2006年09月12日「上海バンスキング」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
「蒲田行進曲、大ヒットしちゃったね」
「もう、ボロ儲けでっせ。今度もあんじょう頼んまっせ」
「平田満も風間杜夫も売れたし。松坂慶子はアタル女優だね」
「ホンマにぞうでっせ」
「そこで相談なんだけど、この脚本でさ、映画、撮らせてくんないかな?」
「えっ!」
「だから、これ。自由劇場って劇団がやってる芝居なんだけど、なかなかいいんだよ。これで撮りたいんだよね」
「・・・まっ、蒲田で儲かったことですし。で、キャストは?」
「同じでいいんじゃない、蒲田と。松竹の黄金トリオだもん」
監督の深作欣二さんとプロデューサーの間で、こんな会話がされたのではないかな?
さて、演歌歌手のレコード(古いねどうも)の世界には競作っつうのがあるよね。
1人の歌手だけじゃなくて、1つの音曲を複数の歌手に歌わせて競わせるわけ。たとえば、「矢切の渡し」ってド演歌があるけど、これ、元々はちあきなおみさんの唄。それを細川たかしさんも歌いたいってんで競作になった。
あまりにいい唄なんで、美空ひばりさんまで競作したかったらしいね。
「ホテル」「氷雨」「夢は夜ひらく」(ホントに古いね!)とか、競作はいろいろあんだよ。
で、この映画も競作なんじゃないか?
元々は、オンシアター自由劇場の芝居。斎藤憐さんの原作を舞台にかけたわけ。
で、劇団主宰の串田和美さんが監督とヒロインの亭主役(波多野四郎役)をやって映画を撮ります。主役のまどか役は、もち、自由劇場の看板女優である吉田日出子さんよ。高橋克典さんと20歳の年の差を超えて熱愛してた女優ね。
で、これは日本ヘラルド配給の映画。
あくまでも舞台がいちばん先。だけど、映画化は日本ヘラルド配給よりも松竹のほうが早かった。少し複雑だね。
ヒロインをだれにすっかというキャスティングの問題だろうね。
たとえば、「蒲田行進曲」でも、、原作、芝居はつかこうへいさん。つか劇団が芝居で受けてた。松竹はこの映画化だもの。でさ、つかさんのとこの看板女優は根岸季枝さんなんただよ。巧いけど、松坂慶子さんのほうが華があるよなぁ。
だから、松竹ではこの映画も松坂さんで撮りたかったんだ。
さて、松坂さん、とっても綺麗です。風間杜夫さんもいいし、松竹だから、お金かけて上海ロケも敢行してるし、セットもよくできてる。すんごく面白いんだよ。
けど、唄ね、唄。これ、ベースがジャズなんですよね。だって、原作は小説というより実話だもん。昭和初期から終戦まで上海で活躍してたジャズメンたちの物語なんだ。いまでも、上海にはそのジャズホールというか、ダンスホールがあるもの(和平飯店だよ)。
で、唄ね、唄。吉田日出子さん、めちゃいいんだよ。
巧いというより、もしかすっとヘタウマに近いのかもしれないけど、あの時代の日本人ならこう歌ってるはず、というジャズり方なの。
彼女、借り物じゃなくて自分の唄にしちゃってる。
どちらの映画でも冒頭とラストで歌われるんだけど、「ウエルカム上海」って唄は串田和美さんの作詞なのよ。
これがまたいいんだ。音はスイングジャズの典型。思わず踊れる。ノッちゃう音。
1936年(2.26事件の年)から45年までの10年間の上海。暗い時代だけど、青春はあったさ。
吉田日出子さん。この人は美しく年輪を重ねてるね。
ところで、映画の内容なんだけど、こんなお話なのよ。
舞台は上海。上海といえば、租界地だよ。各国のいろんな居留民が跋扈してた地域。イスタンブールみたいなとこ? なんでもあり、の世界だよ。
ここ上海には・・・イギリスは競馬場と阿片を持ち込み、フランスは劇場と売春宿を持ち込み、アメリカはスロットマシンとダンスホールを持ち込んだ。
じゃ、日本が持ち込んだものは?
映画じゃなにも言わなかったけど、和製ジャズと・・・戦争だよ。
横浜のダンスホール経営者の1人娘をだまして、上海に連れて来ちゃう。ジャズがやりたいあまり、クラリネットを捨ててパリで結婚して、ホテル経営の勉強します、なんて2人でウソついちゃってさ。女の父親から1000円バンスしちゃう。
バンス? アドバンス、前借りのことさ。
男も女もここ上海では前借り王、バンスキングなのよ。後のことなどだれもわかんない。いまがあればいい。そういう時代だったでしょ?
