2003年09月15日「戦略頭脳」「あなたの子供を多重債務者にしないために」「志の輔 旅まくら」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「戦略頭脳」
 梶井厚志著 サンマーク出版 1400円

 著者は阪大で経済理論を教える教授。というと、固い内容の本を予想しますけど、これはかなり柔らかいです。というよりも、講演を聞いてるような感じの本ですな。

 テーマは「戦略」です。つまり、意思決定の方法ですね。
 交渉、転職、プレゼンテーション、部下指導、情報操作、投資など、この6つのシーンで戦略的思考をどう使えばパフォーマンスが高くなるか。それを考えてみようというのが、本書の動機です。

 著者が勧める戦略法は四つ。すなわち、「のりしろ戦略」「アスピレーシュン戦略」「WW戦略」、そして「ロック・イン戦略」のことです。これらの一つ一つはきわめて易しいものですから、本文をチェックしてみてください。
 たとえば、のりしろ戦略とは、物事はのりしろのように少し曖昧さ、含みを残しておいたほうが功を奏する機会が多い、という実戦的なことですね。アスピレーションとは「意欲、熱意」のことですし、WWとはマーケティングでもありますけど、顧客も売り手もどちらも得をする、どちらも勝利者になるという発想ですね。ロック・インとは、自分にとって望ましい行動を取るように相手を閉じこめるという方法です。

 さて、保険の世界でも、いまや、「リスク細分化型商品」は当たり前です。喫煙習慣の有無で疾病保険料に差が出るのは、その一例です。これも戦略から言えば、危険な人と安全な人とを峻別するための「スクリーニング」ですね。
 考えてみれば、まず、顧客を分けてしまって、異なるタイプの商品を購入させた方が儲かる、というわけです。

 このスクリーニングというのは自然と行われています。
 たとえば、叶姉妹、神田うのさん。彼女たちのイメージは「わたしって、お金がかかる女だわヨーン」というものでしょう。すると、彼女たちの「シグナリング」に呼び寄せられる男というのは、そのお金が使える人間に限られるわけですよ。だから、彼女たちがつき合う男たちは「金、持ってるド」という人ばかりなんですね。
 スクリーニングですから、いわば、センター試験の足切りと同じです。

 ところで、アメリカのセールス・コンサルタントにキャベット・ロバートという人がいますが、「自分でなにを買うか決められる人は全体の五パーセント、残りの九十五パーセントは他人のやり方をマネする人たち」と言う。
 これがアメリカ人のことですけど、日本人も同じでしょう。
 真偽のほどは明らかではありませんが、どうも、流行させるには茨城から、という言葉があるそうです。茨城県民は新しい物好きらしいです。いったん気に入れば、実直にそれを実行するそうです。
 あのルーズソックスも発信地は茨城でした。ブロンドールという会社が水戸の女子高生たちの間で流行らせたそうです。
 けど、これ、生産コストが高すぎて、利幅が低い。そこで、次に紺のハイソックスを流行させようとしたらしい。これも流行はじめたものの、紺となると、ブランドがたくさんあります。ラルフ・ローレンも黙っちゃいない。
 ということで、この会社、この三月に民事再生法適用を申請して倒産してしまいました。

 これはネットワーク性ですね。
 「知らない人」「持っていない人」は流行遅れ。学校でも話題についていけない。この危機感が流行に拍車を掛けるのかもしれません。
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2 「あなたの子供を多重債務者にしないために」
 横田濱夫著 角川書店 571円

ご存じ、みなとの見える丘銀行出身の著者がおくる教育本です。

 しかし、この人ははみ出し銀行マンからスタートして、恋愛、ジョーク、投資、そして教育と八面六臂の活躍ですな。
 本音でずばずば語る人がこの業界(投資、金融)にはいないだけに、希少価値がありますよ。
 というわけで、今回は教育。しかも、テーマは「お金」。

 たとえば、「○○ちゃんちは大きなお家でいいなぁ」と子供がこぼした時にどう教えるか。考えさせるか。
 サラ金のコマーシャルが全盛ですけど、それを見た時、どう教えるか。
 ファミレスで注文する時、どうお金の価値を教えるか。友達におごるという時、どう指導するか。
 喝アゲを受けた時にどう教えるか。
 銀行、証券会社とのつき合い方とかも、著者流の方法で教えます。
 なーるほどねぇ。

