2004年06月07日「自分の仕事をつくる」「深追い」「中陰の花」
1 「自分の仕事をつくる」
西村佳哲著 晶文社 1995円
いろんなモノ作りをしている人たちの働く現場を突撃取材して、まとめた一冊。
たとえば、働き方が違うから結果もちがう。八木保さんをサンフランシスコに訪ねる。
象設計集団を北海道・帯広に訪ねる。柳宗理さんを東京・四谷に訪ねる。IDEOのデニス・ボイルさんをパロアルトに訪ねる。
他人事の仕事と「自分の仕事」。植田義則さんのサーフボードづくりを訪ねる。甲田幹夫さんのパンづくりを訪ねる。
ヨーガン・レールさんのモノづくりを訪ねる。馬場浩史さんの場づくりを訪ねる。
といった具合。
「僕にとって」オフィスとは、考える場所じゃなくて、作業をする場所。だから、イスに座っている時間はほとんどないんじゃないかな」
「デザイナーに問われるのは、技術よりもセンスの問題になるだろう」
「図面化」はしますけど、最初はともかく、こんなふうにいろんな模型を作ってみて、これでいいかんとか悪いかなとかやる」
「みんな何かを隠しているけど、ちょっとした行為からそれがパッとバレちゃう瞬間ってあるじゃないですか」
「人は気持ちよく働いている時に成果を出す」
「人の役に立っている。貢献していることが最高のモチベーションになっている」
クリエイティブな仕事をしている人の言葉は面白いね。
150円高。
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2 「深追い」
横山秀夫著 実業之日本社 1700円
警察官を主人公にした七話。
「深追い」は主人公と小中学生時代に同級生だった女性のご主人が事故で亡くなります。
その日以来、時々、ポケベルにメッセージが入る。しかも、毎度、夕食の献立のメッセージ。
これが何を意味するのか。
女性は元々、オフィスで不倫関係にあり、死んだ男は上司の子供と承知で結婚した。しかし、生まれてみると、幼児虐待を止められない・・・。
「又聞き」は、小学二年生の時に海で溺れた主人公。自分の命を犠牲にして助けてくれた大学生。いま、主人公は警察の鑑識勤務。
そして、毎年、命日にはその家を泊まりがけで訪れている。
あの時、二人の大学生が助けてくれた。亡くなった学生の彼女も一緒だった。そして亡くなった後、すぐに新聞には写真が掲載された。
その写真はだれが用意したのか。自分の事件にけりをつけるため、当時の事故に向き合って真実を追及すると・・・
泥棒には各自、いろんな手口があるが、有名な通称「岩政」が刑務所内で若い泥棒に自分のノウハウを伝授する。それが一波乱起こす「引継ぎ」。
同期入社で昇進はトップを競っていた二人。しかし、主人公はいまや、勝負がついて、ひなびた警察署勤務で、定年退職者の第二の職場確保に勤しんでいる。
だが、その彼にかつてのライバルが本部復帰の話をもってくる。
それは最近、キャリアの若い捜査二課長が女のマンションに出入りしている。その事実を突き止め、女と別れさせること。そして、上司の娘と結婚させること。はたして、うまくいくのか。「訳あり」という小説。
「締め出し」「仕返し」「人ごと」も優れた小品。相変わらずの警察ワールド。
250円高。
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3 「中陰の花」
玄侑宗久著 文藝春秋 1238円
著者は27歳で出家し、京都の天龍寺専門道場で修行。臨済宗妙心寺派、福聚寺の副住職です。
で、この作品で芥川賞を受賞したということです。
わたし、どういうわけか、禅宗の人とご縁があるようで、主宰するキーマンネットワークという勉強会では、以前、やはり妙心寺派674世法灯である河野大通老師をお招きしたことがあります。
また、わたし自身、性懲りもなく道元に関する著書まで出してますが、駒沢大学の学長に道元企画をプロデュースしたり、禅宗とはいろいろご縁があるようです。そういえば、うち、曹洞宗の檀家でした。
親父が日蓮宗で、お袋が曹洞宗で、家内は敬虔なクリスチャン。わたしは大学院の学長から洗礼を受けろとしつこく言われてますが、まっ、どうなることやら。
主人公は禅宗の住職。「おがみや」のウメという老婆の臨終を通じて、妻との会話がずっと続いていきます。
死とは何か、生とは何か。
何よりも自分たちの子供が流産した。妻が一人、菩提を弔っている。ウメに子供が生まれるかどうか、妻は予知してもらっていたのです。
「人は死んだらどうなるの?」
「たとえば、コップの水が蒸発する。そうすると、水蒸気はしばらくはこのへんにあるやろ」
「それが中有とか中陰と呼ばれる状態」
「つまり、あの世とこの世の中間ってこと」
「仏教での極楽浄土ってのは十万億土の彼方にあるっていうんだけどね、その距離を計算した人がいるんだ。それでその距離を49日かかって行きつく場合、どのくらいのスピードで行けば着けるのか、ってね」
「ほんま?」
「秒速三十万キロ」
「え」
「つまり、光や電気と同じ速さ。一秒間に地球を七回り半だよ」
死んでも、真下に自分の身体を見ながら、あの身体にもう一度戻りたい、そう思っているんだそうです。死の瞬間というのは、苦しくはないんだそうですね。脳に組み込まれた防衛機能なんでしょうね。
でも、だから本人も死んだという自覚がなかなかもてないんですね。
「いいですか、霊っていうのは、なにか気になりだしたら何をしててもそのことをじいいっと気にしてるような頭が好きなんです。住みやすいんです。バッパッと切り替わっちゃう頭は嫌いなんです。住みにくいんです」
主人公は妻と二人、夜中に本堂で供養をはじめます。
「成仏やなぁ」
「だれの?」
「だれやしらんけど」
150円高。
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