2人の身の回りで事件が続々と起こるんだ。戦雲は急を告げちゃってるし。とうとう1937年には日中戦争勃発(日華事変)だぜ。
戦争でジャズもいよいよ禁止。阿片に手を出すジャズメンもいれば、徴兵されるジャズメンもいる・・・けど、ここ上海から離れようとしない。
ジャズが好きで、戦争が嫌いで、自由が好きで、恋愛が好きで、酒が好きで、ダンスが好きで・・・。
特高の刑事役が松竹では平田満さん、ヘラルドでは小日向文世さん。バクマツというトランペッター役はそれぞれ宇崎竜童さん、笹野高史さん。いろんな楽しみ方ができる映画です。
どっちがお勧めか? わかんない。
「もう、ボロ儲けでっせ。今度もあんじょう頼んまっせ」
「平田満も風間杜夫も売れたし。松坂慶子はアタル女優だね」
「ホンマにぞうでっせ」
「そこで相談なんだけど、この脚本でさ、映画、撮らせてくんないかな?」
「えっ!」
「だから、これ。自由劇場って劇団がやってる芝居なんだけど、なかなかいいんだよ。これで撮りたいんだよね」
「・・・まっ、蒲田で儲かったことですし。で、キャストは?」
「同じでいいんじゃない、蒲田と。松竹の黄金トリオだもん」
監督の深作欣二さんとプロデューサーの間で、こんな会話がされたのではないかな?
さて、演歌歌手のレコード(古いねどうも)の世界には競作っつうのがあるよね。
1人の歌手だけじゃなくて、1つの音曲を複数の歌手に歌わせて競わせるわけ。たとえば、「矢切の渡し」ってド演歌があるけど、これ、元々はちあきなおみさんの唄。それを細川たかしさんも歌いたいってんで競作になった。
あまりにいい唄なんで、美空ひばりさんまで競作したかったらしいね。
「ホテル」「氷雨」「夢は夜ひらく」(ホントに古いね!)とか、競作はいろいろあんだよ。
で、この映画も競作なんじゃないか?
元々は、オンシアター自由劇場の芝居。斎藤憐さんの原作を舞台にかけたわけ。
で、劇団主宰の串田和美さんが監督とヒロインの亭主役(波多野四郎役)をやって映画を撮ります。主役のまどか役は、もち、自由劇場の看板女優である吉田日出子さんよ。高橋克典さんと20歳の年の差を超えて熱愛してた女優ね。
で、これは日本ヘラルド配給の映画。
あくまでも舞台がいちばん先。だけど、映画化は日本ヘラルド配給よりも松竹のほうが早かった。少し複雑だね。
ヒロインをだれにすっかというキャスティングの問題だろうね。
たとえば、「蒲田行進曲」でも、、原作、芝居はつかこうへいさん。つか劇団が芝居で受けてた。松竹はこの映画化だもの。でさ、つかさんのとこの看板女優は根岸季枝さんなんただよ。巧いけど、松坂慶子さんのほうが華があるよなぁ。
だから、松竹ではこの映画も松坂さんで撮りたかったんだ。
さて、松坂さん、とっても綺麗です。風間杜夫さんもいいし、松竹だから、お金かけて上海ロケも敢行してるし、セットもよくできてる。すんごく面白いんだよ。
けど、唄ね、唄。これ、ベースがジャズなんですよね。だって、原作は小説というより実話だもん。昭和初期から終戦まで上海で活躍してたジャズメンたちの物語なんだ。いまでも、上海にはそのジャズホールというか、ダンスホールがあるもの(和平飯店だよ)。
で、唄ね、唄。吉田日出子さん、めちゃいいんだよ。
巧いというより、もしかすっとヘタウマに近いのかもしれないけど、あの時代の日本人ならこう歌ってるはず、というジャズり方なの。
彼女、借り物じゃなくて自分の唄にしちゃってる。
どちらの映画でも冒頭とラストで歌われるんだけど、「ウエルカム上海」って唄は串田和美さんの作詞なのよ。
これがまたいいんだ。音はスイングジャズの典型。思わず踊れる。ノッちゃう音。
1936年(2.26事件の年)から45年までの10年間の上海。暗い時代だけど、青春はあったさ。
吉田日出子さん。この人は美しく年輪を重ねてるね。
ところで、映画の内容なんだけど、こんなお話なのよ。
舞台は上海。上海といえば、租界地だよ。各国のいろんな居留民が跋扈してた地域。イスタンブールみたいなとこ? なんでもあり、の世界だよ。
ここ上海には・・・イギリスは競馬場と阿片を持ち込み、フランスは劇場と売春宿を持ち込み、アメリカはスロットマシンとダンスホールを持ち込んだ。
じゃ、日本が持ち込んだものは?
映画じゃなにも言わなかったけど、和製ジャズと・・・戦争だよ。
横浜のダンスホール経営者の1人娘をだまして、上海に連れて来ちゃう。ジャズがやりたいあまり、クラリネットを捨ててパリで結婚して、ホテル経営の勉強します、なんて2人でウソついちゃってさ。女の父親から1000円バンスしちゃう。
バンス? アドバンス、前借りのことさ。
男も女もここ上海では前借り王、バンスキングなのよ。後のことなどだれもわかんない。いまがあればいい。そういう時代だったでしょ?
2人の身の回りで事件が続々と起こるんだ。戦雲は急を告げちゃってるし。とうとう1937年には日中戦争勃発(日華事変)だぜ。
戦争でジャズもいよいよ禁止。阿片に手を出すジャズメンもいれば、徴兵されるジャズメンもいる・・・けど、ここ上海から離れようとしない。
ジャズが好きで、戦争が嫌いで、自由が好きで、恋愛が好きで、酒が好きで、ダンスが好きで・・・。
特高の刑事役が松竹では平田満さん、ヘラルドでは小日向文世さん。バクマツというトランペッター役はそれぞれ宇崎竜童さん、笹野高史さん。いろんな楽しみ方ができる映画です。
どっちがお勧めか? わかんない。