2004年04月19日「仕事常識」「言葉はいつも思いに足りない」「動機」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「仕事常識」
 日本経済新聞社編 日本経済新聞 1200円

 仕事中にケータイ・メールを打ってる社員を注意したら、しょっちゅう、トイレ休憩をとるようになった、という。
 もちろん、トイレでピコピコやってわけよ。
 こんな「ヒジョーシキ」なビジネスパースンばかり増えたんで、きちんと教育というか、これはいい、これは反則だよという情報を与えよう。これが日経新聞土曜版として連載された「新・オトナの学校」というわけです。

 いきなり、茶髪はどこまで許されるか、という問題提起。
 そこは日経の記者たちが取材しまくってるから、各企業の考え方を整理してます。
 たとえば、ソニーだと「自由。現実に茶髪の社員、いますよ」。
 銀行だと「お客様になんでもいい、と受け取られると困る」ということで一定の制約を設けてるみたい。まっ、記者にはそう言ってるけど、現場では支店長や次長がガンガン言ってると思う(というより、銀行員で茶髪のために注意されるへまをするヤツ、いるかなぁ。ここ、典型的な減点主義だもの)。

 「よろしかったでしょうか」というファミレス言葉もやり玉に挙がってます。
 いまなら、「こちら、パスタのほうになります」。これも変だよね。これ、聞くね。

 ほかにも「英文メール」「英語力」「3分トーク」とか、お題はたくさんあります。
 この企画、どうも他人事には思えなかったんけど、「プレゼンテーション」という項目を読んで合点がいきました。わたしもインタビュー受けてたんですね。
 極めて、いい加減なこと話してます(ごめん!)。本にするって知ってたら、ちゃんと話したのに(んなわけないけど)。
 150円高。
購入はこちら



2 「言葉はいつも思いに足りない」
 鴻上尚史著 扶桑社 1200円

この人の本、すべて読んでます。ていうか、脚本家の本はたいてい読んでますね。
 だって、好きなんだもの。

 小柳ルミ子さんと対談した時。こんなこと聞いたんですって。彼女が初体験でエクスタシーを感じたというからね。
 「セックスにとって、いちばん大切なものはなんですか?」
 しばらくじっと考えてひと言。
 「集中力!」
 感動的なひと言です。

 俳優のオーディションをすると、いつも感じることが一つ。
 依然として女性はしっかりしてる。それに引き替え、男は頼りなさげ。どういうわけ?
 「そうですよ。音楽業界でも、デビューするアーティスト、女声はみんなソロ。男はみんなグループ。グループでデビューしてグループで盛り上がる。芯の強さが違うんですよ」
 ソロデビューする女性はシンガー・ソング・ライターだったりして、自分の世界をもっている。強さばかりか、芯の太さもあるってわけ。

 「うちの子どもは塾ばかりじゃなくて、水泳もサッカー教室とか、いろいろ行かせてますから大丈夫」っいってる親が多いね。
 けど、「いい加減な時間」って大切なんじゃないの?
 オレだって、一杯飲み屋に通ってる時間がいちばんホッとするもの。アポがしっかり入ってる呑み会と違って、ハプニングもあるしさ。
 いってみれば、「可能性の時間」というか、「大化けする時間」だと思うよ。
 「では、7時15分から9時20分まで一次会で盛り上がってください。で、9時30分から10時30分まで二次会を○○で行います。それから5分後に○○にて三次会へと突入。その後、最終電車に間に合うように11時25分にお開きとなりますので、宜しくご協力ください」
 最初から終わりまで管理されてちゃ、刑務所の自由時間みたいだよ(まだ入ったことないけどさ)。
 200円高。
購入はこちら



3 「動機」
 横山秀夫著 文藝春秋 476円

 映画「半落ち」の横山さんですね。
 以前、「いま、はまってます」と書いたとおり、猛烈な勢いで読んでます。
 いいね、いい。

 これは四つの小説が収められてるけど、いちばん良かったのは「逆転の夏」かな。それから「密室の人」。で、「動機」「ネタ元」と続きます。

 横浜には放送文化ライブラリーってのがあります。ここ、よく行くんです。というのも、一階にオーストリア料理の「アルテリーベ」という店があるからです。ハマっ子にはちょっと知られた店で、だいたい彼女とデートする時、ここ使いましたというような慶應生は少なくないと思いますよ。
 で、ここにはテレビドラマのフィルムがたくさん収められてまして、一日中、見られるんですね。
 「あのドラマ、良かったよなぁ。もう一度、見たいよなぁ」
 こういう場合、ここに行くわけです。

 てなわけで、この小説の中でも「逆転の夏」「動機」はすでにドラマ化されてます。主演はそれぞれ佐藤浩市さん、上川隆也(白い巨塔の清貧弁護士役でしたね)さんです。

 小説の中身をばらすことがどれだけ野暮なことか知ってますんで、読んでみたい人はここからは無視してください。

 「逆転の夏」は十年前に女子高生を殺し、いま、葬祭屋に勤務している男の元に電話がかかってくるところから展開していきます。
 「あなたなら、わたしの気持ちをわかってもらえると思って・・・。殺してやりたい人間がいるんです」
 嘱託殺人の依頼、しかも完全犯罪の提案。

 依頼主は、女子高生と援交し、それをネタにゆすられているという。隠しビデオカメラに撮られてしまい、一本百万円で買えと言われる。全部で十本もある。額はどんどんエスカレートしていく。破産するしかない。
 最初は断っていたものの、現実問題として、離婚した奥さんへの仕送りもせっぱ詰まっている。
 なにより、殺人を冒した男の気持ちがよくわかるというのだ。

 とんだ依頼を引き受けることになる男は十年前にひょんなきっかけで女子高生と知り合う。
 雨の日のことだ。そのまま、ホテルについてきた。ことが終わったら豹変。
 「2万円ぽっちで女子高生抱けると思うなよ。金、出しな!」
 「出さないと、みんなに言うよ」
 女は雨の中、電話ボックスに走っていく。追いかけていく。傘でボックスを叩く。それが女に刺さる。
 殺す気などなかった。
 しかし、男は裁判で負ける。
 「あの女、もう一度、殺してやりたい」
 「オレのほうが被害者だ」

 依頼主はこのオレの気持ちがわかるというのか?
 さて、どうする?

 「動機」は、警察署でいきなり三十冊の手帳が紛失するという事件が発生します。
 これには刑事部と警備部との確執が背後には隠れている、という問題がありました。
 主人公は刑事部と対立して、「一括保管」を主張した人物。面子丸つぶれ。
 「内部犯行に決まっている!」
 犯人を追いかけます。記者発表まで猶予は数日間しかありません。犯人は意外な人物でした。
 「いったい、動機は?」
 「動機なんてあるのか?」
 動機は意外なものだったのです。

 「密室の人」とは裁判官のことですよ。
 美貌の後妻を迎えた裁判官が公判中にうとうととまどろんでしまい、困ったことに、奥さんの名前を寝言で呟いてしまったんです。
 これがとなりの陪席裁判官のみんらず、被告側弁護士や傍聴席の記者にまで聞かれてしまうわけ。

 「記者がコラムに書くと言ってるぞ。どうにかしろ!」と地裁所長に怒鳴られる。
 記者に会いに行くけれども、さて、どうなるか?
 250円高。購入はこちら