2006年11月12日二度あることは三度ある!ヘレン・ミレンの「ゴスフォードパーク」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 まっ、とんでもない傑作ですな、この映画は。
 アカデミー脚本賞を受賞してますが、もし、この年、「ビューティフル・マインド」という作品がなければ、こっちが受賞してたでしょうね。

 群像劇の典型なんだけど、もち、これにもヘレン・ミレンは重要な役で登場してます。どんな役か? 日本語で言うと「女中頭」。大きなお屋敷のメイドさんのリーダーということです。

 英国ってのは、クラスがきっちりしてるんだけど、貧乏貴族が民間から金持ちの娘を嫁にしたりして、クラスが少し揺らぎつつあった1930年代の片田舎。
 そこのマナーハウス「ゴスフォードパーク」が舞台。

 マナーハウスってのは、上流階級のお屋敷のことよ。パンピーからみれば、そこに入ればマナーが身につけられるじゃん。だから、お屋敷勤めを歓迎してたのよね。花嫁修業みたいなもんだな。


ヘレン・ミレンはちょっとやつれた役柄。シルヴィア役クリスティン・スコット=トーマスが艶っぽい!

 さて、ゴスフォードパークに数組の上流階級が招待されます。
 屋敷の主人はウィリアム・マッコードル卿(これまた、マイケル・ガンボン。「コックと泥棒・・・」にも出てたし、「ハリポ」の校長役ね)。妻はなんとも艶っぽいシルヴィア。で、狩りと食事、会話で楽しもうってわけです。上流階級だからさ、みな、召使いも連れてくんだよ。

 お客はシルヴィアの伯母ミセス・トレンサム(マギー・スミス演じる意地悪婆。顔見たらだれでもわかるよ。ハリポのマクゴナガル副校長といったらわかる?)シルヴィアの姉妹夫婦、従弟の映画俳優アイボア・ノヴェッロと友人のハリウッド映画プロデューサー・ワイズマン(ユダヤ人)、娘と不倫してるネズビットとその妻、そして娘婿候補等々。

 上流階級だから、メイドや従者の前でもセックスしちゃう。だって、周囲には(人間は)だれもいないと思ってるから。
 しかし、メイドだって人間じゃん。メイド、従者たちは1階に住んでるんだけど、ここではそれぞれの主人たちのゴシップが飛び交ってるわけ。
「実は金を無心に来てるんだ」
「どちらを嫁にするかカードで選んだらしい」
「メイドも連れずに旅行するなんて(なんて貧乏くさいの)」

 翌朝、キジ猟で主人のマッコードル卿が銃弾で耳を怪我します。たんなる事故?

 ユダヤ人のワイズマンは次回作について質問される。
「マナーハウスが舞台。上流階級の間で殺人事件が起こって屋敷にいる全員が容疑者」
「犯人はだれ?」
「それは観てのお楽しみ」
「ここにいる人間はだけの映画なんて観ないよ」
 
 なんとこのプロット通りに殺人事件が起こっちゃうの。
 だって、このマッコールド卿ってのは傍若無人でだれからも愛されてないんだもの。あっ、1人だけいたか? お手つきのメイドが1人。出資を止められると倒産しちゃうんだけど、「ビジネス・イズ・ビジネス」と冷酷に捨てちゃうわけ。経営する工場でも片っ端から従業員に手をつけては妊娠させ、生まれた子どもは孤児院に捨てちゃう、という男。
 まっ、殺される理由はたくさんあんだよ。

 この映画の魅力は、やっぱり登場人物が個性的で、それぞれ、胸に一物も二物も抱えてるところかな。階上と階下ではホント、住む世界が違うわけ。召使いはあくまでも召使い。黒子で永遠に主役にはなれない。

 ヘレン・ミレン演じる女中頭ミセス・ウィルソン曰く、「いい召使いの条件はなんだと思う? それは先を読む力(anticipation)よ」
 「私は最高の召使い。ただ、自分の人生なんてないわ」

 いったい、だれがどういう理由で、この主人を殺したんだろうね? 推理映画としても十二分に楽しめます。なんたって、アカデミー脚本賞なんだからさ。
 劇団は、これ、芝居でやりたいだろうなぁ。