2007年08月02日「雇用融解」  風間直樹著 東洋経済新報社 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 安部内閣、もはや、ダッチロール状態ですな。赤城大臣、どうして今ごろ、クビ切るのよ?
 「参院選前に辞任させよ」と、元々、中川幹事長が提案してたんでしょ。それを断って選挙に突入。で、「ボロ負けしたから、やはりクビにします」では、なんの見識もなければ学習効果もない。もち、危機管理なんてさっぱりない。

 こういう「センス」がダメなのよ。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」といったのはソロモン王だけど、この人、ホントに愚者愚者なのよ。
 有権者にしてみれば、こんだけ後手後手にまわって、しかも弥縫策しか取れない内閣なんて、「いざというとき、きっと国益を損ねるにちがいない」って、不安でしょうがないんだよね。

 8月末〜9月上旬で、安倍さんは総辞職しますよ。


 さて、有能なジャーナリストによる1冊です。これ、実は大きな問題を含んでると思います。
 2つの意味でね。

 1つは、日本の労働現場が抱える問題ですね。
 正社員を雇う場合は大学や院卒の高学歴であること。高卒程度は不要。安い月給が使える外国人労働者の活用・・・これでは、ニートもフリーターも無くならないわけですよ。

 かつて、バブル時代、メーカーの現場は「空洞化する日本」と言われてきましたね。けど、最先端の技術については負けていない。単純な仕事だけが中国等の安価な労働力提供地域に移っていくだろうともね。
 いま、シャープの「亀山モデル」をはじめ、超人気の製品の多くが国内で製造されるようになりました。もち、ロボットの導入もあるだろうし、なにより、最先端技術なんで企業秘密というデリケートな問題も内包していたと思います。

 けど、亀山工場2800中200人が日系ブラジル人だったといいます。
 これ、請負労働者で社会保険未加入が判明したため、いまや外国人労働者は0。しかし、この数字はシャープの工場についてのみ。近所にある関連企業、下請企業、協力工場には相変わらずブラジル人等が働いてるわけ。

 亀山市はシャープ誘致のために45億円も補助金を出してるわけ。で、シャープは地元に何らかの雇用効果をもたらしたのか?

 2006年6月、シャープの正社員は2200。非正規雇用は1800人。その内訳は請負労働者1100人、派遣労働者700人。正社員は社内から異動してきた人たち。県内の人から新規の正社員となったのは130人だけ。
 つまり、亀山市で増えたのはほかの県やブラジルからの外国人だけ。すなわち、亀山に定住することのない請負労働者ばかりなのよ。

 となれば、この地域の学校ではブラジルの子どもたちがどっと増えてるんでしょうな。教師の生の声が聞いてみたいよね。

 2つめは、日本の労働力を差配する派遣ビジネスの実態ですよ。
 過労死、うつ病、低収入、不安定、派遣という名の非正社員・・・これがいま、財界が抱える雇用問題ですよ。

 著者は業務請負業として知られるクリスタル・グループについて、朝日新聞が「偽装請負」(朝日新書)という本を出す4年も前に記事にしたところ、名誉毀損で訴えられ、10億円もの損害賠償を請求されたんですね。
 凄いですね。この金額。東経は私もいましたからよくわかるけど、弁護士が優秀ですからね。結局、控訴審で原告が訴えを取り下げるわけ。

 この会社、いま、あの折口雅博さん率いるグッドウィル・グループに買収されました。面白いことに、この本の中で折口さんのインタビューがたっぷり掲載されてます。で、クリスタル買収の動機等を語ってます。

 コムスンの引き取り先がワタミになるのか、無ければ引き受けるとトーンダウンしてるニチイ学館なのかは別にして、参院選も終わったことですから、国会でも本格的に「コムスン問題」について審議されるかもしれません。
 その時、クリスタルを呑み込んだグッドウィル本体についてもよりクローズアップされてくるでしょうな。300円高。