2006年06月11日「質屋の経済学」 服部正和著 アーティストハウス 1365円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 質屋っていったことあります?
 私、残念ながら、一度も利用したことないんです。ブランド品にも、興味、ぜんぜんないからね。質屋の店先でウィンドウショッピングもしないもの。

 質屋って、ものすごくブランド品、売ってるんですよね。テレビでよくやってます。
 ここ、よくテレビで紹介されてますものね。

 質屋って、鎌倉時代からあるらしいよ。ものすごいビジネスモデル。絶対に損しないようにできてるの。
 だから、地方にも必ずある。けど、どんどん無くなってます。儲かるけど、質屋なんてつまらないからね。魅力ないでしょ?
 
 けど、この社長は違うの。法政二高時代に父親の経営してた会社がパンク。それに、卒業パーティのチケットを中学生にも売ってたらしく、卒業取り消し。すんなり経営学部に進学する予定が、パー。
 「ちょうどいいや」ってんで、旅行会社に就職。けど、きつそうなんで入社せずに辞めちゃう。
 自分がやりたいことってなんだろう? 上流のファッションを肌に感じながら仕事すること。てなわけで、銀座のファッション店に勤務。ブランド品、貴金属を扱ってたんだけど、途中で会社が方針転換。洋服一本になっちゃった。
 そんな時に質屋の大手チェーン店がオープンすると聞き、この業界に飛び込むわけですよ。

雑用ばかりの毎日だけど、仕入れのノウハウを覚えたくて、勝手に二階の買取カウンターのそばに来る。どうせ忙しいから、ここでも、おい、手伝えと言われちゃう。懸命にノウハウを盗んで、あっという間に昇進。50人くらい抜いちゃうわけ。
 で、店長になって1年後に独立。なんと、27歳ですよ。
 店名は「銀蔵」。新宿にあんだけど、聞いたことあんじゃない?

 質屋って、どんなビジネスか?
 金融機関は、まず、相手の支払い能力を調べ、信用という形のないものに対してお金を融資します。けど、質屋は担保をとり、その担保に見合うお金を融資する。とってもシンプルなんです。
 質草という担保をとってるから貸し倒れリスクもありません。もし、貸し倒れたら、質草を売ればいいわけだもんね。でもって、これが売れるんだな。自分の店で売ってもいいし、オークションに出してもいい。つまり、質草はたんなる在庫ではなく、販売利益を見込める商品なのよ。
 さて、質屋は明治28年に「質屋取締法」が制定されます。目的は盗品ですね。盗品が持ち込まれることて、いまだに悩みのタネなのね。だって、盗品は無条件で没収ですよ。まるっぽ、質屋も損しちゃうわけ。

 新宿にはいま、質屋が10軒、ディスカウントショップを入れると30軒あります。昭和,30年代には全国に2万軒以上あったの。れがいま、3995軒。こんだけ優れたビジネスモデルを持つ質屋業が斜陽化してんのね。
 原因? 高度経済成長でみな、裕福になった。国民所得が向上したもの。アイフル、武富士、プロミスとかの消費者金融、サラ金が普及した。それに閉鎖的な業界だから。なんかフリーメイソンみたいじゃん。暗いしさ。だれも継ぎたくないんじゃないか、こんな仕事。

ところで、質屋の利息って、知ってる? なんと1日0.3%。つまり、月9%になります。
 これって、ものすごく大きいんだよ。けど、こんな高い利息、新宿ではとれません。銀蔵ではさらに安くしてます。
 それでも儲かります。たとえば、月4%の利息としましょう。これを1年間払い続けると、48%。2年では? そう、96%です。つまり、元金とほとんど同じでしょ。だから、質屋って、利息だけで大儲けなのよ。
 また、質屋のメリットは粗利が高いところ。
 たとえば、100万円の出来高を作るには、本屋さんだといったい何冊売らなくちゃいけないか? 質屋だと、質草が高いからあっという間。効率がいいんだよ。
 黙ってても儲かる業界だから、資産家が増える。資産家だから、そんなに目の色を変えて仕事しない。営業努力しない。だから、改善とか進化という言葉とは無縁の業界だったのね。
 銀蔵はそこを大転換したんだよ。おかげで、右肩上がりの経営状態。買取価格15億円。年商20億円。

 「最終的に生き残れる質屋は3社くらい」と著者は言います。
 外資系がドカーンと来たら、こんな業界、一掃されますよ。だから、その前に勝てる準備をしておきたいんだ、と。

 銀蔵が急成長できる理由は、従来の質屋と中身を変えたからです。
 お金に困って裏口から来るというスタイルではなく、応接室もドンと用意し、明るく入りやすい店にした。高く預かり、安く売る。粗利でいうと業界平均27%のところを15%くらいに押さえてる。
 けど、お客さんの口コミで広がる。「あそこ、高く預かるよ」と言えば、みな、なだれ込むものね。280円高。