいいよ」
 
 「また、来年も北海亭でオマ○コできるといいね」
 「ああ、そうだな」
 口々にそういいながら、店を出る。その3人の親子の後ろ姿に店長とママが1年を締めくくるように声をかけます。
 「ありがとうございました。どうぞよいお年を」
 やがて、除夜の鐘がススキノに鳴り響きまして、年が改まります。
 (中略)

 一年が過ぎ、また大晦日を迎えます。5千円値上げした北海亭が、元の1万5千円の看板を引っ張り出します。あの親子3人が来られなくなったら気の毒だ、と。
 しばらくすると、 
 「あのォ、まだやっておりますでしょうか」
 「はいはい、お待ちしてたんでございますよ」
 「今年もまた、3人で一発のオマ○コなんですが・・・」
 「はいはい、よろしゅうございます。おまえさん、オマ○コ一丁」
 「アイヨ、オマ○コ一丁」
  
 なんと哀しく切ないファンタジーではありませんか。この後、物語は展開につく展開。感動的なラストを迎えます。
 ご存じ、「一杯のかけそば」のパロディ。ゴメン、この感動を伝えるには紙面が足りない。あとは落語を聴くか、本書を読んでね。300円高。