2006年07月11日「世田谷一家殺人事件」 斎藤寅著 草思社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 ワールドカップが終わりましたね。イタリア−フランス戦はフランス健闘の後、PK合戦でイタリアの勝ち。
 まさか、引退ゲームでジダンがパッチギを見せてくれるとは思いもしませんでした。

 さて、通勤快読です。

 すべてはここから始まっているような気がするね。しかも、いまだに未解決。
 警察捜査の弱点が凝縮された事件といえば事件。

 動機はなにか? この極悪非道の惨殺ぶりは怨恨か? 山ほど残された指紋と物証で簡単に解決か?
 警察の常識が次々に覆されていく。

 それが「世田谷一家殺害事件」でした。
 
 時は00年12月30日午後11時30分頃から翌未明にかけて。場所は東京都世田谷区上祖師谷3丁目の会社員宅。内容は、長女(8歳)、長男(6歳)を含む一家4人の惨殺。
 発見者は隣に住む義母。

 「どうしてうちだけがこんな目に遭わなければいけないのか・・・」
 鬼の言葉に揺り動かされ、著者は独自捜査を進めます。警察関係者は一笑にふすけれども、警察という組織の弱点をカバーするものです。

 この5年あまりの間、警察の捜査はそれこそダッチロールの連続。
?容疑者の似顔絵を公開。身長175〜180センチ位、年齢25〜35歳位、やせ形、髪は少し長め、黒っぽいジャンパー、黒っぽいズボンの男、
?事件前日に同じタイプの柳刃包丁を吉祥寺のスーパーで購入。
?2005年7月31日 - 犯人像を「事件当時、京王線沿線に住んでいた若者(当時15歳以上)」に絞り込む。
?韓国警察当局の捜査協力の結果、「犯人が韓国で育った人間でない」と断定。犯人が残したのトレーナーは都内で4店舗のみで10着しか売られていなかった。
?怨恨ではなく金銭目的の犯行という見方を強め、犯人像を「当時一人暮らしで、金に困っていた18歳から35歳の男」と絞り込む。
?「外泊に普段から無関心な家庭で生活していた可能性も(当初は家族と一緒に暮らす生活色の強い男、と推定されていた)。
?海外渡航歴がある人物。警視庁は事件の概要や犯人像の特徴をまとめたカードを全職員に配布。
?「酒もたばこもやらない人物」「漢字を読み分ける能力のある人物」。

 鑑識OBに依頼すると、ソウル在住の韓国人男性の指紋と現場に残されていた指紋が合致。韓国では全国民に指紋の登録が義務付けられている。日本の警察は韓国人の指紋と照合して誰とも一致しなかったとしているが、実際には日本からの捜査協力が韓国政府に拒否されている(新潮45:一橋文哉)

 著者の調べはどうか・・・。
 動機? 金! それだけ。
 惨殺? 怨恨? そんなものは関係ない。金だけ。強盗の邪魔になるから殺すだけ。
 証拠? どうせ逃げるから関係ない。

 「犯人は中国、韓国の留学生を中心にしたアジア人だ」と著者はだ断言。「しかもこういう人間が全国でネットワークされている。彼らは名前を名乗る必要もない。金の臭いだけで仲間をかぎ分け、金だけで結びついている」
 その犯罪グループが「クリミナル・グループ」。インターネットを巧みに使い綿密にターゲットを定め、計画的に犯行におよぶ。プロジェクトごとに集まり、そして散らばる。
 でかいヤマを踏めば踏むほど、ほかのグループへのアピールになる。だから、「金も欲しいが、とにかくでかいことをしたい」と考えているらしい。

 曾根崎風俗嬢殺し(わずか7千円の強盗)、大分恩人殺し(わずか数万円の強盗)、名古屋女性風俗店長誘拐殺人、そして福岡一家4人殺人事件もすべてクリミナル・グループの犯行。
 しかも、これらと世田谷一家殺人事件に共通する「指紋」まであった!

 縦社会、縄張り社会の警察の中を泳ぎ回り、糸を紡いでいくと、点が線に、そして面になっていく。
 著者の結論は、世田谷一家惨殺事件の主犯は韓国人留学生の○○、そして従犯が○○をはじめとした数人の中国人留学生と断定している(名前も特定している!)。
 安全と水はただ・・・いまは昔の話だね。300円高。