2006年10月17日「累犯障害者」 山本譲司著 新潮社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 今日17日(火)は「第6期原理原則研究会」がありますよ。
?特別講師:佐伯吉捷先生(オルゴール療法研究所主宰)
?テーマ:「美と健康を科学する 奇跡のオルゴール療法」
 会員の方はお忘れなく!


 この真実の前に圧倒されます。知らないほうがよかったのか、やっぱり知っておいたほうがいいのか・・・。

 著者は元参議院議員。彼の名前を出すとき、必ずついてまわるのが「秘書給与詐取事件」で実刑を食らったという事実。栃木県黒羽ね刑務所に服役してたのよ。
 塀の中では「ハキダメ」と呼ばれた懲役作業の指導補助の業務についていた。
 ハキダメってのは、一般懲役者たちから揶揄されてたもの。
 彼らがハキダメという理由は、そこが精神障害者、知的障害者、認知性老人、聴覚障害者、視覚障害者、肢体不自由者など、とても普通の作業はこなせない受刑者たちを隔離しておく工場だからなのよ。

 法務省が毎年、発行している「矯正統計年報」に「新受刑者の知能指数」という項目があんのね。2004年の数字では32.090人中7172(知能指数69以下−−いわゆる「知恵遅れ」)+1687(測定不能)。つまり、3割が知的障害者なのよ。
 「服役中、足し算引き算すらできない者が何人もいた」

 しかも、彼らは累犯なの。前科10犯とかね。なぜなんだろう?
 この原因は奥が深いですよ。著者も政治家として福祉行政に熱心だったというけど、「ここまではとても気がつかなかった」と反省してるもの。

 彼らが累犯になる理由は、だれもサポートしてくれないからよ。弁護できないから、警察、検察の誘導尋問に簡単に引っかかっちゃう。
 宇都宮の誤認逮捕なんて甚だしいものね。容疑者は連続強盗の容疑で逮捕、勾留されたわけ。で、起訴ね。
 ところが、この容疑者は知的障害者で善悪の区別なんてつかないのよ。で、足も悪いから、警察が調書に書いたように「走って逃げた」なんて無理なんだよね。
 最後の最後、「オレはやってねぇ!」と言い出したのは、義父が「おまえ、懲役7年という意味がわかったのか? 正月の餅が7回食えなくなるんだど」と聞くや、「オレはやってねぇ!」と叫びだしのよ。
 栃木県警管内には強盗事件が2つ未解決のままあったのよ。この犯人に仕立て上げられたってわけ。

 どうして「えん罪」とわかったか?
 そりゃ真犯人が出てきちゃったからさ。警察が点稼ぎのためにえん罪でも認めてしまうような知的障害者を利用したというわけ。警察がやりそうなことだね。
 「こういうケースはまだいっぱいあるんじゃないか?」と山本さんは指摘してるけど、たしかにあるかもね。

 2001年、浅草で「レッサーパンダ事件」がありました。女子短大生が背中を刺されて死亡した事件ですね。
 現場で犯人のものと思われるレッサーパンダのぬいぐるみ帽が見つかったためにこう呼ばれたわけ。
 10日後にあえなく捕まったんだけど、それまでの報道とはがらり変わってマスコミは全然、後追い報道しなくなった。
 理由は?
 犯人が知的障害者だったのよ。

 住所不定の元塗装工。29歳。知能指数49。この数値は精神薄弱のレベル。知能は小3以下。事件を起こしたときは浅草近辺でホームレスをしてた。

 この男の生育過程は悲惨のひと言ですね。
 父親は仕事を転々。金銭感覚無し。パチンコの毎日。母親がパートに出て家計を支えても困窮を極める。
 成績はオール1。いじめられっ子。毎日いじめられてる。けど、なにも言い返せない。うじうじしてるからまた標的にされる。母親は高等養護学校3年の時に白血病で他界。

 養護学校を卒業してから11年間。その半分は拘置所、刑務所暮らし。女子短大生を殺したのは仮釈3カ月後のことだった。

 この間、何度も逮捕されているのに、保護司、保護観察官が彼と面談したのはたったの2回。彼の実家の状況を知っているのに、生活保護の手続きも代行していなければ、役所に同行もしていない。つまり、ほっらかしなわけ。
 相手は精神薄弱ですよ。だれかが置いた荷物を廃品と思って持ち去り、何度も「置き引き容疑」で逮捕される人ですよ。1人でできるわけがないじゃないですか!
 
 では、家族は? パチンコ狂いの父親は? 4歳違いの妹は?
 まず、父親ですけど、彼が逮捕されたあとに調べてわかったことがあります。それは父親も知恵遅れだったということ。
 中卒後、11年間、家計を死ぬまで1人で支えてきた妹は、朝から深夜まで働きづめ。白血病を患って余命2カ月。

 保護観察士はこの状況を知っているのに、役所の福祉課にはなにもつながなかった。
 まっ、つないでもどこまでやってくれたかはわかりません。
 というのも、山本さんがこういう触法障害者の福祉について糺しても、なんの反応も関心もなかったと言います。法を冒すような障害者は福祉など受ける価値はない、というのでしょうかねぇ?
 けど、ほんの些細な生活保護でも、彼らは法に触れずに済んだ可能性は大ありなんですよ。なぜなら、無銭飲食、置き引きといった軽犯罪が圧倒的だからです。
 でも、そんな軽微な罪でも警察に引っ張られてると、「連続強盗」といった罪をなすりつけられて触法障害者の烙印を押されかねないんです。

 少なくとも、なんの触法でもない妹は身体障害者手帳や生活保護を受ける権利があったはずです。けど、彼女は持ってなかった。
 なぜか?
 そんな制度があるなんてまったく知らなかったんですよ。だから、医療費免除の対象にもなってなかったんです。

 法律は法律を知っている人間のみを守るものです。

 「あたしを抱いてくれた男の人たちは、みんなやさしかった」
 これは売春をして暮らす知的障害者です。
 また、こういう障害者を食い物にする暴力団も少なくありません。たとえば、聴覚障害者を食い物にする聴覚障害者だけの暴力団もあるんです。

 「これまで生きてきた中で刑務所がいちばん暮らしやすかった」
 累犯障害者の正直な声です。

 山本さん、いまなら政治家としてとってもいい仕事をすると思う。
 どん底を知ってることがいいことなのかどうか、わたしにはわかりません。大所高所からの政治判断も大切でしょう。けど、だれも振り向かない人たちに温かい目を向ける政治家が1人くらいいてもいいのではないかな・・・。
 とんでもない力作。ぐうの音も出ません。400円高。