2003年06月09日「創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある」「アラブの格言」「黄金の言葉」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある」
 宮脇修著 講談社 1800円

 ホントに長いタイトルです。で、この著者ですが、海洋堂の創業者なんです。
 海洋堂といっても、知らない人は知らない。知ってる人は知ってる。まっ、当然ですけど。
 去年、幕張で「恐竜博」が開かれましたけど、この時、恐竜のフィギュアが大ブレイクしました。たとえば、チョコエッグのおまけに、たくさんのミニ恐竜がおまけとして入ってたりしましたね。
 実はわたしも大ファンで、この時、五十個くらい買ったんです。チョコは食べないから、すべて上げました。で、おまけだけ集める。
 そればかりか、ブロンズ像のプロントサウルス、ティラノサウルスも持ってます。
 恐竜だけではありません。あと、スバル360のフィギュアとか「タイムスリップ・グリコ」という昭和30年代の品物を作ってるんですね。
 これが海洋堂です。

 元々はプラ模型屋さんですよ。著者はいろんな仕事をしました。でも、どれもあまりうまくいかなかった。
 で、長男が生まれた時、このままじゅゃいけない。なにか生業を持たないと、と一念発起します。そこで考えたのが、「うどん屋さん」をやるか、当時、流行りそうだった「プロ模型屋さん」をするかの二者択一。うどんは好きだったから、という理由です。
 結局、サイコロを振るような軽い気持ちで、プラモ屋を選択します。

 ところが、仕事の要領がわからない。大阪の問屋に行って、そこの親切な店員さんにイロハから教えてもらいます。
 それでいきなりうまくいくんですね。
 この人の成功のコツは3つあるように思えますね。
 まず、周囲の協力者のサポートをうまく活用していること。これは店のオープンを子ども達に宣伝してもらったこともそうですし、問屋さんに教わるという気持ちもそうですね。素直なんでしょうな。あと、ド素人だから、学ぶ気持ちがたくさんあった。
 次に、ポジティブ・シンキングでしょうか。

 それを説明する前に、プラモ屋さんの世界というのは、なかなかリスクを取らない人たちが多いようで、「いま、アメリカで大流行。近いうちに絶対、日本でも受けるよ」と言われたおもちゃにレーシング・ゲームがありました。
 実はわたしも子どもの頃にこれが欲しくてしょうがなかった。週刊マンガの背表紙とかにいつも写真が載ってるんですよ。小学4年生くらいだったと思うけど、当時、この値段が9800円。
 欲しかったけど、高いですからねえ。買えなかった。一度、父親をおもちゃ屋に連れ出して買わせようと考えたことがありましたけど、結局、高いんで、電車のレールセットで我慢したことがあります。
 人間、我慢すると、あとでリカバーしたくなるんですね。子どもがおもちゃが欲しい、という時は、「おっ、いちばんいいレーシング・ゲームを買ってやるぞ」と無理矢理洗脳するかのように説明して買っちゃいましたけど、ホントは自分が欲しかったんでしょうな。
 このレーシング・ゲームを大阪どころか、日本のどのおもちゃ屋、プラモ屋さんでも扱ってなかった時、ここでは勝負をかけて売るんです。当時、日本一の売上をあげて、一躍、業界で有名になります。

 売り方がうまいんですよ。ただ、商品を置いておいてもダメ。では、どうするか?

 店内を広く改装して、レース場を作ってしまうんですね。そこで思う存分、レーシング・カーで遊ばせる。だから、大人も買う。
 この方法はこの店のセールス・モデルにもなりました。その後、戦車ブーム、潜水艦ブームなども、すべてこの要領です。今で言えば、ジオラマですね。
 これが爆発するのは、怪獣、恐竜、そしてウルトラマンなどのヒットが追い風になった時ですね。

 でも、レース場では大失敗もするんです。あっという間にブームが過ぎてしまう。でも、その時でもめげません。
 日本一大きいレース場を作って転けた時でも、「それなら、こうしよう」と次の手を考える。困れば困るほど、知恵が湧いてくる。知恵で危機を切り抜けてきた人です。

 いま、海洋堂といえば、日本を代表するフィギュアの制作元ですよ。オリジナル作品も多く、子ども達に夢を与える立派な仕事をしてますよ、ホントに。

 450頁にもなる本ですが、写真あり、解説あり、プラモの歴史も勉強できる本です。

 250円高。購入はこちら


2 「アラブの格言」
 曾野綾子著 新潮社 680円

 いわゆる、アラブの諺、至言、格言を集めて、少し解説を加えたモノですね。ところで、アラブというのはトルコやペルシャ(イラン)とは違いますからね。

 さて、アラブにはIBMがあるんです。すなわち、インシャラー、ブクラ、マレシという言葉ですね。意味は、それぞれ、「神の思し召しがあれば」「明日(いつやるか、という問いに答えての決まり文句)」「理のないこと(過ぎた事はしかたない)」。
 これはものすごいスーパー・キーフレーズです。この論法でこられたら、あらゆる交渉は吹っ飛んでしまいます。
 「いつできるの?」
 「明日」
 「できなかったじゃないか!」
 「それは理のないこと。過ぎたことをあれこれ言ってもしょうがないじゃないか」
 「で、どうするんだ?」
 「神の思し召しの通りに」
 「・・・」
 日本の商社マンも困ったことでしょうな、石油成金を相手にね。

