2006年08月29日「小沢昭一的 新宿末廣亭十夜」 小沢昭一著 講談社 1260円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 これ、新宿末廣亭で去年の6月下席に行われた興業なのね。
 興業ってぇとちと大げさでげすが、まぁ、小沢昭一さんが毎日、一席ぶつというもの。
 落語の世界は10日替わりだから、下席というと21日〜30日まで夜の部ですな。
 これが連日、満員札止め。
 末廣亭ってえのは、都内の4軒しかない定席の一角。で、2階があんだよね。2階が開くというのはとっても縁起のいいことで、たいてい、年始の時しかありません。小朝、正蔵、小三治という人気者が出ても2階が開くまでにはなりません。
 しっかし、今回はトイレ横から立ち見でしょ? これはすごく入ってますよ。
 早々と入場制限してたんですからね。

 この特別興業の仕掛け人は、小三治師匠。もちろん、下席の主任は小三治さん。
 話というのは15分くらいなんだけど、そこは「通」が押しかけたんだね。小沢さんと落語、噺家との縁て深いから、小沢さんしか話せない噺を聞きたいよね。この人、早大を出て俳優座養成所に入るんだけど、早大時代に「落研」を作った人だかんね。

 小沢さんと末廣亭の出会いというのは中学生の時。この時、桂文楽師匠(先代)に誉められたっつうんだよね。
 「中学生の方が落語がお好きなんて、べけんやでげすな」
 この人、いい時も悪い時もなんでもべけんやだかんね。文脈を読まないと判断できないわけ。

 オヤジさんに連れられて来たんだって、以来、末広会というなんか暴力団の名称みたいな会に入ってしょっちゅう聞いてた。後に、劇団を興した時も落語のネタを芝居にかけたくらい。

 テレビ局の番組で志ん生師匠とのロングインタビューなんかも録ってるわけ。
 「これ、いつ放送すんの?」
 「・・・志ん生師匠の追悼番組の準備で」
 「!?」
 テレビ局というのはすごいですな。追悼番組じゃ、本人は見られない、っつうの。
 
 で、噺のシメはいつもハーモニカ。小沢さん、ハーモニカ得意でしょ?
 ♪ハーモニカがほしかったんだよぉ・・・って唄も歌ってるくらい。
  
 文楽師匠(先代、黒門町ね)のエピソードは何回も聞いたな。
 師匠が国立演芸場で「大仏餅」という噺をしてたのね。ところが、登場人物の名前が出てこない。
 この師匠は端正なお顔の通り、完璧主義なところがあんの。で、「勉強しなおしてまいります」って、高座を下りちゃった。2度と上がりませんでしたね。それからしばらくして亡くなったんですよね。

 志ん生師匠(金原亭馬生・志ん朝両師匠の実父)なんて、いい加減というより融通無碍なんでしょうな。名前なんかなんでもいい、本筋さえはずれなきゃ、ってんで、その場でやりくりしちゃう。この臨機応変さが当意即妙な噺を生んだんでしょうな。
 けど、酒飲みながらでも落語本を話さないほど、隠れたとこで稽古してんの。そういう人なの。

 古今亭門下の噺家さん、私、大好きです。
 志ん駒、志ん五の両師匠。この人たち、志ん生師匠の下の世話までしてたんだから、師匠と弟子の関係は実の父子よりも深いかもしれません。

 まっ、小沢昭一さんならでは肩の力を抜いた噺がいろいろ。こういうの「軽妙洒脱」って言うんだろね。300円高。



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