2006年06月12日「明日の記憶」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
そうか、エリザベス・キュープラー・ロスか。
死を宣告された時、あなただったらどんな反応を示しますか?
「よりによって、どうしてこの私なの? どうして、どうしてなんだ・・・」「ふざけんじゃない!」「嫌だ、なんでもするから勘弁してくれ」
「ちぇ、こうなったらなんでもやってやる。みな、道連れだ」
「あと1月か・・・じたばたしてもしょうがないな」
「考えてみれば、いい人生だった。いまのうちに世話になった人たちに礼を述べて歩こうか」
驚き、悲嘆、否定、拒絶、自暴自棄、虚無・・そして内省、感謝、受容へと目まぐるしく心は移ろっていきます。ロスは臨死体験、死の淵にいる子どもたちを徹底ヒアリングして、それをまとめました。
もしかすると、アルツハイマー病も「記憶(経験知、思い出?)の死」という意味では、これと同じ反応を示すのではないでしょうか。
最初に言っとくけど、この映画、観てない人は読まないでね。ネタバレだから。
渡辺謙さん演じる主人公の佐伯は、バリバリの広告代理店の部長職。
「ビシッといこう!」が合い言葉。49歳の熱い男。
ところが、ある時、人の名前がなかなか出てこない。
「あれあれ、あの映画スター、なんていったかなぁ。ほら、船が沈んじゃう映画あっただろ?」
「デカプリオ?」
「そうだよ、それそれ」
そのうち、得意先とのアポもすっぽかしてしまいます。部長会にも出席しない。
通い慣れた得意先への道順もわからくなっちゃう。買い物にいけば、同じものを何度も買ってしまう。
「あなた、念のために病院で診てもらいましょうよ」
「アルツハイマー病で間違いない、と思います」
医師からの宣告。「記憶の死」という宣告ですね。
記憶を失う時、人は会社はもちろん、社会からも断絶されてしまいます。、
なぜなら、いままで積み上げてきた経験やスキル、ノウハウがなんの意味も持たなくなるのですから。人脈だってそうです。
「あなた、だれ?」
家族を見ても覚えていないだもの。
その覚えていない家族が、彼のために親身に介護します。
その肉体的、精神的負担は想像を絶するものがありますよね。「乱暴、言葉の暴力もすべて病気がさせること」と頭では理解できますよ。けど、限界があります。やっぱり生身の人間ですからね。
「いっそ死んでくれたら」と思うかもしれませんね。いや、瞬間、だれもがそう考えると思いますね。
けど、すぐに打ち消す。
「生きていてくれるだけでありがたい」
「そこにいるだけでいい」
こう思わせるものって、なんなんでしょうか? その人との良き想い出・・・ではないでしょうか。人って、過去の想い出を貴重な財産として生きているんです。
けど、アルツハイマー病はこの財産が片っ端から消えてなくなる病気なんです。
たしかに生死は隣り合わせです。「死はついで(順番)を待たず」とは兼好法師の言葉です。元気な人にとって、死など遠い先のこと。視野にも入ってませんよね。
けど、死を直前にした人、カウントしている人はいつも死を見つめて1日を生きざるをえません。時間の密度が違います。主人公も、家族も時間が愛おしかったにちがいありません。
記憶=想い出貯金を無くすことって、悪いことばかりではありません。
というのも、記憶を無くすという意味は、脳のOSがいつも初期化されるということでしょ?
ある時、夫が消えます。心配した妻はあの山に行ったのではないか、とピンと来ます。2人の想い出がたくさん詰まった釜元のある山。
登っていると、向こうから歩いてくる夫を見つけます。
「こんにちは」
「・・・」
「ボク、佐伯と言います。これから駅までいきますけど、よかったら」
「・・・」
「お名前は?」
「・・・枝実子と言います。枝が実る子と書きます」
「枝実子さん。いいお名前ですね」
古女房と会ってもいつも初対面。いつも新鮮な目で見られる、ってわけです。過去の記憶はなくなろうとも、明日の記憶は作れる。
意外だけど、渡辺謙さんにとって、デビュー22年で初主演映画なんですね。
原作を読んだ時、「絶対これをやるべきだ、と燃えました」と述べてます。もち、初プロデュース作品。白血病で倒れてから、彼は2度目の人生を歩んで来ました。記憶をなくし、第2の人生を歩まざるをえない主人公に強く共感を覚えたのかもしれませんね。
計算尽くに生きるより、こういう何かに突き動かされる人って好きですね。やむにやまれぬって生き方。意外と運命の女神も応援してくれたりするんですよね。
なぜなら、そこには私心がないから。直感の世界には私心が入り込めないんですよね。
すごくいい映画です。
原作は荻原浩さん。監督は『トリック』『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』の堤幸彦さん。
どうでもいいんだけど、最近立て続けに観た3本の映画「嫌われ松子」「花よりも」、それにこれ。香川照之さんがぜーんぶ出てんだよね。あの人、脇役の帝王かも。
「ケンさん」といえば、いまや渡辺謙さん。樋口加南子さんて存在感のある女優だね。
実は、アポとアポの間にぽっかり空いた時間をつぶすために軽〜い気持ちで映画館に入ったの。
で、やってたのがこの映画。でも、アポがあるから途中で出なくちゃいけない。「おいおい、これ、いいぞ。もう1度観なくちゃ」って、結局、2日に分けて観た映画なのね。
35〜50代の超多忙なビジネスパースンには必見の映画だと思うよ。絶対に観てね。スクリーンで観たほうが100倍楽しめるよ。
死を宣告された時、あなただったらどんな反応を示しますか?