 でも、考えてみれば、この三つのフレーズは人生、仕事、運命を考える時、極めて大事なポイントだと思うのです。
 「明日、やろうと思う。でも、できなければできないで、それでもいい。できないということがいちばん良かったんだ」
 ねっ、これならストレスは感じませんよ。
 フランス人なら、「ケ・セラ・セラ」というでしょうし、寅さんなら、「どうせ、人生、紙風船。明日は明日の風が吹く」てな具合です。
 だって、人生、どんなに頑張ったって、無理なことは少なくありません。努力しようがどうしようが、ならないことはならないんです。なることは、なんの苦労をしなくても、するするっとなるんです。

 じゃ、努力って何だろう?
 それは、掛け捨ての生命保険ですよ。努力すれば、奈落の底にまでは落ちない。どこかで引っかかる。首の皮一枚ね。
 努力したって、成功はしません。することもありますけど、しませんよ。だって、みんな努力してるんだもの。
 でも、努力して失敗したら、満足するでしょ。自分に言訳ができます。
 これが人間の不思議ですね。だって、努力しないから成功しないんでしょ、ホントは。 「だって、ボク、勉強しなかったもの。だから、ダメだったんだよ」
 このほうがよっぽど、論理的なんです。言訳としてはふさわしいんです。
 でも、そう考えない。努力したから、失敗しても満足する。それが人間です。

 では、中身を少しだけ紹介しておきましょうか。
 
 「神はおまえに一つのモノを与えて、もう一つのモノを取り上げる」
 「人間は考え、神が用意する」
 「一夜の無政府主義より数百年にわたる圧政のほうがましだ」
 「尊敬は富に与えられるが、人に与えられるものではない」
 「川を渡り終えるまでは、ロバにだって旦那様というものだ」
 
 イスラムには、慈悲、礼拝、巡礼、喜捨、断食という五つの義務があります。
 クウェートにいた時のこと、イスラムの祭りがありました。
 カフィーヤという頭巾をつけ、ワイシャツの裾を長くした民族服を着た社長が1人。近代的なオフィスの入り口のガラス戸を開けて、黒いベールで半分、顔を隠した婦人がおずおずと入ってきて、手を差し出します。
 喜捨をもらうためです。社長はいくばくかの金を渡します。
 「いくら上げたんですか?」
 日本円にすれば、五十円くらいのお金です。
 ただ、その婦人の腕にちらりと見えたのは金のブレスレット。金の装飾品はベドウィン(遊牧)の民にとって貯金なんですね。
 一時間くらいいた中で、もう一人、婦人が喜捨をもらいにきました。前の女性に比べると、数倍の金のブレスレットをしていたそうです。
 すると、社長はまた喜捨を施します。
 「今度はいくら上げたんですか?」
 「五百円です」
 十倍です。
 「前のご婦人のほうが貧しく見えましたが・・・」
 つまり、貧しい人にたくさん施すのが当たり前ではないか、と感じたわけですよ。たしかにそうですね。
 ところが、ここがアラブの知恵。
 「人間には身分相応ということがあります。富んだ暮らしをしている者にはたくさん与えねばなりません」
 貧しい人に恵むと言っても、「過度の寛大さは愚かさと同じ」なんですね。

 「幸福は持っている人には来るが、探している人には来ない」
 「たくさん持ちすぎているのは、足りないのと同じである」
 「もしも2人がうまくやっているように見えるなら、1人が耐えているのだ」
 「人は見かけでは半分しかわからない。会話ですべてわかる」
 150円高。購入はこちら


3 「黄金の言葉」
 マーロ・トーマス著 主婦と生活社 1500円

 心に沁みる50のストーリーと言う通り、功成り名遂げた人の「気づきのヒント」についてインタビュー取材でまとめた本ですね。
 いろんな人が出てきます。
 たとえば、バーバラ・ブッシュ、ヒラリー・クリントン、シンデイ・クロフォード、マイケル・アイズナー、ルドルフ・ジュリアーニ、ウービー・ゴールドバーグ、ラルフ・ローレンなどなど。
 
 アマゾン・ドットコムの創立者はジェフ・ベゾスですけど、彼は些細な言葉でお祖母さんを悲しませてしまいます。ちょうど、夏休みに祖父母の牧場で過ごしている時です。
 どこかのモーターホテルの広告で、「タバコを一回吹かすたびに寿命を2分縮める」と見たんですね。
 この人の祖母はスモーカーでした。車の中でもところかまわずタバコを吹かす。それが嫌で嫌でたまらない。
 彼は長いドライブの時に計算するんです。一回吹かすたびに2分・・・。ならば、祖母は一本吸い終わるのに20回吹かす。一箱には20本タバコが入っている。いままでざっと30年間吹かしてきたとしたら、どのくらい寿命を縮めたか。
 「おばあさんは、タバコを吸うことで、もう16年も寿命を縮めたよ」
 その論拠を理屈っぽく説明したんですね。祖母はわっと泣き出したそうです。それは期待していたことと真反対の行動でした。
 「おまえはよく計算できたね」と誉めてもらえると思ってたんですね。
 ところが、違った。祖母は相変わらず泣き続けている。祖父は車を止めて、外に出た。彼も一緒に出た。
 すると、祖父は彼の肩を抱いて、見つめてこう言ったそうです。
 「おまえもいつかわかるだろう。利口になるより、優しくなることのほうがずっと難しいんだよ」
 たしかに・・・。

 150円高。購入はこちら