2007年02月05日「墨攻」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 う〜ん、こりゃ、「荒野のガンマン」だな。真昼のガンマンでもいいけど。
 賞金稼ぎ?
 ちがう。
 用心棒?
 ちがう。
 助けを求められた国に行っては無償で軍師としての力を発揮する集団なのよ。墨子集団ってのは。
 主人公革離はこの墨子集団の中でも、いわば、原理主義者でね。組織から弾き出されちゃう。
 で、墨子集団の3代目の意向を無視して、弱小国の応援に1人で出かけちゃうわけ。
 で、1人で10万の敵に向かう・・・というヒーロー映画ね。

 これ、楽しみにしてました。「墨子」も読んでたし、漫画「墨攻」のファンだったからね。
 ただ、墨子集団(墨子の哲学に賛同する軍師たち)というのは戦国の世を秦が統一した頃から消えてなくなっちゃう。だから、資料が少ないのよ。
 しかも、哲学的でとっても深淵。つかみどころがない。だから、解説書を読んでもピンと来ないと思うな。


アンディ・ラウはいいね。
 
 この映画では、墨子集団の「兼愛」と「非攻」という二大精神をベースにはしてるものの、小難しい哲学は排除して描かれてます。

 まっ、墨子の「墨家十論」を紹介しておくとこうなります。

「兼愛」自分を愛するように他人を愛せ
「非攻」侵略と併合は人類への犯罪
「天志」天帝は侵略と併合を禁止する
「明鬼」鬼神は善人に味方して犯罪者を処罰する
「尚賢」能力主義で人材を登用せよ
「尚同」指導者に従って価値基準を統一せよ
「節用」贅沢を止めて国家財政を再建せよ
「節葬」贅沢な葬儀を止めて富を蓄えよ
「非楽」音楽に溺れず勤労と節約に励め
「非命」宿命論を信ぜず勤勉に労働せよ

 孫子に似てる?
 そう、似てます。「戦わずして勝つ」ことを優先している点は似てます。
 墨子の非攻というのは、あくまでも自分からは攻めない。専守防衛という意味だからね。この点が孫子とはちとちがうかも。

 紀元前の中国戦国時代は秦が統一すんだけど、その直前、まだ国が分かれて戦争やってた頃の話ね。

 大国に狙われた小国が墨子集団に応援を頼んだんだけど、梨の礫。
 墨子集団も3代目くらいの時代になると、超大国が統一してしまえば戦乱の世は収まるってね。これ、正解。けど、その間には血の雨が降るよね。

 そこで墨家の中でも対立が起こるわけ。
 革離は統一しなくても、「非攻」「兼愛」という墨子の基本精神さえあれば共存できると考えてるわけ。この点、三国志の孔明がパワーバランスによって共存を計ったのとは少しちがいます。
 そういう意味では、革離は戦争のプロではなく、やはり伝道師なんだよ。

 この映画、おとなの映画だと思うな。悲しいくらいハードボイルドに描かれてます。リアリズムというのかな。中国の古諺に「天の龍は地を這う蛇には適わない」というのがあんだけど、まさにそれ。
 意味?
 観ればわかるよ。超お勧め。