 たとえば、いまの時代、学校でいじめにあったり、恐喝されたりすることが少なくありません。その時、どうするか?
 まず、「警察に行け」とアドバイスします。ただし、証拠がなければ彼らも取り合わないと思います。そこで、証拠を集める。たとえば、喝アゲされた時にその生徒、日時、金額、状況をメモする。それを証拠として、まず警察に行くんです。
 そして、調書をとってもらってから、今度は学校に行くわけです。
 おそらく、学校では「そんなことあったの? ホント? 全然知らなかったです。では、こちらでも調べてみますから、それからどうするか考えさせてください」というに決まっています。
 彼ら(学校の先生)の頭の中はいま、「これを表沙汰にしないためにはどうすればいいか。どうすれば、教育委員会やマスコミに知られないか」を懸命に考えています。組織の人間とはそういうものだ、と著者は言います。
 わたしもそうだとは思いませんが、教師という職業が特殊であるだけにそこまで踏み込んで準備しておいたほうがいいでしょう。でないと、子供が自殺したり、怪我したりしてから、記者会見などで、「いじめがあったなんて、担任もわたしも知りませんでした」で終わり。生徒たちは「絶対、知ってたはず」と言うものの、後の祭りです。
 ですから、最初に警察に駆け込んでしまう。そして、事件にしてしまう。
 「どうして、学校に先に相談してくれなかったんですか?」と非難されたら、こう言いましょう。
 「火事になった時、あなたは消防署に連絡しないで先に保険会社に相談するんですか?」
 たしかに・・・。

 わたしの場合、子供に小遣いを上げたことが一度もありません。
 なぜか?
 必要な時に必要な額を渡しているからではないんです。
 学費をはじめとした勉強関係、そして衣食住に関してはすべて言い値で支払います(ただし、衣は学生服と下着のみ)。けど、漫画、ゲームソフト、映画、東京ディスニーランドなどの遊びに関する小遣いについてはすべて自分の貯金から出す、という取り決めになっているんです。
 これがわが家の憲法なんですね。プロレス、野球観戦ですら、割り勘です。
 小遣いについては、孫という特権を生かして祖父母からせしめることもあるでしょうし、お年玉シーズンにそこかしこの親戚を行脚し、回収することもあると思います。。
 でも、基本的に小遣いはありません。
 ただし、労賃は支払います。
 たとえば、皿洗い、風呂磨きは一回百円、肩たたき一回五十円、出版社への原稿配達一回千円、ただし交通費込みといった具合です。
 こうして、小学一年生から高校卒業までにいったいどのくらい貯めたのか?
 それがなんと百六十万円ですよ。コツコツ貯めたお金は無駄使いしませんね。おかげで、わが家でいちばんの財閥です。家内も借りてるらしいし、わたしも困った時には時々借りたいと思ってるんですが、これ以上、信用をなくすと沽券に関わるので我慢してるんです。
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3 「志の輔 旅まくら」
 立川志の輔著 新潮社 400円

 落語は喬太郎、歌丸、小三治のファンなんで、実はあまり志の輔さんの落語会には行ってなかったんです。
 けど、CDが出てるでしょ。一枚買い、二枚買い・・・とやって、とうとうすべて購入してしまいました。
 こうなると、高座を聴きに行かなくちゃとなりますわな。

 そして、本も片っ端から読みたくなります。広告時評の天野さんとの対談本も買いました(まだ、読んでませんけど)。
 これ、「旅」と「まくら」をかけて、落語の出だしに話した旅に関するまくらなんでしょうな。
 面白い。CDで使った噺がなかったのがさらにいい。

 キューバと北朝鮮。どちらも一応、共産主義ですが、その色合いがまったく違いますね。
 まっ、これは実際に旅をしなくても想像できますけどね。
 キューバはめちゃくちゃ貧しいはずなのに、楽しそうに暮らしている。面積は本州と同じくらい。物価は日本の百分の一。サルサのリズムで音楽がかかれば、すぐに踊り出す国民性。

 どうして、キューバに行こうとしたのか。
 それがある映画との出会い。
 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」という映画ですよ。単館ロードショーで上映時間をどんどん延ばして、ロングラン。宣伝などしないのに、口コミでガンガン流行った映画ですね。わたしも見ました。
 これはライ・クーダーというアメリカのミュージシャンがこのクラブの演奏家たちの高度なテクニックをどこかで聞きかじり、彼らに会いたいとキューバを訪ねていく。そんなストーリーです。
 平均年齢七十歳のミュージシャンたち。
 この映像が頭から離れない。そこで、行っちゃった。
 いいなぁ、このノリ。

 では北朝鮮にはどうして?
 昔、アントニオ猪木さんが仕掛けたイベントがあったでしょ。プロレスを見て、北朝鮮の観光地を見学するというツアーが。
 それに参加したんですよ。
 ほかのバスは満員ぎゅうぎゅう詰めなのに、志の輔さんのグループはゆったり。
 どうしてか。
 乗客が北朝鮮にとっては、好ましからざる人間だったんですね。たとえば、テレビやマスコミ、批判的な大学教授とその弟子、それにあることないこと話しかねない落語家。これは危ない。
 だから、公安が3人も乗ってきたんです。
 もちろん、観光地はお仕着せの場所。通りを歩いている人間もすべてサクラ。
 これはこれで楽しかっただろうね。

 あと、インドとか、高知とか。まっ、適当にあっちこっち行ったのをまとめた本です。
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