「よりによって、どうしてこの私なの? どうして、どうしてなんだ・・・」「ふざけんじゃない!」「嫌だ、なんでもするから勘弁してくれ」
「ちぇ、こうなったらなんでもやってやる。みな、道連れだ」
「あと1月か・・・じたばたしてもしょうがないな」
「考えてみれば、いい人生だった。いまのうちに世話になった人たちに礼を述べて歩こうか」
驚き、悲嘆、否定、拒絶、自暴自棄、虚無・・そして内省、感謝、受容へと目まぐるしく心は移ろっていきます。ロスは臨死体験、死の淵にいる子どもたちを徹底ヒアリングして、それをまとめました。
もしかすると、アルツハイマー病も「記憶(経験知、思い出?)の死」という意味では、これと同じ反応を示すのではないでしょうか。
最初に言っとくけど、この映画、観てない人は読まないでね。ネタバレだから。
渡辺謙さん演じる主人公の佐伯は、バリバリの広告代理店の部長職。
「ビシッといこう!」が合い言葉。49歳の熱い男。
ところが、ある時、人の名前がなかなか出てこない。
「あれあれ、あの映画スター、なんていったかなぁ。ほら、船が沈んじゃう映画あっただろ?」
「デカプリオ?」
「そうだよ、それそれ」
そのうち、得意先とのアポもすっぽかしてしまいます。部長会にも出席しない。
通い慣れた得意先への道順もわからくなっちゃう。買い物にいけば、同じものを何度も買ってしまう。
「あなた、念のために病院で診てもらいましょうよ」
「アルツハイマー病で間違いない、と思います」
医師からの宣告。「記憶の死」という宣告ですね。
記憶を失う時、人は会社はもちろん、社会からも断絶されてしまいます。、
なぜなら、いままで積み上げてきた経験やスキル、ノウハウがなんの意味も持たなくなるのですから。人脈だってそうです。
「あなた、だれ?」
家族を見ても覚えていないだもの。
その覚えていない家族が、彼のために親身に介護します。
その肉体的、精神的負担は想像を絶するものがありますよね。「乱暴、言葉の暴力もすべて病気がさせること」と頭では理解できますよ。けど、限界があります。やっぱり生身の人間ですからね。
「いっそ死んでくれたら」と思うかもしれませんね。いや、瞬間、だれもがそう考えると思いますね。
けど、すぐに打ち消す。
「生きていてくれるだけでありがたい」
「そこにいるだけでいい」
こう思わせるものって、なんなんでしょうか? その人との良き想い出・・・ではないでしょうか。人って、過去の想い出を貴重な財産として生きているんです。
けど、アルツハイマー病はこの財産が片っ端から消えてなくなる病気なんです。
たしかに生死は隣り合わせです。「死はついで(順番)を待たず」とは兼好法師の言葉です。元気な人にとって、死など遠い先のこと。視野にも入ってませんよね。
けど、死を直前にした人、カウントしている人はいつも死を見つめて1日を生きざるをえません。時間の密度が違います。主人公も、家族も時間が愛おしかったにちがいありません。
記憶=想い出貯金を無くすことって、悪いことばかりではありません。
というのも、記憶を無くすという意味は、脳のOSがいつも初期化されるということでしょ?
ある時、夫が消えます。心配した妻はあの山に行ったのではないか、とピンと来ます。2人の想い出がたくさん詰まった釜元のある山。
登っていると、向こうから歩いてくる夫を見つけます。
「こんにちは」
「・・・」
「ボク、佐伯と言います。これから駅までいきますけど、よかったら」
「・・・」
「お名前は?」
「・・・枝実子と言います。枝が実る子と書きます」
「枝実子さん。いいお名前ですね」
古女房と会ってもいつも初対面。いつも新鮮な目で見られる、ってわけです。過去の記憶はなくなろうとも、明日の記憶は作れる。
意外だけど、渡辺謙さんにとって、デビュー22年で初主演映画なんですね。
原作を読んだ時、「絶対これをやるべきだ、と燃えました」と述べてます。もち、初プロデュース作品。白血病で倒れてから、彼は2度目の人生を歩んで来ました。記憶をなくし、第2の人生を歩まざるをえない主人公に強く共感を覚えたのかもしれませんね。
計算尽くに生きるより、こういう何かに突き動かされる人って好きですね。やむにやまれぬって生き方。意外と運命の女神も応援してくれたりするんですよね。
なぜなら、そこには私心がないから。直感の世界には私心が入り込めないんですよね。
すごくいい映画です。
原作は荻原浩さん。監督は『トリック』『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』の堤幸彦さん。
どうでもいいんだけど、最近立て続けに観た3本の映画「嫌われ松子」「花よりも」、それにこれ。香川照之さんがぜーんぶ出てんだよね。あの人、脇役の帝王かも。
「ケンさん」といえば、いまや渡辺謙さん。樋口加南子さんて存在感のある女優だね。
実は、アポとアポの間にぽっかり空いた時間をつぶすために軽〜い気持ちで映画館に入ったの。
で、やってたのがこの映画。でも、アポがあるから途中で出なくちゃいけない。「おいおい、これ、いいぞ。もう1度観なくちゃ」って、結局、2日に分けて観た映画なのね。
35〜50代の超多忙なビジネスパースンには必見の映画だと思うよ。絶対に観てね。スクリーンで観たほうが100倍楽しめるよ。